マリの朗読と作詞作曲

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見知らぬ犬(萩原朔太郎)

2022年01月22日 | 詩の朗読

 

 

見知らぬ犬(萩原朔太郎)

 

見知らぬ犬(萩原朔太郎)

この見もしらぬ犬が私のあとをついてくる、

みすぼらしい、後足でびつこをひいてゐる不具の犬のかげだ。

 

ああ、わたしはどこへ行くのか知らない、

わたしのゆく道路の方角では、

長屋の家根がべらべらと風にふかれてゐる、

道ばたの陰気な空地では、

ひからびた草の葉つぱがしなしなとほそくうごいて居る。

 

ああ、わたしはどこへ行くのか知らない、

おほきな、いきもののやうな月が、ぼんやりと行手に浮んでゐる、

さうして背後のさびしい往来では、

犬のほそながい尻尾の先が地べたの上をひきずつて居る。

 

ああ、どこまでも、どこまでも、

この見もしらぬ犬が私のあとをついてくる、

きたならしい地べたを這ひまはつて、

わたしの背後で後足をひきずつてゐる病気の犬だ、

とほく、ながく、かなしげにおびえながら、

さびしい空の月に向つて遠白く吠えるふしあはせの犬のかげだ。

 

 

萩原朔太郎(1886~1942年)は、

群馬県生まれの詩人。

詩集「月に吠える」「青猫」「純情小曲集」

小説「猫町」などの著作がある。