琴音−防人の詩
Carole King - It's Too Late (BBC In Concert, February 10, 1971)
Bryan Ferry - Don't Stop The Dance [Official]
【LIVEWIRE】小山田壮平 - 空は藍色 (Live at DRUM LOGOS) | Oyamada Sohei - The sky is indigo blue
(ちんちくりんNo,18)
かほると部室に入り、「よっ」、「おじゃまします」と圭太と貢に声をかけてから定位置に座ると、目の前の机上に数十枚の「ゲラ」が揃えて置かれてあった。かほるは僕の隣に遅れて座った。
「出来たか」
僕は右方の圭太に顔を向け安堵の息を吐いた。
「ああ、これまでのお前の分や。斉木も大変そうだったでぇ、はよ終わらせたれ」
斉木というのは圭太と同じ芸術工学科の同級生、コンピュータークラブに所属している。本を作ろうと考えていた当初、僕らは製本・印刷をどうしようかと頭を悩ませていた。まあ、業者に依頼するのが一番簡単で早いのであるが、そういう業者は百部とか千部とかある程度まとまった部数でなくては受けてくれない。僕たちとしては、(自分たちの分)とプラス(何処かへの進呈分)があれば十分であり、資金的な問題もあった。そこで、文字の拙さには目をつぶるとして、原稿を複写機にかければと大学の事務室にあるものを使わせてもらおうと掛け合ったが「邪魔になる」という理由で丁重に断られてしまった。さてどうするか、と考えたところで先の斉木君。彼はコンピュータークラブ所属であり、そのコンピュータークラブには勿論組み立て式のマイコンだとかシャープのMZ80とかいうコンピューターが数台研究用にあったが、何故か事業所用の複写機も所有していた。しかもカラー複写機だ。たまたま、圭太が相談したところ、そういう話を聞いたので、圭太は一も二もなく使わせてくれとお願いした。結果、用紙代とインク代はこちら持ちということで斉木君は快諾してくれたのだった。しかも、外部のものが使うには複写機は用紙が詰まりやすく、コツがいるのだとかで複写の作業も斉木君の方で(クラブの後輩とかも)やってくれることになった。斉木さまさまである。
その後第一回目の依頼として、五月にまとまった原稿を持ってクラブに訪問したところ、「その原稿、もっとかっこよくしようぜ」と言われ、なにかと思ったらすぐ隣の部屋で活動している「ワードプロフェッサークラブ」に連れて行かれ、何でも印刷機を備えた新発売のパーソナルワープロを数台導入したとかで、用紙とインクリボン代を負担してくれれば、それで手分けしてワープロで打ち直してくれるという話になった。つまりは僕らが原稿を「ワードプロフェッサークラブ」に持ち込めば、綺麗に打ち直され印刷されたものがまた僕らの方に「ゲラ」として戻って来て、誤字だとかチェックしたあと、「コンピュータークラブ」に複写を頼むという流れになった訳だ。
「僕らの方は最後の原稿、斉木君に頼んだけれど・・・」
貢にも言われ、少しカチンときたが全ては自分が悪い。僕の原稿は今四十六枚、あとラストを書くだけだったが、またそこで止まってしまっていた。
「ごめん。急ぐよ」
不思議そうにこちらを見つめているかほるの瞳、それに何故だか見透かされているような気がして僕は思わず目を逸らしてしまった。