福祉生活病院常任委員会の県外調査の2日目は熊本県庁から調査を開始しました。地下水保全条例を今年4月に改正し、10月に施行したばかりですが、日本で初めて、地下水は「公共水」と言い、許可制を採用するなど地下水を守るために厳しい条例になったと評価されています。今回の県外調査のメインです。
まず福田充・熊本県環境立県推進課長が「熊本は阿蘇という火の国であると同時に、水の国です。いまは「くまもん」の方が有名かもしれませんが、水に恵まれた地域で、熊本市周辺の水道は100%地下水です。そこで地下水を公共水と位置づけ、全県で許可制を導入したわけです」と挨拶を兼ねて、熊本県の水行政の概略を説明いただきました。
条例の改正については、実際に担当してきた坂本公一審議員から説明いただきました。以下は説明の概略です。
昭和の名水百選に4つ、平成の百選に4つ選ばれた。県も150カ所を名水に指定。水資源に恵まれた地域。蛇口からミネラルウォーター」と言っているが、市販のミネラルウォーターよりも、カルシウムやカリウムを含む美味しい水。県内では生活用水の8割、工業用水の4割を地下水に依存しており、特に人口100万人が集中する熊本地域は100%依存しているので、地下水が汚染や枯渇すれば県民の生活基盤が崩壊する。
熊本地域には年間20億トンの雨が降り、6億4000万トンが地下水として涵養されている。加藤清正のかんがい事業で白川の水が中流域の田畑に引かれ、大量の地下水を涵養することになった。
民法の規定で地下水は土地所有者に地下水利用権が認められるが、地下水は水循環の中にあり、流動しているので、みんなで使い、みんなで守る公共水と位置づけた。昭和53年に条例を制定
昭和59年から3度にわたり科学的調査を実施し、昭和61年に地下水保全対策会議を設置し、平成8年に第一次地下水総合保全計画、平成20年に第二次地下水総合保全管理計画を策定した。
平成22年の採取量は2億3300万トンで、平成12年からは23%減少した。水道用水は横ばいだが、工業用水、農業用水が減少した。県内33カ所の観測井戸を設けて水位を常時観測している。降水量と水位は相関関係にあるが、ここ30年で5メートル水位が低下した。湧水量は江津湖で見ると平成4年に日量49万トンあったものが、平成22年には41万トンと8万トンも減少した。水位や湧水の低下は、地下水の涵養量の減少が原因だ。平成9年の734万トンから563万トンに減少しているが、市街地が広がり、水田が減少したことで涵養域が狭くなったことがその理由だ。第二次地下水総合保全管理計画で目標涵養量6億3600万トン、採取量の上限を1億7000万トンを掲げ、平成36年までに達成することにした。もし、放置したら涵養量は平成36年には5億6300万トンにまで減ると予測されている。水質では硝酸性窒素が問題だった。
このような状況を踏まえて条例を改正した。改正前は届け出制だったので、実質的には自由に地下水を採取できた。水量保全の具体的な手段も十分ではなく、硝酸性窒素の汚染に対する規定もなかった。そこで、「公共水」「未然防止」「協働」を基本の視点に据え、改正のポイントは以下の6点だった。
【1】地下水は公共水と位置づけた。基本理念の規定を置き、地下水は水循環の一部をなし、県民生活と地域経済の共通基盤であることの県民意識を醸成しようとした。
【2】県・市町村・事業者による協働の取り組みの規定を置き、くまもと地下水財団を設立した。
【3】水質保全対策の強化として、①代替物質への転換と使用抑制の努力規定②対象事業所の点検、整備の努力規定③水質事故の公表④硝酸性窒素対策の根拠規定の4つの規定を設けた。
【4】重点地域の指定規定を設け、熊本地域を指定した。そして、重点地区での大口の採取に許可制を設けた。重点地域は19平方センチ以上、指定地域・その他は125平方センチ以上は許可制とし、それ以外は届け出制とした。既存の採取者は3年間の経過期間内に許可を受けるようにした。水量測定器の設置も義務づけた。
【5】地下水の合理的使用の規定を置いた。許可対象者は、合理計画を作成し、実行することを義務づけた。
【6】地下水涵養対策規定を置いた。県は涵養の指針を設け、許可対象者は涵養計画を作成し、実行することにした。涵養計画を実行できない場合は、採取量1立方メートルあたり0.3円の協力金の財団への支払いに代えることもできる仕組みも置いた。
改正については大口事業者から個別に意見聴取した他、素案説明会も5回開催し、377事業者が出席した。
その中では、「採取規制よりも開発行為の規制が先ではないか」「循環利用に莫大な投資をしている。こうした取り組みは評価して欲しい」「節水対策をすれば涵養対策を軽減してもいいのではないか」「涵養対策は地下水に料金を課すことになるのではないか」などの意見が出された。
質問にも答えていただきました。以下は質疑の主な内容です。
Q 地下水の理論武装ですが、県民方に理解は進んでいるのか。
A そこがポイントだった。改正の前に広報に努めた。新聞広告のほか、事業者説明会でアンケートしたが、公共水に反対の意見は1%程度で、事業者には理解いただけたのではないか。
Q 県条例と市条例の関係は
A 熊本市ともめたところ。市町村については適用しないことができるという。熊本市は3万トン以上の採取者には節水計画を立て、実行と報告義務を求めているが、県は許可制と、節水計画、涵養計画をリンクして、19平方センチ以上の採取者に義務づけた。県の報告書は市のフォーマットに合わせて、事業者の二度手間を省いた。
