紙風船/赤い鳥
コトリンゴ - 悲しくてやりきれない [LIVE]
The Kinks ::::: Come Dancing.
3.
私は北へ真っ直ぐ続く道路を自転車で、その道路が二別れになる手前西側の第一キャンパスに向かっていた。道路の両脇には他のキャンパスの建物が、途中運動施設を挟んで続いていた。
駅から20分程ぎーこぎーこと漕いできたのだけれど、上りだからまだまだと思っていたところ、第一キャンパスの門と入口が見え、ふー、と息を吐くとそこへ左側に弧を描くようなイメージで侵入していき、大学門壁の裏にある駐輪場に自転車を突っ込んだ。
第一キャンパスには大学本部棟があり、その西には人文・社会系、後ろに自然科学系の練、中庭を挟んで学食と文科系のサークル館があった。
夏休みということもあって、学生の姿もまばらだった。
自転車を降り、腕時計を見ると午前10時5分前、サークル館に用がある私は、急がなくっちゃ、と思い少し走り気味に歩き、大学本部棟の前を通り過ぎようとした。
すると軽快だ、と思い交互に動かしていた私の脚は何故か突然膝に力が入らなくなり、左右の足が絡まるとまずは膝から、そして咄嗟に顔を肘から下の両腕で囲って守ったのはいいのだけれど、舗装された大地にこれでもかというほど両腕を打ち付けてしまった。
いてぇ。
擦れたという感覚はなかったのだけれど膝と両腕は痛みとともに強い痺れがあり、しばらくダンゴムシのように体を丸めた態勢で立ち上がることが出来なかった。
その状態は随分長く感じたが、せいぜい3分くらいだったと思う。「まじい・・」と時間を思い出し、手をつきながら顔を少し上げた。
すると目の前を紺色の厚いカーテン(少なくとも私にはそう見えた)のようなものが私の視界をふさぎ、なんだろうと思って少しずつ見上げると、その先には私を覗くように向けた顔と不思議そうに見つめる二つの目があった。
うわぁ!
驚き、そのまま後退りしながらもすっと立ちあがり、冷静さを装ってTシャツとジーンズの尻辺りを、埃を払うようにパンパンした。
「なにしてんの?」
声がしたのであらためて前にいる恐らく人間であろう物体を見ることにした。
女だった。可愛いけど眉が太い男顔。髪は肩まで、細身で170くらいの高身長。
・・・ふむふむ。
そこまで素早く観察したのだけれども、なんかおかしい。
あちゃー、帽子とジーンズかぁ。
今度は全体を見るようにしたら気づいた。
帽子は赤白の野球帽で闘牛ロゴ(多分近鉄バファローズ)、ジーンズは紺のバギーパンツってやつだと思うけれど短すぎてくるぶしよりかなり上で・・・・、可愛いのに。
そして、ちんちくりんだぁ、と私は思った。
それからその気持ちは隠して「いやいや、ちょっとフラッときちゃって」
少し憐みを頂戴するような感じで私が言うと、
「ふーん」と、ちんちくりんはつまらなそうに返した。しかもポケットに手を突っ込んで。
その態度に私はむかついた。
それでへりくだりながらも、でも皮肉を込めながら、
「あのー、確かに他人だし初対面だしそうなんだろうけど、でもこういう時ってどんな人だって普通は大丈夫、とか、気を付けてとか言うんじゃないか?普通ならね」
すると、ちんちくりんは
「・・・・しょっちゅうだから」
寂しそうな顔を一瞬見せ、それから大学本部棟の上部に掛けてある大きな時計を見上げながら歩き始め、すれ違いざま私に向かって右手を挙げた。
一瞬、鼻腔をくすぐる何かを感じた。
まずい、俺もサークル館に行かなくちゃ。
脳天気な私は「何か」の正体に気付くことなくサークル館に向かった。
私はあの時、あの娘の「女の子の匂い」を確かに感じたと今では言える。
そして記憶はそのときの匂いの感覚までも思い起こさせるものだとあらためて知った。
続く。さて明日は如何に・・・。
コトリンゴ - 悲しくてやりきれない [LIVE]
The Kinks ::::: Come Dancing.
