【中田裕二】 Special Live ①
Choir! Choir! Choir! & Patti Smith sing "PEOPLE HAVE THE POWER" in NYC with Stewart Copeland
「Solstice」 LUCA
小説のカテゴリーで、初めから読めます。
(ちんちくりんNo,6)
―おい、なあおい!―
圭太が横から体を乗り出して、僕の目の前、10㎝辺りのところで掌を見せ、腕を上下に振っている。
「なに!?」
僕が驚いて圭太の方を見遣ると、彼は眉間に皺を寄せて目を吊り上げ口を少し尖らせていた。
「おまえ、心ここにあらへんなぁ」
「へ?」
「なにか心配事でもあるん?」
「いや別に」
「ほうか、なんやらぼーっとしてたで」
「そうそう」
圭太の怪しげな関西弁に左奥に座っている貢が相槌を打った。
「ちょっとな、お前らと出会った時のことをさ」
「感傷に浸ってたんかいな」
「小説家の海人君はロマンチストだから」
貢のその言葉に僕はハッとなり、書きかけの原稿に目を落とした。まだ三十枚、ここからどう物語を進めていけばいいのだろう。
目の鋭い先輩に勧められて僕は仮入部届を出した。名簿用紙に名前を書いていると受付に座っているもう一人の先輩が「おお、これで同志がまた一人増えた」、顔を綻ばせながら声を上げた。それから僕はオリエンテーリングの会場である第三キャンパスの正門を出、そのまま歩きで30分ほどかかる下宿先へ帰るつもりだったのだがふと目についた駅前の喫茶店の様相に何故か”おいでおいで”をされているように感じ、誘われるままに入ったのだった。
「いらっしゃいませ」
僕は窓側奥のテーブル席に座った。意外に明るく周囲の壁は長い板が幾重にも縦に連ねられていた。入口すぐのカウンターに5席、4人座れる丸テーブルが4つ。お冷とお手拭きを持ってきた女性店員にコーヒーを頼んだ。カウンター内のマスターはサイフォンでコーヒーを入れている。ロートに入れた挽き豆、フラスコ内の水が沸騰してロート内に入り込み、それをマスターがゆっくり丁寧に攪拌していた。
店内には僕と少しばかり離れた隣の席に、学生らしき若者が二人向かい合わせに座っていた。同じ大学の新入生かな、と感じしばらくの間悪いと思いながら聞き耳を立てていたら、”映画研究部”という言葉が聞こえてきて、思わず顔をそちらの方へ向けてしまった。その僕の動きに反応したのか彼らも顔をこちらに向けてきた。10秒間見つめ合った。すると二人の内一人、僕の席の線上に座った男が顔を綻ばせ奇妙なイントネーションの関西弁でこうのたまった。
「おんなし大学やろぅ、自分。ならこっちけえへんか」
こうして僕は標圭太と如月貢に出会い、それから四年間を共にすることになったのだった。
Choir! Choir! Choir! & Patti Smith sing "PEOPLE HAVE THE POWER" in NYC with Stewart Copeland
「Solstice」 LUCA
小説のカテゴリーで、初めから読めます。
(ちんちくりんNo,6)
―おい、なあおい!―
圭太が横から体を乗り出して、僕の目の前、10㎝辺りのところで掌を見せ、腕を上下に振っている。
「なに!?」
僕が驚いて圭太の方を見遣ると、彼は眉間に皺を寄せて目を吊り上げ口を少し尖らせていた。
「おまえ、心ここにあらへんなぁ」
「へ?」
「なにか心配事でもあるん?」
「いや別に」
「ほうか、なんやらぼーっとしてたで」
「そうそう」
圭太の怪しげな関西弁に左奥に座っている貢が相槌を打った。
「ちょっとな、お前らと出会った時のことをさ」
「感傷に浸ってたんかいな」
「小説家の海人君はロマンチストだから」
貢のその言葉に僕はハッとなり、書きかけの原稿に目を落とした。まだ三十枚、ここからどう物語を進めていけばいいのだろう。
目の鋭い先輩に勧められて僕は仮入部届を出した。名簿用紙に名前を書いていると受付に座っているもう一人の先輩が「おお、これで同志がまた一人増えた」、顔を綻ばせながら声を上げた。それから僕はオリエンテーリングの会場である第三キャンパスの正門を出、そのまま歩きで30分ほどかかる下宿先へ帰るつもりだったのだがふと目についた駅前の喫茶店の様相に何故か”おいでおいで”をされているように感じ、誘われるままに入ったのだった。
「いらっしゃいませ」
僕は窓側奥のテーブル席に座った。意外に明るく周囲の壁は長い板が幾重にも縦に連ねられていた。入口すぐのカウンターに5席、4人座れる丸テーブルが4つ。お冷とお手拭きを持ってきた女性店員にコーヒーを頼んだ。カウンター内のマスターはサイフォンでコーヒーを入れている。ロートに入れた挽き豆、フラスコ内の水が沸騰してロート内に入り込み、それをマスターがゆっくり丁寧に攪拌していた。
店内には僕と少しばかり離れた隣の席に、学生らしき若者が二人向かい合わせに座っていた。同じ大学の新入生かな、と感じしばらくの間悪いと思いながら聞き耳を立てていたら、”映画研究部”という言葉が聞こえてきて、思わず顔をそちらの方へ向けてしまった。その僕の動きに反応したのか彼らも顔をこちらに向けてきた。10秒間見つめ合った。すると二人の内一人、僕の席の線上に座った男が顔を綻ばせ奇妙なイントネーションの関西弁でこうのたまった。
「おんなし大学やろぅ、自分。ならこっちけえへんか」
こうして僕は標圭太と如月貢に出会い、それから四年間を共にすることになったのだった。