日本一有名な2世帯家族といえば、サザエさん一家。2世帯、3世代が同居するサザエ
さん一家は、長らく「日本の理想的な家庭」として見られてきた。
1974年に新聞での連載が終わってから40年経つ現在でもアニメ放送は続いており、
日本人の心に根付いているといっても過言ではない。しかし、時代の変化によって
日本人の家族観が変わりつつある今、サザエさん一家は本当に「理想的」なのだろう
か。
女性向けコミュニティサービス「ウートピ世論」では「あなたにとってサザエさんの
ような家庭は理想的? 」というアンケートを実施。アンケートは現在も集計中だが、
864人中、77%が「そうでもない」と回答(12月15日6時時点)。8割近くが「理想的では
ない」と感じる理由は何なのだろう。
● 高学歴な夫に専業主婦 サザエさん一家を求めるのは“洗脳”か
「ウートピ」は「女性をちょっと生きやすくするオンナ目線のニュースサイト」と
いうコンセプトのサイトで、社会派よりの記事も多い。女性の働き方やジェンダー
などに関心が高い層が多いと思われるため(回答者の男女比は不明)、回答結果も少し
その傾向はあるかもしれない。しかし、8割近くが「理想的ではない」という回答は
驚きだ。
まず、「理想的! 」と答えた人の意見を見てみよう(引用コメントは全て原文ママ)。
「平和でいいじゃん。誰もキリキリしなくて和むよ。来客がアポなしで来るのとか
驚くけど」
確かに磯野家=平和というイメージはある。サザエがカツオを追いかける風景も、
平和であればこそ。また、質問の意図とはズレるが、玄関をガラっと開けて
「こんにちは、いますかー? 」という風景が当たり前だった時代があることに驚く
というのも、もっともな意見。時代の移り変わりを感じさせる。
「外で働くより家事をのんびり楽しみたい主婦が多いのは地方住みだから?
出来れば家に居たい。地域活動、ボランティアも楽しみたいし磯野家には憧れる」
「あの家庭は高学歴な男が二人も働いていて年収もおそらく高く、おやつもご飯も
いつも完璧で憧れます」
サザエとフネは基本的には専業主婦(漫画ではサザエが家政婦のパートに出る描写や、
初期には婦人警官をしてみる描写もある)。共働き家庭が増えつつある現在では、
サザエさん一家=専業主婦家庭というイメージで見る人も多いのだろう。また、
マスオは早稲田卒だ。
「今の社会はあまりに個人主義過ぎに感じるから。三世代で暮らすと不自由な事も
我慢しなければいけない。身につくものが多いから」
三世代や二世帯で同居する煩わしさを避けられるなら避けたい!
という考えの人も多い中で、こういった肯定的な意見は珍しいかもしれない。
「でも、根本はみなサザエさんの家庭を求めてる気がする。それは洗脳? 」
サザエさんが理想の家庭。それを昭和から時代が変わっても続く「洗脳」で
「押しつけ」と感じる人が反対の選択肢を選んだのかもしれない。それでは、
「そうでもない」を選んだ人のコメントを見てみよう。
● 育児参加しない夫と自由でない女性 サザエさん一家は気持ち悪い?
「男性の目から見ると、マスオが可哀想すぎる痛々しくて」
一見楽しそうな一家だが、ムコであるマスオはタラオとしか血のつながりがない。
「時代錯誤だと思います」
肯定派の「古き良き」と対極にある意見。このほか、「古すぎる漫画。
そう、これは漫画だ。フィクション! 」「今や時代劇」という意見もあった。
「母子家庭、父子家庭、施設、老人と孫、みんな立派な家庭なんです。
標準ってなんだ? サザエさんみたいな家って気持ちが悪い」
「色んな家族の形があるんだからこれが一番いい! なんてないと思う。
バブル時代の幻想はもう捨てましょうや」
多様性を認めるべきというのであれば、サザエさん一家も認められるべきだとは
思うが、「サザエさん一家が最良の家庭のあり方」という括られ方は気持ちが悪いということなのだろう。ただ、サザエさんはバブル時代の漫画ではない。
「私は一人前の大人は自分の食い扶持は自分で稼ぐものと思っていますので、専業主婦家庭を理想的とは思わないからです」
「自民党が理想とする家族のあり方かな…」
確かに、男女の役割分担を唱え、専業主婦を奨励する保守派もいる。
「共働きしないと、生活が賄えない」という意見もあった。
「磯野家は女性エリアと男性エリアか完全に分かれている。マスオさんと
波平はいつも酔い潰れて帰ってくるか、和室のちゃぶ台で食べたり飲んだりしている
だけ。育児参加、してませんよね? 。夫がサザエさん好きで全巻持ってます。
子供達もしょっちゅう読んでいますが、はっきり言ってやめてほしい。気持ち悪い」
確かにそう見えるかもしれないが、マスオや波平、ノリスケが少ないお小遣いで
ちびちびとやりくりする描写もあるし、料理をつくることになった波平とマスオが
サザエとフネから、いつもの苦労がわかった? と聞かれる4コマもある。
男性の弱さもしっかりと風刺されており、時代の違いは仕方ないが、長谷川町子氏の
卓越した人物描写がアニメしか見たことのない人に伝わっていないとしたら残念だ。
「女性に自由がない」
この意見には、「男性にも自由がないよ。ほとんどの場合、働く事を強要されてる」というコメントがついた。漫画の中では、廊下で立ち食いをするタラオをサザエが叱ると、マスオが、彼もいずれは立ち食いそばを食べるサラリーマンになるんだからいいじゃないか! といった内容のことを言う場面がある。サラリーマンの悲哀は、昔より多少は多様化している現代よりも深かったのかもしれない。
「仕事しながら子育ては大変なのに社会制度、風潮、旦那は手伝ってくれない。
子育てや家事やるのはママだけじゃない世界に行きたい」
この意見には「サザエさんのような家庭なら、サザエが働くことも容易だと思う
けど」というコメントがついた。サザエが働きに出ても、タラオはフネに見てもらえる
し、カツオやワカメという遊び相手もいる。ご近所とも仲が良いし、サザエ自身も
まだ24歳だ。そう考えると、働こうと思えば周囲のサポートがあり、
これからキャリアを積むだけの時間もあるサザエはやはり恵まれているのかもしれない。
漫画に罪はないものの、ここまで有名な一家だと議論の対象とされやすい。
つけられたコメントから、現代の家族に対するさまざまな問題が見えた一方で、
「ひとつを理想とするのではなく、多様なありかたを認めるべきだ」という声が
強かったように思う。多くの世代が目にすることが前提だった新聞の4コマとして
連載するのには3世代家庭が合っていて、ネタ切れにもならないなどの都合もあったの
かもしれないが、連載開始当時は、やはり3世代2世帯家庭が時代背景とそれほど遠く
なかったのだろう。これから漫画家が新聞で4コマ漫画を描き始める際に選ぶのは、
どんな家庭だろう。それは、共働き家庭やシングルファザー家庭かもしれない。
だそうです。