大滝詠一「恋するカレン」×360 Reality Audio MUSIC VIDEO
Abba - Money, Money, Money (Official Video)
Primal Scream - Come Together (Official HD Video)
清水 翔太 feat.小田 和正 『君さえいれば』
(ちんちくりんNo,16)
八月に入った。自転車を漕いで第一キャンパスに向かっているが、この道路は青々とした木々に囲われているせいか、所々で微かな木漏れ日が体に当たるだけで、特にうだるような、という暑さを感じさせない。―で、あるのにペダルはどうも重くてかなわない。原因は分かっている。原因はこいつ―、″七瀬かほる"だ。
僕は少しだけ後ろを覗くように振り返り、荷台に尻をのせているかほるの表情を確かめた。目が合い、かほるが妙に女の子らしい微笑みを返すものだから、調子が外れ思わずハンドルを握った手を放しそうになった。かほるは横座りし、両腕で緩く僕の腰に手を廻して、足の踵をチェーンカバーの上にかけている。僕の自転車は中古のママチャリだから、彼女が足をブラブラさせてしまうと、地面にその長い足を引きずるようになってしまう。
何故こうなってしまったかというと、かほるがいつも駅からバスを利用していると言ったからだった。どうやって来ているの、と問うたのは僕の方からだったし、映研にほぼ無理やり連れてきたのも僕だし、どうせ駅の脇を通っていくのだからと、かほるに僕の自転車に相乗りしていくように誘った。それに彼女の持病とやらが気になった。あの時の眩暈・・・、僕はそういった類の経験はないのでよくは分からないが、高校の同級生でよく眩暈をおこす女子がいて、とにかく立っていられなく酷い吐き気に悩まされて辛いのだそうだ。だから駅からキャンパスまでとはいえ、一緒についていかない訳にはいかなかった。
それにしても、かほるの「仕事」に於いてのセンスには目を見張るものがあった。例えば、貢がオードリ・ヘップバーンの映画の評論において、そのファッションを絡めて論じたいということで、「パリの恋人」のフレッド・アステアとモデルのドヴィマ、そしてオードリーの三人が「ボンジュール・パリ」を歌うシーンの写真記事を渡して「もう少し現代に近い衣装を着せて、面白おかしくしたいんだ」と注文したら、オードリーにはピンクのステンカラーコートを着せ、アステアは帽子を脱がし、長髪に後ろを縛り黒服にサングラス、ドヴィマについては伊達メガネをかけさせ、社長秘書風の明るいレディーススーツ、という突拍子のないイラストを描いてきた。変だ。でもそういった面白味に加えて、かほるの独特の描線と色付けによって何とも言えない三人のカラーが浮き出てきていて、非常にファッショナブルなものになっていた。
やはり美大生なのだろうか、ふと思い出すが、今となってはもう聞いても仕方がない。自然にいつかは分かるだろう。・・・いつかは?
Abba - Money, Money, Money (Official Video)
Primal Scream - Come Together (Official HD Video)
清水 翔太 feat.小田 和正 『君さえいれば』
(ちんちくりんNo,16)
夏の光
八月に入った。自転車を漕いで第一キャンパスに向かっているが、この道路は青々とした木々に囲われているせいか、所々で微かな木漏れ日が体に当たるだけで、特にうだるような、という暑さを感じさせない。―で、あるのにペダルはどうも重くてかなわない。原因は分かっている。原因はこいつ―、″七瀬かほる"だ。
僕は少しだけ後ろを覗くように振り返り、荷台に尻をのせているかほるの表情を確かめた。目が合い、かほるが妙に女の子らしい微笑みを返すものだから、調子が外れ思わずハンドルを握った手を放しそうになった。かほるは横座りし、両腕で緩く僕の腰に手を廻して、足の踵をチェーンカバーの上にかけている。僕の自転車は中古のママチャリだから、彼女が足をブラブラさせてしまうと、地面にその長い足を引きずるようになってしまう。
何故こうなってしまったかというと、かほるがいつも駅からバスを利用していると言ったからだった。どうやって来ているの、と問うたのは僕の方からだったし、映研にほぼ無理やり連れてきたのも僕だし、どうせ駅の脇を通っていくのだからと、かほるに僕の自転車に相乗りしていくように誘った。それに彼女の持病とやらが気になった。あの時の眩暈・・・、僕はそういった類の経験はないのでよくは分からないが、高校の同級生でよく眩暈をおこす女子がいて、とにかく立っていられなく酷い吐き気に悩まされて辛いのだそうだ。だから駅からキャンパスまでとはいえ、一緒についていかない訳にはいかなかった。
それにしても、かほるの「仕事」に於いてのセンスには目を見張るものがあった。例えば、貢がオードリ・ヘップバーンの映画の評論において、そのファッションを絡めて論じたいということで、「パリの恋人」のフレッド・アステアとモデルのドヴィマ、そしてオードリーの三人が「ボンジュール・パリ」を歌うシーンの写真記事を渡して「もう少し現代に近い衣装を着せて、面白おかしくしたいんだ」と注文したら、オードリーにはピンクのステンカラーコートを着せ、アステアは帽子を脱がし、長髪に後ろを縛り黒服にサングラス、ドヴィマについては伊達メガネをかけさせ、社長秘書風の明るいレディーススーツ、という突拍子のないイラストを描いてきた。変だ。でもそういった面白味に加えて、かほるの独特の描線と色付けによって何とも言えない三人のカラーが浮き出てきていて、非常にファッショナブルなものになっていた。
やはり美大生なのだろうか、ふと思い出すが、今となってはもう聞いても仕方がない。自然にいつかは分かるだろう。・・・いつかは?