意思による楽観のための読書日記

6ステイン  福井晴敏 ***

「市ヶ谷」と呼ばれる防衛庁情報局の工作員たちを描く6つの短篇からなる作品。工作員たちと言っても普段は普通の生活をしている人々。タクシー運転手、主婦、引退したおじいちゃん。そういう人たちの日常の生活が、元その道のプロフェッショナルとして、極限状況の中で生き延びるために自分の真価を発揮するお話。登場する人物たちは心の中についてしまったステイン(染み)を拭いとるために戦います。本当のプロに徹しきれない過去を引きずってきた彼らの戦いは、田舎のローカル線での死闘であったり、ミニ原子爆弾の入ったアタッシュケースを巡る争奪戦だったり、機密の記された電子手帳を掏り取ったり、といった、戦い方こそさまざまであっても、自分の一番得意とする領域で復讐をします。
「いまできる最善のこと」千葉の夜のローカル線でなぜか乗り合わせたのは小学生一人、そこに乗ってきたもう一人の男、爆発、逃亡、小学生には危害を及ぼしたくない、と咄嗟にかばうが、プロの工作員としてはどうなのか、と自問自答。必死の思いで小学生のコンパスで、、、。
「畳算」市ヶ谷からの指示で、ひなびた民宿をタクシーで訪問、そこには身分を隠して生活しなければならない男を愛してしまった女性が、ひたすら彼の帰りを待ち続ける。元芸者の女性の強いプロフェッショナリズムと夫への思いに心を打たれるが、アタッシュケースは見つかり、そこでもう一つの事件が、、、。
「サクラ」女子高生?伝法真希?ガングロ女子高生。その正体はスゴ腕工作員のサクラ、工作員にはとうてい見えない相方、北からのスパイと通じ合う日本人を見張る、その時に、、、しかし、その事件がきっかけで真希はいなくなる。
「媽媽(マーマー) 」母である由美子が続いて出てきます。タイトルが「お母さん」。小さい子を家に残して後ろ髪をひかれつつ、情報局の業務に向かい、そこで出会った中国人に心を揺さぶる言葉をかけられる女性を描いている。「母親は家に帰れ」というターゲットの中国マフィアの男に心が揺れる。次の「断ち切る」の母親は由美子と先のマーマーに描かれなかったもう一人の母、息子がいて、それでいて幸せにしてあげられていない、負い目がある。
「断ち切る」断ち切り師、バッグの底をカミソリで切ってサイフを取るスリ師はとっくに引退し、息子夫婦の元で将棋を打ちながら生きてきた断ち切り師の男。ある女性にその能力で策略に協力して欲しいと頼まれる。母は子を育てるものという先入観は時代遅れだと思っているし、仕事もしたいが本能では子どものそばにいたいと思っている、そんな女性の微妙な心理。
「920を待ちながら」亡国のイージスの主役如月行が出てくる。普通の作家なら恥ずかしくてやらないと思うがサービス精神なのか、娯楽なんだからいいでしょ、という姿勢、悪くはない。タクシー運転手で市ヶ谷の非常勤スパイの男。若手で特殊工作スペシャリストの男。市ヶ谷の命令である標的を張る。それは十年前のある事件と,内部腐敗を正そうとする勢力との陰謀があった。
なぜか千葉と浅草ばかりで起こる事件、福井さんの地元?全部、親子の話。急に工作員の世界という非日常に引きずり込まれるストーリー展開で、のめり込んでしまうために、通勤電車で読んでいると乗り過ごす危険性大。ハードボイルドなのにこころを揺さぶってやろうというのが作者の意図か、結構揺さぶられる人もいるのではないか。
6ステイン (講談社文庫)
亡国のイージス 上 講談社文庫
亡国のイージス 下 講談社文庫
Op.(オペレーション)ローズダスト〈上〉 (文春文庫)
Op.(オペレーション)ローズダスト〈中〉 (文春文庫)
Op.(オペレーション)ローズダスト〈下〉 (文春文庫)
真夏のオリオン
Twelve Y.O. (講談社文庫)

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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