3.
私は北へ真っ直ぐ続く道路を自転車で、その道路が二別れになる手前西側の第一キャンパスに向かっていた。道路の両脇には他のキャンパスの建物が、途中運動施設を挟んで続いていた。
駅から20分程ぎーこぎーこと漕いできたのだけれど、上りだからまだまだと思っていたところ、第一キャンパスの門と入口が見え、ふー、と息を吐くとそこへ左側に弧を描くようなイメージで侵入していき、大学門壁の裏にある駐輪場に自転車を突っ込んだ。
第一キャンパスには大学本部棟があり、その西には人文・社会系、後ろに自然科学系の練、中庭を挟んで学食と文科系のサークル館があった。
夏休みということもあって、学生の姿もまばらだった。
自転車を降り、腕時計を見ると午前10時5分前、サークル館に用がある私は、急がなくっちゃ、と思い少し走り気味に歩き、大学本部棟の前を通り過ぎようとした。
すると軽快だ、と思い交互に動かしていた私の脚は何故か突然膝に力が入らなくなり、左右の足が絡まるとまずは膝から、そして咄嗟に顔を肘から下の両腕で囲って守ったのはいいのだけれど、舗装された大地にこれでもかというほど両腕を打ち付けてしまった。
いてぇ。
擦れたという感覚はなかったのだけれど膝と両腕は痛みとともに強い痺れがあり、しばらくダンゴムシのように体を丸めた態勢で立ち上がることが出来なかった。
その状態は随分長く感じたが、せいぜい3分くらいだったと思う。「まじい・・」と時間を思い出し、手をつきながら顔を少し上げた。
すると目の前を紺色の厚いカーテン(少なくとも私にはそう見えた)のようなものが私の視界をふさぎ、なんだろうと思って少しずつ見上げると、その先には私を覗くように向けた顔と不思議そうに見つめる二つの目があった。
うわぁ!
驚き、そのまま後退りしながらもすっと立ちあがり、冷静さを装ってTシャツとジーンズの尻辺りを、埃を払うようにパンパンした。
「なにしてんの?」
声がしたのであらためて前にいる恐らく人間であろう物体を見ることにした。
女だった。可愛いけど眉が太い男顔。髪は肩まで、細身で170くらいの高身長。
・・・ふむふむ。
そこまで素早く観察したのだけれども、なんかおかしい。
あちゃー、帽子とジーンズかぁ。
今度は全体を見るようにしたら気づいた。
帽子は赤白の野球帽で闘牛ロゴ(多分近鉄バファローズ)、ジーンズは紺のバギーパンツってやつだと思うけれど短すぎてくるぶしよりかなり上で・・・・、可愛いのに。
そして、ちんちくりんだぁ、と私は思った。
それからその気持ちは隠して「いやいや、ちょっとフラッときちゃって」
少し憐みを頂戴するような感じで私が言うと、
「ふーん」と、ちんちくりんはつまらなそうに返した。しかもポケットに手を突っ込んで。
その態度に私はむかついた。
それでへりくだりながらも、でも皮肉を込めながら、
「あのー、確かに他人だし初対面だしそうなんだろうけど、でもこういう時ってどんな人だって普通は大丈夫、とか、気を付けてとか言うんじゃないか?普通ならね」
すると、ちんちくりんは
「・・・・しょっちゅうだから」
寂しそうな顔を一瞬見せ、それから大学本部棟の上部に掛けてある大きな時計を見上げながら歩き始め、すれ違いざま私に向かって右手を挙げた。
一瞬、鼻腔をくすぐる何かを感じた。
まずい、俺もサークル館に行かなくちゃ。
脳天気な私は「何か」の正体に気付くことなくサークル館に向かった。
私はあの時、あの娘の「女の子の匂い」を確かに感じたと今では言える。
そして記憶はそのときの匂いの感覚までも思い起こさせるものだとあらためて知った。
続く。さて明日は如何に・・・。