本当の人間関係を学び続ける学徒のつぶやき

人間関係学を学び続ける学徒の試行錯誤

人間復権のための福祉

2023-04-30 13:55:23 | 日記

 

 3年前に始まったコロナのパンデミックのために人と人とのかかわりが医学(科学技術)や政治国家(権力)によって著しく制限されたという経験は、死という現実を超えて、死ぬかもしれないという恐怖に慄きながらも人と人とのかかわりの中で生きていくことの大切さを私たちに強く再認識させました。そして、この経験により私は、「福祉」に対する自分の考え方をより確かなものにすることができました。福祉は従来からいわれているような「困っている人を手助けする、支える」ものだけではなく、本来人間がもっている「他者とかかわっていこうとする」力を支援し育んでいくものだと。この他者とかかわっていこうとする力は、ユダヤ人宗教哲学者のマルティン・ブーバーの言葉を借りれば「われー汝」の語りかけであり、「関りへの参入」と表現されるでしょうし、仏教的には縁や縁起とでもいえるのではないでしょうか。

 元来、宗教はこの「他者(神・人間)と関わっていこうとする」力をひとり一人の人間に発揮させることで、人と人とを結びつける役割を担ってきましたが、フランス革命以降、あるいは産業革命以降、西洋で自由主義と資本主義が燎原の火のように広がっていくと、キリスト教のもつ宗教の力は徐々に個人主義の中に収斂されいきました。そして、コミュニティや家族は個人個人に分断され、巨大な集団主義(国家権力)が分断された個人を席巻していったのと時を同じくして、全世界的に宗教の力が減衰し、各宗派の宗教団体もかつてその優勢を誇っていた「人と人とを結びつける」力を失いつつあるようです。そのような世界の流れの中で、わたしにはこれからの世界で、人と人とを結びつける力となる可能性を秘めたものの一つとして「社会福祉・地域福祉」があるのではないかと思うのです。ここでいうの「福祉」とは決して行政の政策・施策としての福祉ではなく、ひとり一人の人間とともにあり、ひとり一人の人間の「他者とかかわっていこうとする力」を支え、必要に応じて科学技術(医学)や権力(政治国家)とも対峙することもいとわない人間復権のための福祉です。

 かつて、ブーバーは著作「ユートピアの途」の中で「協同組合運動の客観的真髄は、社会の構造的更新への、新しい構造学的形態における内部的関連の奪還への、新しいconsociatio consociationum(諸組合の組合)への傾向として認められるべきである。(中略)それは根本において全く局地的でありまた建設的である。すなわちそれは与えられた条件のもとで与えられた手段をもって達成しうる改革を考えるのである。そして心理的にはそれは、たとえ多くの場合抑圧され、それどころか麻痺せしめられているにしても、人間の永遠の欲求に、すなわち人間がそこでくつろぎ、共に住む人びとが彼との出会い、彼との協働のうちに彼の固有の本質と生活を確認するところのより広大な建物のなかの一つの部屋として自己の住居を感じたいという欲求に根ざしている。(p.210)」と述べました。わたしが上述した「人間復権のための福祉」とは、正にここでブーバーが言うところの「人間の永遠の欲求」の実現を支援すること意味します。当時の「協同組合運動」という言葉は、もはや資本主義・自由主義の大津波に呑まれてほとんど死語となってしまいました。しかし、昨今声高に唱えられている「地域共生社会」という概念が、行政の政策や施策だけに止まらず、地域住民が本当に主体となって地域共生社会の実現を推し進めていくようになれば、人間復権のための福祉の途は、決して無い所(ユートピア)への途ではなく、地域に暮らすだれもが、そこでくつろぎ、共に住む人びとが彼との出会い、彼との協働のうちに彼の固有の本質と生活を確認するところのより広大な建物のなかの一つの部屋として自己の住居を感じられるように支援する途となるのではないでしょうか。

                                 社会福祉士 和智 章宏

 

引用文献・参考文献

ユートピアの途 M.ブーバー著 (原著1950年) 長谷川進訳 理想社 初版1969年

対話の倫理 M.ブーバー原著  野口 啓祐訳 創文社 初版1967年 


YMCA健康福祉専門学校 ホームページ

2023-03-26 07:50:12 | 日記

YMCA健康福祉専門学校のホームページがリニューアルされ、私の記事が掲載されました。

自己紹介のかわりです。ご笑覧あれ。

社会福祉科 – YMCA健康福祉専門学校

 画面の一番下の方の「卒業生Voice」です。

 


