父の故郷訪問記(1)
わたしの父は、新潟県の
海に近い町の生まれであった。
父に連れられて
初めてその町を訪れたのは、
半世紀も昔の二十歳のころ。
12月下旬にしては
珍しく雪のまだない年だった。
父の生家は地元の旧家で
田畑や山林を所有して裕福だったが、
他人の借金の保証人になったがために
すべての財産を失ったという。
以後、
「絶対、他人の借金の保証人になるな」が
一家の座右の銘となる。
父は9人兄弟の末っ子だったので、
父が生まれたときには、
19歳年上の長姉はすでに嫁いでいた。
父が子供のころに一家は没落し、
知り合いのいる神戸に引っ越して
赤貧洗うがごとしの生活をおくった。
父の両親は、
その後いくらもしないうちに
相次いで亡くなった。
父は年の離れた兄の援助で
神戸の商業高校を卒業した。
50年前の新潟訪問時に
当然ながら父の生家はすでになく、
長姉(私の伯母)の嫁ぎ先に泊めてもらった。
父と19歳離れている伯母は
私には祖母の年代といってよかった。
小柄で品のいいお年寄りで、
優しくふわッと発音する「おばあちゃん」
という呼称がぴったりの人であった。
なので、私の中では
おばあちゃんとして認識されている。
→ 父の故郷訪問記(2) に続く
・