初手術

　半年間注射で痛みを抑えてきた通称「バネ指」の手術を受けた。
　その日は初雪。タクシーも友人も捕まらず、午前十時の予約を前に焦った。先生はわざわざ金沢から一電車早く乗ってご到着との由。行かざなるまいチャリこいで！

　この手術予約、仕事のために二回もキャンセルしている。それに今やらないと抜糸が上京に間に合わない。
　雪の中、表通りに出たところで、メールを読んでくれたＴ氏の愛妻Ｍちゃんから救いの電話。旦那に拾ってもらい、かろうじて予約に間に合った。Ｔ夫妻は常に私の駆け込み寺である。

　　腕に自信ありの先生は、体に初めてメスを入れる私の緊張をほぐそうと色々話しかけて下さった。私としては先生の手元が心配だったが、談笑するうちに４０分足らずで無事終了。部分麻酔で痛みも全く無し。
　
　途中、先生が「もう見られませんよ」というので、縫合する前の状態を起き上がって見た。真っ白く太い腱が、パックリ開いた親指の根元にハッキリ見えている。まるで人体解剖模型だ。
　先生は「ほらね」などと言いながら鋏の先でその腱をグイッと持ち上げたりする。痛みはないものの、麻酔が切れた時の事を思うと「もう結構です～」と冷や汗ものだった。
　稀有な体験だった。見て良かった・・・イヤ、見ない方がもっと良かったか。思い出す度、今もブルッとする。

　縫合もきれいだし、何といっても包帯の巻き方が素晴らしく美しい！几帳面な性格の先生みたいだ。そういえば、「バネ指」の説明時も、絵が上手くてよく理解できた。よい先生に当たってラッキー！

　傷の治りがグンと悪くなるので、しばしお酒は止めたほうが良いです、と言われて、前の晩お酒を飲まなかった事を、痛く後悔。

　しかし禁酒は別に辛くない。以前ひどい下痢が続いた時は１～２ヶ月飲めなかったし、それ以前にも１ヶ月ほど体調不良で飲まないことは何度かあった。体に合う方でもないから、飲まないことに抵抗はない。

　そのせいか、術後４日目には痛みがほとんど無くなり、先生にも勧められて指をなるべく動かすようになった。
　が、患部はいまだに少し熱を持っていて、何だかいとおしい気がする。

　５日目に、もうそろそろ、とワインの残りを少し飲んだがまずい。明くる朝も体がいつもより更にだるい。
　やはり酒は程々にしよう、などと出来もしない決心をした途端に、人生を半分損した気分になった。