Q 県条例と市条例はセパーレートした方がいいのではないか
A 水の戦略会議を設けて、提言を受けた。その流れの中で、県民の意識を高めて条例につなげていった。熊本市が先行して条例を作ったという自負もあった。しかし、熊本市は使う方。涵養域の10市町村が足並みを揃えることが大事。調整は丁寧にすべき。県条例に上乗せすることは可能だと思う。
Q 地下水の流動の調査は。そのレベル、費用は。
A 初めは59、60年度に実施し、これまでに3回した。県と市で費用は折半、最初の県費は4900万円。二度目は6800万、三度目は500万円。総額はこの倍になる。
Q ボーリングなどの費用も含んでいるのか
A ボーリングや観測井戸の掘削費は別
Q 届け出制と許可制を分けた19平方センチの根拠は
A 6平方センチという一般家庭用よりも大きいものを届け出制でスタートさせた。採取量でするのか、断面積とするのかという議論はあった。採取量の方が実体的にはいいが、予定採取量でしかない。客観的なのは断面積。19センチと50センチで議論したが、地盤沈下防止の条例や法令を参考にした。19センチならほとんど網がかかる。許可制は厳しい規制なので、届け出制の6センチでの移行を無理と考えた。熊本の地下水規制では涵養対策がポイントだった。許可と節水と涵養をリンクさせた。届け出者にも、できることはやって欲しいと指針でお願いをした。
Q 許可しないときの根拠は
A 観測井戸のうち15本は熊本地区。海辺のものを除くと12本の水位は下がっている。特に涵養域で下がっている。大口採取地の周辺の井戸のうち、何本かを調べることも考えたが、民間業者には厳し過ぎるという意見があった。井戸を掘るときには揚水試験をすればかなりわかる。そこで、揚水試験の結果を見せてもらい、職員も立ち会わせてもらうようにした。採取が過剰でないものでなければ良いとして、新制度を動かすことを優先した。
Q 鳥取県では工業用水を特別会計でやっているが、使用量がどんどん減っている。誘致企業はコストから水を地下水に求めているところが増えているからだ。熊本ではどうか。
A 企業局が工業用水は河川で取水して3箇所でやっている。いずれの工業団地も工業用水を使っていて、地下水に切り替えた企業は聞いていない。
Q 工業用水だと汚染の心配はないのか
A 工場排水は水質汚濁防止法などで規制があり、出口で監視している。企業規模に対応する形で、行政検査もしている。
Q 許可したが、周辺の井戸へ影響が出た場合はどうするのか
A 因果関係の特定は難しいところですね。許可の取り消しができるという規定はある。
Q 届け出と許可の用途を出す意味合いは。水量計へ補助金はあるのか。
A 用途で規制することではなく、貴重な資源なのでどう使われているのか。水量計設置に対して1/2で10万円の補助金を出しているが、水量計の価格は補助金の申請書を見る限りでは三十数万円とか、20万円とかで、持ち出しが多いのが現状だ。
Q 公共水と位置づけ、届け出制を採用すると、県は地下水の管理権を確立できるが、そうなると管理責任も発生するのではないか。地下水は不可視的だから地下水被害が発生したときに県の管理責任が追及され、原因者へ法的責任が追及されなくなるのではないか。
A 公共水は理念としての位置づけで、管理権を考えたわけではない。そんな考え方でやっていきましょうということ。地下水は無制限ではない。みんなで守るべき水だと県民の皆さんに意識して欲しいという思いでの規定だ。この地下水条例だけで地下水を守ろうとは思っていない。みんなで地下水を守っていく県民運動とセットにしている。
Q 改正に際し、企業の反応、特に誘致企業はどうか
A 誘致企業との話の場を設けている。
Q 地下水が県民の財産とすると、県外企業がくみ上げ、県外にミネラルウォーターとして販売するようなケースでは1本あたり1円を課金するなど地方税の導入の検討はあったか
A 地下税の検討をしたことはあるが、課税対象を把握できるのかという疑問や、地下水の利用に偏在があるという問題があり、県税として税の導入は難しいという結論になった。そこで、地下水財団に取水量に合わせて負担金を出してもらうという形を取った。山梨県もミネラルウォーター税の導入を検討されたが見送られたと聞いている。
Q 企業に涵養や節水を求めているが、本気で涵養や節水をしようとすると大きな設備投資が必要となる。抵抗はないのか
A ISOの取得などの環境政策で大企業は先行しており、大企業では反発はなかった。むしろ、中小企業の方に、これまで取水して商売してきたのに、そこに規制が加わるのかという感じで反発はあった。節水については、 できることは何か考えて、やれることをしてくださいというスタンス。節水はやっているところは、かなり進んでいて、さらに新しい節水はできないという企業もあり、一概に節水を、お願いをしているわけではない。涵養については管理計画の目標に近づいていかないといけないので、取水量の1割の涵養を求めている。しかし、できない企業もあるだろうから、そのときは地下水財団への協力金の支払で代替できるような仕組みも設けた。
県庁での聞き取り調査の後、大菊土地改良区へ向かいました。車窓から熊本城が見えました。
加藤清正公はお城だけでなく、地下水の国くまもとを創造したんだと思うと、荒々しい戦国武将というイメージが少し変わったように感じました。
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