今日の障碍者の重要な日中活動である就労支援サービスにおけるケアマネジメントとネットワークについて、利用者の自己実現と成長というケアの本質からの視点で考察する。
社会福祉法人A会はZ市内で知的障碍者を対象とする就労移行支援・就労継続支援事業所を運営している。Bさん(男性20才代、軽度の知的障碍・発達障碍)はZ市内の養護学校を卒業後、この事業所で就労継続支援B型事業サービスを利用し、日中活動として事業所の建屋内の喫茶室で作業を行っている。担当する作業は、食器準備(数量確認、洗浄など)、屋外清掃、配膳、食器の片付けなどである。この喫茶店で作業をする利用者は10名で、職員2名が利用者を援助するとともに、接客や食材の調達・管理、会計などの業務を担っている。喫茶室は平日昼時のみの営業であるが、地域の高齢者などが利用し、常連客も多いという。
Bさんは、「企業で就労したい」との希望があり、喫茶室の職員と施設の責任者や相談員は、Bさんの生活上の課題を整理するとともに、希望や要望を聞き取りながらSさんの支援計画を作成し、Bさんが仲間とのチームワークや接客マナー、作業手順や流れを学習し、職業生活のリズムを構築して職場定着できるように支援した。また、この事業所では、日中活動終了後、就労支援員による就労移行支援事業を実施しており、利用者に履歴書や入社目的、自己アピールの書き方や面接の指導を行っている。Bさんもこの指導に参加し、就職に向けた姿勢や意欲の向上を目指した。
Bさんは少し注意力が散漫なところがあり、一つのことに集中して作業を行うことは苦手であったが、仲間と仲良く作業を進めたり、初対面の相手に対して積極的にコミュニケーションをとることは長けていた。職員たちはBさんのこうした対人関係能力の高さを引き出すことで、責任感に対する意識の向上を目指し、喫茶室の客に食品やサービスを提供して対価を得るためには、一つひとつの作業への集中力を高めて、丁寧に真心を込めて遂行することが必要であることをBさんに理解できるよう、指導していった。
そして、BさんはZ市のハローワークから紹介のあった資源回収協同組合での企業実習に臨んだ。実習は5日間で、回収されたペットボトルのラベルをはがしたり、ラインに流れてくる缶やペットボトルを選別する作業であったが、Bさんは実習先の職員とコミュニケーションをとりながら丁寧に作業を遂行した。その結果、実習先の担当者の評価も高く、Bさんは職員として採用されることになった。
支援者は利用者と話し合いながら、就労という長期目標を定め、実行可能で成功体験の得られる短期目標を個別の支援計画としてまとめ、利用者をエンパワメントしながら実施していくこととともに、ハローワークや、地域の企業、そして、喫茶室の客などさまざまな地域の社会資産と関係を築きネットワークを構成していくことが重要である。そして、利用者ができる範囲で社会的な役割を担い、他者と関係を築いて生活していくことが、自己実現と成長のために重要であることを利用者にしっかりと伝えていくことが必要である。
(なお、文中の組織、個人は実在しません。)
〔参考文献〕
1. 新・社会福祉士養成講座18 「就労支援サービス」第4版第3刷、中央法規、 2018年
2. 「ケアの本質 生きることの意味」 ミルトン・メイヤロフ 田村 真・向野 宜之訳 ゆるみ出版、1987年