「春望」は、杜甫44歳、
安禄山の乱で賊軍に捕まって
軟禁された時の作(五言律詩)。
春望
春望 杜甫
(書き下し文)
国破れて山河在り
城春にして草木深し
時に感じては花にも涙を濺ぎ
別れを恨んでは鳥にも心を驚かす
烽火三月に連なり
家書万金に抵たる
白頭掻けば更に短く
渾べて簪に勝へざらんと欲す
(意訳)
戦火で長安の都は瓦解したが、
山河の自然は今までと変わらず、
季節もまた巡ってくる。
だが美しい花、楽し気な鳥のさえずりも、
今では悲しみの種でしかない。
戦乱は3か月にもおよんでいて、
離れ離れになった家族からの手紙は
なかなか届かない。
老いと労苦で白髪は短く薄くなり、
(役職を表す)冠をとめるための簪(ピン)を
刺すことができなくなってしまった。
春望 杜甫
(原文、白文)
国 破 山 河 在
城 春 草 木 深
感 時 花 濺 涙
恨 別 鳥 驚 心
烽 火 連 三 月
家 書 抵 万 金
白 頭 掻 更 短
渾 欲 不 勝 簪
杜甫(712年~770年)は
唐代の二大詩人のひとりで
詩聖と呼ばれる。
仕官した時期もあったが、
一生を通じてみると
放浪の時代の方が、圧倒的に長い。
松尾芭蕉は 奥の細道・平泉 の中で
この詩を引用している。
「国破れて山河あり、城春にして草青みたりと、
笠うち敷きて、時の移るまで涙を落とし侍りぬ。
夏草や兵どもが夢の跡」
藤原三代の栄華の跡に立ち、
自然と比べて人間の営みの儚さを
句に詠んだのである。