夏目漱石の「草枕」の冒頭は有名で
よく暗唱などもされるが、どうせなら
「あらゆる芸術の士は人の世を長閑にし、
人の心を豊かにするが故に尊とい。」
までが読まれることを願う。
そうしないと、
一番大切な部分が欠けてしまうかと。
草枕(夏目漱石)
草枕 (夏目漱石作)
山路を登りながら、こう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。
意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。
どこへ越しても住みにくいと悟った時、
詩が生れて、画が出来る。
人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。
やはり向う三軒両隣りにちらちらするただの人である。
ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、
越す国はあるまい。
あれば人でなしの国へ行くばかりだ。
人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。
越す事のならぬ世が住みにくければ、
住みにくい所をどれほどか、寛容て、束の間の命を、
束の間でも住みよくせねばならぬ。
ここに詩人という天職が出来て、
ここに画家という使命が降る。
あらゆる芸術の士は人の世を長閑にし、
人の心を豊かにするが故に尊とい。