本当の人間関係を学び続ける学徒のつぶやき

人間関係学を学び続ける学徒の試行錯誤

住民主体の地域福祉

2023-03-05 08:58:34 | 日記

 私は、鎌倉市の生活支援コーディネーターとして玉縄地域を担当している。生活支援コーディネーターとは、高齢者の生活支援・介護予防サービスの体制整備を推進するための生活支援体制整備事業に位置づけられた専門職で、鎌倉市では原則として社会福祉士とされている。多様な主体、例えば地区社会福祉協議会や民生委員児童委員協議会、自治町内会連合会などの地域住民、地域包括支援センターの職員や高齢者介護施設の職員、総合病院の医療ソーシャルワーカーなどが参画する協議体(玉縄地域福祉ネットワーク会議)の事務局として、私は地域住民が主体となった地域づくりの取り組みを支援しているが、私はこの事業において、この「地域住民が主体」の実現が最も重要であると考えている。

 周知のように、2000(平成12)年4月に介護保険法が制定され、高齢者に対する介護サービスが「措置から契約」に移行した。2015(平成27)年の同法改正では、地域包括ケアシステムの構築に向けた在宅医療と介護の連携推進、地域ケア会議の推進などが取り入れられ、高齢者福祉を実施する主体は国から地方自治体、そして地域住民へと移行してきた。しかし、このことに対する地域住民の受け止めは決して肯定的ではない。「少子超高齢化が進み、このままでは介護保険制度が破綻するので、国は本来行政が責任を負うべき高齢者福祉を地域住民に押し付けている」などの声が玉縄だけではなく他の地域でも聞かれる。国や行政機関が地域住民に福祉サービスを提供し、地域住民はそれを享受して不満があれば苦情を言う。そのような状況をみると、地域住民ひとり一人が責任ある主体として行政や様々なサービス提供機関と共に福祉サービスを創り育てようとするのではなく、単に客体として国や行政から措置を受けるという意識が、地域住民の心のなかに根強く残っているのではないかと感じる。住民主体をいかに実現していくのか、という課題が生活支援隊コーディネーターとしての社会福祉士に課せられた最大の責務である。

 行動規範の「社会福祉士は、クライエントが自己決定の権利を有する存在であると認識しなければならない」に立ち戻り、地域住民をクライエントとして考えたとき、「自己決定の権利」とは、単なる受け身の客体として自由気ままに市役所の職員や高齢者介護施設の職員に不平不満をぶつけることではあるまい。かつて、哲学者のマルティン・ブーバーは人間存在に対する深い洞察から、すべての人間にはそこで寛ぎ、共に住む人びとが彼との出会い、彼との協働のうちに彼の固有の本質と生活を確認するところのより広大な建物のなかの一つの部屋として自己の住居を感じたいという永遠の欲求があると述べた。この欲求が地域住民ひとり一人にあるのであれば、その欲求が解放され、それに基いた自己決定ができるように支援し、住民が主体となった真の地域福祉を実現していくことが、社会福祉士に課せられた使命ではなかろうか。

                         社会福祉士 和智 章宏

参考文献 

『ユートピアの途』M.ブーバー著 (1950 年) 長谷川 進訳
理想社 初版 1969(昭和 44)年 (改訳第 2 版 1983(昭和 58)年

【参考】http://www7b.biglobe.ne.jp/~ipr_phenomenology/buber-intro.htm