からくの一人遊び

音楽、小説、映画、何でも紹介、あと雑文です。

中島美嘉 『ORION』

2021-09-03 | 小説
中島美嘉 『ORION』



David Bowie and John Lennon - FAME - LIVE!



Joy 高田真樹子 (1974年)Makiko Takada参加ミュージシャン:羽田健太郎(p),武部秀明(b),田中清司(ds),村上秀一(ds),松木恒秀(g).矢島賢(g),高中正義(g),スリー・シンガーズ (Chorus)



ハンバート ハンバート "どこにいてもおなじさ" (Official Music Video)



Liam Gallagher - Stand By Me (Reading 2021)



(ちんちくりんNo,45)


 母には父の隣に座ってもらった。テーブルを挟んで向かいに二人。心なしか僕の膝が震えているような気がする。父には姉を通して話の内容を、それとなく匂わせてもらっているが、母には伝わってないはずだ。でも二人とも同じように眉間に皺を寄せている。背中に汗が一筋流れたのを感じてより緊張感が増した。考えてみれば、僕は二人に対して相談、あるいは意見なんてしたことはほぼ無いのではないだろうか。一番多感な十四歳の頃には、父も母もいないに等しかったし、大学受験の時は姉に窓口になってもらっていた。小学生の頃は、「病気」で悩ませはしたが、基本的には親のいう事を聞く良い子ちゃんの仮面を被っていた。いや、それは親のいう事に逆らうのが怖かっただけなのかもしれない。だから、「自分が本当にやりたいこと」を話すだけなのに、こんなにも緊張する。その内、業を煮やした父が「それで何・・・」と言いかけたので、僕はそれを制して隅に置いていたショルダーバックを引き寄せて、中から一通の封書を出し二人の前に差し出した。「一次試験の結果だよ」
 一瞬父と母の時が止まったように見てとれた。それでもすぐに「ああ教員のか?」と父が封書を手にし、中の通知を引き出し開いて目を落とした。が、その間こちらをちらりと見遣っただけで、何とも言わない父。言わずに隣の母にその紙片を手渡した。母はそれを手に取ると一拍おいてから息を吐き、テーブルに置いて、まるで祈りを捧げるように掌で丁寧に折目を伸ばしてから、ゆっくりとそこに書かれた文字を読んだ。何度も読み返しているのか、母の視線は下方へ向かったままだったが、暫くして母は顔を上げた。笑顔だった。突然笑顔を亡くした「あの頃」から考えると、まるでそのことが嘘だったような、それこそ一番の笑顔を僕に見せてくれた。おめでとう。いや、一次が通っただけだから、それに、これについて話したいことが・・・。母に僕はこれから残酷なことを言わねばならない。
コメント (2)
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