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伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

御鹿祭り

2010-07-18 23:40:41 | 歴史から学ぶ

  箕輪町木下にある南宮神社の例祭が今日行われた。長野県民俗の会例会は、この例祭の見学から始まった。そもそも祇園祭なら解るが、この季節に例祭が行われるというあたりから少し変わっている。祭りでは御鹿(おしし)の奉納が行われる。『みのわの年中行事』によれば「永禄元年(1558)に箕輪地方に大干ばつがあり、時の箕輪城主が南宮神社に雨乞い祈願をしたところ、感応があって雨が降ったため、神前に御鹿75頭を供えて奉賛の神事を行なったのが始まり」という。ここから一般に雨乞いの祭りと言われているが、祭りそのものは諏訪神社御頭祭など諏訪神社のしくみによく似ている部分が多い。ようは雨乞いレベルの民間信仰的な祭りではなく、もっとしっかりした神社信仰の上に成り立った祭りという印象を強く受ける。

 午前11時半ころ(今日は11時40分と言う日程だったよう)足洗い場と言われる南宮神社東方の休み場所を出発した行列が、西進して国道に出ると、南宮神社の西側より入り境内の入口で行列を従えてきた先導が言上を述べ、それを神社側が迎えるという儀式があって、境内に入った行列は反時計周りに3周回って終わる。これが御鹿祭りとか鹿頭行列と言われている部分である。「踊り」とは言われているものの、とくにそれらしい所作はなく、行列を組んで神社に向かい、神社で3周行列が回るだけのもの。芸能といっても行列が風流系行列と捉えられるが、あとは鳴り物である太鼓が踊りを想像させるくらいだろうか。とはいえ、今年の太鼓は太鼓の前後に2人が付いて担ぐという形で、いわゆる太鼓踊り風の雰囲気もない。御鹿祭りそのものはさほど見るべきものもないシンプルなものである。ところがこの祭り、前述したように永禄元年に始まるというほどに中世まで遡るほどの古い祭りである。近年見つかったとされる古文書に「鹿踊之由来」なるものがあって、記載年代が記されていないが「元和元年六月廿七日より木下村南宮大明神へ地頭小笠原兵歩太夫様、天下泰平之御願御祈ニヨリテ、鹿頭福与村福嶋村へ七拾五頭、大泉村へ七拾五頭、隔年二出シ来り候。」とある(竹入弘元「箕輪南宮神社「鹿踊り」の古文書発見」『伊那路』633)。行列のメインはこの75頭の鹿なのである。その鹿とは、現在子どもが頭上に鹿頭を冠して参加することになっている。もともとは鹿75頭が献上されたものなのか、当初より児童によって鹿を代用していたのかは解らない。しかし、75頭もの鹿の献上となると並みの数ではない。諏訪御頭祭でも75頭の鹿が奉納されたともいい、そもそも75頭がどういう意味を持っていたかという部分は、諏訪も含め究明されなくてはならないことなのだろう。そして、ここ南宮神社の特徴的なことは、鹿を奉納する村が限定されていたことである。今でこそ天竜川以西では大泉・大泉新田・大萱・富田、以東では福与、福島が関わっているとされるが、先行研究ではそれ以外の村も関わっていたという報告もある。木下南宮神社とはいえ、地元木下ではこの祭りにはほとんど関係せず、奉納をする村々を迎えるのみなのである。いっぽう奉納する村々は、箕輪郷と言われた今の行政範囲を越えた地域が加わっており、現在の行政区域を意識していると、とても違和感を覚えてしまうのである。「大・福・富」の付いた村々に奉納させたということが一般的に言われているものの、実際にはそれ以外の名前の村もかつては奉納に加わったとも言うから、奉納にかかわった村々がどういう村だったのか、興味が湧くのである。また実際は天竜川を挟んで西と東は隔年で奉納しており、1年に両者が奉納するわけではない。そして現在はそれぞれに25頭程度の鹿を奉納しており、これは奉納数が減少してきたという話もされているが、もともとはそれぞれが75頭だったのか、合計75頭だっのか、そのあたりもはっきりとはしないのである。

  例会の中で、同じようなイメージでポピュラーなの祭りを見た記憶がある、と参加者の中から意見があってわたしも同調したのだが、あらためて帰宅してから描いてみるがなかなか見つからない。近在でイメージが近いものが旧上村下栗のかけ踊りの行列に加わる小女郎である。笠を被りその笠の周囲にシデが垂れていて、小女郎を担う中学生くらいの女の子は踊りの行列に参加して笠を手で押さえて前後するだけの動きのない所作をするのである。笠を深く被っているから南宮神社御鹿同様、顔を隠すような、そして動きのない所作は雰囲気が似ている。そういえば下栗の掛け踊りの意味は雨乞いだと言われている。


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