【公開】 マルティン・ブーバー原著『対話の倫理』抄本

2023-03-25 10:16:08 | 日記

抄本を改訂しました。

マルティン・ブーバー原著『対話の倫理』抄本http://www7b.biglobe.ne.jp/~ipr_phenomenology/Buber_conversasion_1.3.pdf

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 今回三冊目となる『対話の倫理』の抄本を作成しました。この本は、ブーバーが1951年にアメリカに渡り、各地の大学で行った講演を基に“Eclipse of God”(神の蝕)としてまとめられたものです。

 以前紹介した『ユートピアへの途』はブーバーの社会学的側面、『人間とは何か』は哲学的側面の表出とすれば、この本はブーバーの宗教的立場が強く表現されているものと思われます。神は信じる対象ではなく実在し、出会い、実感する、永遠の汝であり、逆にわれわれが神がいないと思うことは、そう「信じている」ことにすぎず、実在する神は、われわれ人間のあり方によって隠されてしまっている——あたかも日食のように——というブーバーの神にたいする考えがこの本で明確に示されています。

 「あとがき」ブーバーの手紙(1963年、読売新聞掲載)の全文を載せました。これは60年近く前に書かれた文章ですが、現代のウクライナ紛争などを報道で見ると、わたしたち人間は、ブーバーが指摘した「純粋な対話」をまだ全然できていないと愕然とします。わたしたちひとり一人が、もう、いままでのように政治家任せにせず、自分にとっての神——他人にとっての神ではなく——と自分がどう向き合っているのかについて深く考え、周りの自分とはまったく異なる人たちと「純粋な対話」をしていくことが、今まさに求められています。ぜひご一読ください。

 

掲載場所:  IPR現象学研究会のホームページ

http://www7b.biglobe.ne.jp/~ipr_phenomenology/index.htm

IPRとは( IPR現象学研究会のホームページから引用)

IPRというのはInter-Perponal Relationship の略で、直訳すれば「人格間関係」を意味します。従来使われてきた Human Relations(人間関係)の語が、ともすれば表面的な対人関係のイメージを生みやすいことをおそれ、より率直な「ほんとうの人間関係」を意味するIPRの語を使用しています。

1970年、心理学者・早坂泰次郎(立教大学名誉教授、故人)を中心に「日本IPR研究会」が創設されました。その研究会では、①対人関係理論の研究と、その実践である②グループ・トレイニングの開催を行ってきましたが、創設50年を迎える2020年に活動を終えることになりました。

http://www7b.biglobe.ne.jp/~ipr_phenomenology/iprintro.htm

 

 

 


生活支援コーディネーターに求められる社会福祉士としての専門性

2023-03-12 11:46:17 | 日記

 私は現在、鎌倉市社会福祉協議会に所属し、鎌倉市から委託を受けた生活支援コーディネーターとしてて鎌倉市北西部にある玉縄地域の福祉活動に携わっています。生活支援コーディネーターとは、地域包括ケアシステム構築のための一事業である生活支援体制整備事業に位置づけられており、地域の高齢者の在宅生活を支えるための地域づくりを促進するため、地域のさまざまな主体による多様な取り組みのコーディネート機能を担い、一体的な活動を推進することを職務としています。

 厚生労働省の研修資料には生活支援コーディネーターの資格要件として社会福祉士は挙げられていませんが、鎌倉市の生活支援体制整備事業委託契約では生活支援コーディネーターの資格要件は、原則として社会福祉士であると定められています。それでは、鎌倉市の生活支援コーディネーターに求められている社会福祉士にとって共通する専門性とは何かについて自分の日々の業務から考えてみます。

 まず第一に挙げられるのは、社会福祉士の倫理綱領やソーシャルワーク専門職のグローバル定義といった理念、考え方の共有です。同僚の生活支援コーディネーターや玉縄地域でともに仕事をする地域包括支援センターの社会福祉士とは地域住民が抱えるミクロの課題を共通した理念、考え方に基づいて議論し、目指すべきメゾ、マクロのあり方を考え、行政や地域のさまざまな主体に働きかけていくことができます。

