Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

野沢温泉の道祖神祭りを訪れて⑤

2016-02-01 23:15:14 | 民俗学

野沢温泉の道祖神祭りを訪れて④より

 

初灯篭

 初灯篭のことは「これもまた、御柱」で触れた。今年は3本の初灯篭が奉納されたが、本来は長男である初子が生まれた時に奉納するもの。したがって次男以降や女の子には無縁だったのだが、少子化によってそうも言っておられず、今は子どもが生まれると献灯されるようだ。いわゆる花灯篭の形式のもので、そま高さは9メートルにものぼる。柱のてっぺんに御幣が付けられ、その下に傘鉾、そして菱灯篭を挟んでまさに花の形に柳がつけられる。36本を結わえるというが、この36の数は奥信濃を中心に秋季祭典に行われるトーローヅレに登場する三十六歌仙の灯篭に通じるものなのだろう。柳の垂れる中にも万灯篭が付けら、最下段には書き初めが竹ノ輪の周囲にたくさん貼られる。素材は異なるが、3段の傘鉾と言っても良いかもしれない。最上部はまさに傘鉾そのもの。2段目は柳形状がされで、最下段の習字そのものも傘鉾のようなもの。

 正月11日には初子のある家ごとに作られ家の前に建てられるが、1本奉納するのに100万円とも。お金がかかるから初子ができたからといってやすやすとは奉納できない。今は祭りを執行する野沢組が金銭的支援をするともいう。傘鉾の下に丸提灯が三つ、菱灯篭に柳の中の万灯篭といずれも今は蝋燭を灯すのではなく、電球で灯す。その形の基本形は3本とも同じで、装飾が異なるくらいのもの。15日午後、道祖神場にこの灯篭を建てておけるように櫓を組むのは、それぞれ奉納する家の関係者である。道祖神場まではいったん灯篭を分解して運ぶのだという。午後7時半ごろには道祖神場に到着する。この立派な灯篭も、社殿に火が入ると終盤にはその火の中に投じられ燃やされる。子どもの成長を願って作られ、ここに一切の災厄を負わせて燃やすというわけだ。

 さてこの花灯篭のタイプ、小正月の御柱の一種と述べたのは「御柱」と称している松本平のものが道祖神の祭りのひとつとして捉えられているからだが、同様に野沢温泉でも小正月の道祖神祭りに登場することからそう捉えて紹介した。しかし、こうした花灯篭のタイプは、長野県内においては道祖神祭りに登場するのではなく、通常の祭典に登場するのが一般的。とりわけ奥信濃では前述したようにトーローヅレなどと称し、さまざまな灯篭が練る。その中に花灯篭が加わる例も多く、野沢温泉の道祖神祭りに登場する初灯篭ほど丈はないが、形状はとても似たものが祭典を彩る。祭りの中では脇役的存在のため、あまり取り上げられることはないが、傘鉾タイプの花灯篭の事例は多い。「北信濃神楽採訪」は、奥信濃の神楽をほぼ網羅しているページだ。例えば栄村極野十二社の花灯篭を見てみよう。傘鉾、菱灯篭、柳といった具合の形状は同じである。同じようなものは、栄村箕作豊高嶋神社のほか、傘鉾はつかないが、柱の先に御幣を付け柳を垂らす形状のものは、飯山市富倉の「ひゃっとう」で知られる富倉神社秋祭りに「ひゃっとう」の舞う背後に花を咲かせている。また北安曇郡小谷村の深原諏訪神社秋祭りの花灯篭では、24本もの灯篭が奉納される。いずれも柳型のもので、小正月であれば御柱である。

続く

飯山市富倉花灯篭(S.62.9.14)

 

 

 


コメント    この記事についてブログを書く
« 今日話題の“雨氷” | トップ | 野沢温泉の道祖神祭りを訪れて⑥ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

民俗学」カテゴリの最新記事