ソーシャルワーカーは相談援助の専門職としてクライエントに臨む。その時、ソーシャルワーカーはバイスティックの7原則や倫理綱領など専門職として共有する価値と規範を基盤にして支援・援助活動を展開していくことが求められる。しかし、ソーシャルワーカーは専門職である以前に、一人の生きた人間であり、それまでのさまざまな人生経験や人々との出会いによって固有の価値観や心理・感情をもつ。また、この価値観や心理・感情は固定的なものではなく、絶えず揺れ動くものである。なぜなら、感性とは心の動きであり、生きている人間は、その志向する対象の変化とともに絶えず心が動くからである。 そのため、ソーシャルワーカーは、クライエントに接するときに、個人の固有の価値観に固執してしまい、専門職としての共有すべき価値をなおざりにしないように、①自分の先入観やステレオタイプを自覚しておくこと、②絶えず自分の気持ちや心の動き(感情)を自覚すること、③自分が相手に与える影響を自覚するという自己覚知が肝心である。
ミクロ・レベルの対人援助実践において、この3つの自覚のうち、①が重要であることは周知の事実であるが、ここでは②③の重要性について考えてみる。
ここでは、たとえばグループ演習でグループの成果物をクラス全体に発表するようなケースを挙げよう。発表者は、その発表内容や発表態度ももちろん重要であるが、独りよがりな発表にならないようにするためには、講師やクラスメイトが、発表している自分をどう受け止めているのかをしっかりと眼で確認していくことが重要である。ある演習で「理想とするカンファレンス」についてのグループ討議があり、私が発表をしたとき、私は講師やクラスメイトの表情や眼を見ることに注力し、真剣に向き合うことに努めた。その結果、「リーダーシップとは援助役割」「他者を知り、自分を知る。他者との関係性の中の他者理解と自己覚知」という現象学的視点に基づく発表内容が注目を集めたこともあるが、発表を聞く講師とクラスメイトの眼が輝いているのを感じた。そして、その輝きを感じる自分と、彼らの眼にまなざしを届けている自分を感じた。そして、そのとき私は、講師やクラスメイトとの単なる交流を超えた、基本的な信頼といえるような感覚を覚え、クラスの中での居心地の良さと喜びを感じた。
もちろん、グループ演習での発表とソーシャルワーカーとクライエントの面談は異なるが、直接の人格間の対人関係(Inter-Personal Relationship)という観点では共通している。ソーシャルワーカーが対人援助の専門職としてクライエントに臨むときは、しっかりと相手の眼を見て相手の視線を受けとると同時に、自分の視線を相手に届けることと、自分の気持ち・心の動きはどうかを常に自己覚知することが求められる。そしてその結果、お互いが視線を届け合っていると感じたとき、両者の間に基本的信頼関係(ラポール)が成立するのである。
〔参考文献〕
1. 新・社会福祉士養成講座 6 「相談援助の基盤と専門職」第3版 中央法規、2015年
2. 新・社会福祉士養成講座 7 「相談援助の理論と方法Ⅰ」第3版 中央法規、2018年
3. 「人間関係の心理学」早坂泰次郎著、講談社現在新書、1979年
4. 「人間関係学序説 現象学的社会心理学の展開」早坂泰次郎著、 川島書店、1991年
5. 「〈関係性〉の人間学 良心的エゴイズムの心理」早坂泰次郎編、 川島書店、1994年