 次に挙げられるのは、ソーシャルワークの視点です。人と環境、さらに両者の関係(相互作用)に視点を向け、そこから支援を展開、実践するソーシャルワークの視点が、社会福祉士に共通する専門性となります。たとえば、地域住民とともに地域アセスメントを行う際に、地域にあるさまざまな環境について、高齢者の移動の視点、児童の通学路の視点、障害(児)者の視点、防災・防犯の視点、景観の視点などさまざまな視点から地域住民と見ていくことで、住み慣れた地域の環境についての新しい気づきを促し、より深堀した地域踏査を地域住民が主体となって進めていけるよう、社会福祉士として支援することができます。

 そして、最も重要な社会福祉士に共通する専門性は、生きづらさや生活のしづらさを抱える人々に寄り添う態度、姿勢です。令和4年の早春以降、新型コロナウイルスのパンデミックによってそれまで当たり前だった日常が脅かされ、壊されました。外出自粛などさまざまな行動制限が感染症予防対策として強いられ、それまで地域の福祉活動を支えていた高齢のボランティアは、ひとと関わり合えない苦痛に苛まれました。この未曽有の状況において、社会福祉士には地域の高齢のボランティアに寄り添い、苦痛を共有し、ともに悩みともに考え、この状況のなかでできることをできる限りやっていこうとする態度、姿勢が求められます。この態度、姿勢こそが、すべての社会福祉士に求められる最も重要なの専門性ではないでしょうか。

                        社会福祉士 和智 章宏


福祉と防災

2023-03-08 15:47:33 | 日記

 地域福祉と地域防災は切っても切れない関係にあります。地域の自治町内会は福祉よりも防災に力を入れる傾向がありますが、防災だけを進めると結局、自分のことは自分で守る「自助」に重きがおかれ、ご近所で支え合う近助、地域で支え合う互助、共助にはなかなか発展して行かないのが実情だと思います。また、大きな災害があった直後はテレビや新聞で被災地の悲惨な状況に身がつまされ、住民の防災への関心は高まりますが、時間がたつと徐々に「自分は大丈夫」という正常化の偏見が頭をもたげ、防災への関心は薄れ、避難訓練への参加率も低下してしまいます。「自分や家族の命や安全が大事」だけでは限界があるのは明白です。自分だけに関心を向けていているのでは、何も発展して行きません。

 それではどうすればよいのか。まず、近所でお互いに助け合うことを話し合うことだと思います。私たちはいつまでも自分のことを自分で守っていくことは出来ません。必ず年を取り体は弱くなっていきます。認知能力も確実に衰えていきます。また、頼りになる家族も仕事で遠いところに行ってしまうかもしれません。万が一の時に頼りになるのはご近所さんです。ご近所で暮らすもの同士が仲良くなるには色々な方法があると思います。なかでも、地域防災についてお互いに話し合い、もしもの時の役割分担を話し合うことは、お互いの安心につながります。そしてそういう支え合いの輪を少しづつ広げ、ご近所にお暮らしの要支援者の方やそのご家族にも関心を向けて巻き込んでいく、そうすれば自ずと地域共生社会(豊かなまち)づくりが進むこととなります。

 地域防災・減災はそれ自身が目的ではありません。国や行政にとってはそうかもしれませんが、地域住民は、地域防災・減災を豊かなまちづくりのひとつの大変重要な課題として捉えるべきです。そして、ご近所同士が支え合い、協力し合って、豊かなまちづくりに主体的に参加していくことが大切です。自治会や町内会は、地域住民と豊かなまちづくりを目標として防災・減災を進めていくことが重要で、防災・減災のために地域で顔の見える関係づくりしていくわけではありません。全く逆です。豊かなまちづくり、つまり地域福祉のために地域の防災・減災があると考えていくことが必要です。なぜなら、私たち人間の生きる目標は、ただ生きながらえることではなく、周りの人、他者と我ー汝の関係をもき、豊かなまちー地域共生社会ーを実現し、地域に暮らす誰もがそこで暮らしている他の人々と共に本当にくつろげる生活だからです。豊かな福祉社会を実現していくことが、私たち人類の本当の目標だと思うのです。

※ 地域の防災と福祉の取り組みの例

マイタウン玉縄

福祉、防災の講演会