John Denver - Take Me Home, Country Roads (Live from The Wildlife Concert)
Bessie Smith - St.Louis Blues (1929)
サンタラ - バニラ @京都 磔磔 2020/11/29
N.S.P. 「ゆうやけ」
(ちんちくりんNo,13)
何から訊けばいいのだろうか、と考えていたらテーブル上のスケッチブックがふと目に留まり、少しだけ間が空いて気まずくなりかけた空気をこれで払拭できるだろうと僕は、それを話題にして少しずつかほるのことを訊いていこうと決めた。
「スケッチブック」
僕はテーブルの上のそれを指さした。
「えっ」
彼女は小さくはっとしたが、ああこれね、とすぐに前にあるスケッチブックを手に取り僕の目前に差し出した。
「見たいのかな」
「いいのかい」
「驚くよ」
ぼくは「ありがとう」を言って受け取り、テーブルの上に置いて一呼吸おいてからスケッチブックの表紙を開いた。
―ほう、これは何というか。
確かに驚いたのだった。一瞬にして、彼女の世界に・・・。
そこに描かれていたのは大きなピエロの顔。鉛筆でのラフデッサンってやつだろうが、いくつもの線で表現された陰影、顔の輪郭、ピエロのメイク、一見いいかげんに引かれた線が見事に立体をつくっている。中でも一番惹かれたのはピエロの表情。なんともいえない哀愁のある眼球、目頭から無造作に引かれた短い曲線がより一層ピエロの哀しさというものを際立たせている。僕は次々にページを開いてみた。バレリーナ、石膏像、躍動するダンサー、男性の横顔、女性の愁いを帯びた表情、ヌードデッサンまであった。素晴らしい。飽くまでも僕の感性による素人目によるものであるが。
「どうかな」
かほるは自信なさげに伺いを立ててきた。―さっきまで「驚くよ」と自信たっぷりにしていたくせに。
「驚いた」
「もしかして褒めてる?」
「凄い、素晴らしい、上手い」
「なんか皮肉に聞こえるけど」
「これ以外に、感動したことを表現する術を俺は知らない」
ありがとう。
かほるは小さく微笑んだ。
「ところで、質問」
「なにか」
「バレリーナ、ダンサー、ヌードデッサンってみんな同じ顔に見えるけど、モデルいるの?」
ああ、かほるは僅かに躊躇いがちな息を吐き、逡巡しているようだったが僕の下世話な質問に答えてくれた。
「・・・姉なの。モデルになってもらったわけじゃなくてイメージだけど」
「姉さん、そう。・・・もう一ついいかな」
「どうぞ」
「君は美大生?ここの大学じゃないよね」
出来るだけ優しく尋ねたつもりだったが、この質問にかほるは急に目を伏せてしまった。別に問い詰めている訳ではなかったのだが。
かほるは黙り切りになってしまった。最初は明るく積極的な女の子だな、と思ったが彼女は案外繊細なところがあるのか。
このまま、ここを離れるか。そう思ったのだが僕は何故かそうしたくなかった。いや、むしろ彼女をここから連れ出したいという気持ちが沸々とわいてきてしまった。
何故、どうして・・・困ったな、何かいい手立ては―、そう考えたらふと思いついた。いい考えだ。
「ねえ、君。例えば洋服のデザイン何かは描けるかな」
かほるはその言葉に顔を上げ、僕の顔を不思議そうに眺めながら―はい、と呟くように答えた。
―じゃあ、来てほしい所があるんだ。言うが早いか、僕はスケッチブックとかほるの足元のトートバックを持ち、彼女の柔らかな手を引いて駆け出していたのだった。
Bessie Smith - St.Louis Blues (1929)
サンタラ - バニラ @京都 磔磔 2020/11/29
N.S.P. 「ゆうやけ」
(ちんちくりんNo,13)
何から訊けばいいのだろうか、と考えていたらテーブル上のスケッチブックがふと目に留まり、少しだけ間が空いて気まずくなりかけた空気をこれで払拭できるだろうと僕は、それを話題にして少しずつかほるのことを訊いていこうと決めた。
「スケッチブック」
僕はテーブルの上のそれを指さした。
「えっ」
彼女は小さくはっとしたが、ああこれね、とすぐに前にあるスケッチブックを手に取り僕の目前に差し出した。
「見たいのかな」
「いいのかい」
「驚くよ」
ぼくは「ありがとう」を言って受け取り、テーブルの上に置いて一呼吸おいてからスケッチブックの表紙を開いた。
―ほう、これは何というか。
確かに驚いたのだった。一瞬にして、彼女の世界に・・・。
そこに描かれていたのは大きなピエロの顔。鉛筆でのラフデッサンってやつだろうが、いくつもの線で表現された陰影、顔の輪郭、ピエロのメイク、一見いいかげんに引かれた線が見事に立体をつくっている。中でも一番惹かれたのはピエロの表情。なんともいえない哀愁のある眼球、目頭から無造作に引かれた短い曲線がより一層ピエロの哀しさというものを際立たせている。僕は次々にページを開いてみた。バレリーナ、石膏像、躍動するダンサー、男性の横顔、女性の愁いを帯びた表情、ヌードデッサンまであった。素晴らしい。飽くまでも僕の感性による素人目によるものであるが。
「どうかな」
かほるは自信なさげに伺いを立ててきた。―さっきまで「驚くよ」と自信たっぷりにしていたくせに。
「驚いた」
「もしかして褒めてる?」
「凄い、素晴らしい、上手い」
「なんか皮肉に聞こえるけど」
「これ以外に、感動したことを表現する術を俺は知らない」
ありがとう。
かほるは小さく微笑んだ。
「ところで、質問」
「なにか」
「バレリーナ、ダンサー、ヌードデッサンってみんな同じ顔に見えるけど、モデルいるの?」
ああ、かほるは僅かに躊躇いがちな息を吐き、逡巡しているようだったが僕の下世話な質問に答えてくれた。
「・・・姉なの。モデルになってもらったわけじゃなくてイメージだけど」
「姉さん、そう。・・・もう一ついいかな」
「どうぞ」
「君は美大生?ここの大学じゃないよね」
出来るだけ優しく尋ねたつもりだったが、この質問にかほるは急に目を伏せてしまった。別に問い詰めている訳ではなかったのだが。
かほるは黙り切りになってしまった。最初は明るく積極的な女の子だな、と思ったが彼女は案外繊細なところがあるのか。
このまま、ここを離れるか。そう思ったのだが僕は何故かそうしたくなかった。いや、むしろ彼女をここから連れ出したいという気持ちが沸々とわいてきてしまった。
何故、どうして・・・困ったな、何かいい手立ては―、そう考えたらふと思いついた。いい考えだ。
「ねえ、君。例えば洋服のデザイン何かは描けるかな」
かほるはその言葉に顔を上げ、僕の顔を不思議そうに眺めながら―はい、と呟くように答えた。
―じゃあ、来てほしい所があるんだ。言うが早いか、僕はスケッチブックとかほるの足元のトートバックを持ち、彼女の柔らかな手を引いて駆け出していたのだった。