思いつくままに

ゆく河の流れの淀みに浮かぶ「うたかた」としての生命体、
その1つに映り込んだ世界の断片を思いつくままに書きたい。

『ガザとは何か』

2024-06-18 12:44:50 | 随想

けあらしが立つ野付湾の浅瀬を渡るエゾシカ

 

 早稲田大学教授 岡 真理さんの『ガザとは何か』――パレスチナを知るための緊急講義――を読みました。

 

 破壊され尽くしたガザの街の遠景:https://x.com/atsyjp/status/1803028061748961324

 

 ガザ保健省の6月8日の発表によると、パレスチナ人の死者は3万7千人を超えました。その約60%は女性と子供です。また、同省による翌9日の発表では、イスラエルがヌセイラト難民キャンプを攻撃し、人質4人を救出したが、この作戦で子どもを含むパレスチナ人274人が死亡したとのことです。どうして人質4人を救出するためにパレスチナ人を274人も殺害する必要があるのでしょう。そして、WFP(国連世界食糧計画)は、ガザ北部の子供たちが深刻な飢えに直面していて、このままでは、ガザの人口の半分にあたる100万人以上が、7月中旬までに死と壊滅的飢餓(IPCフェーズ5)に直面すると述べています。

 いま、ガザで起きていることを、昨年10月7日のハマース主導の越境奇襲攻撃が発端だとして見るのは大きな間違いです。この闘いは1948年のイスラエル建国のときから始まり、もう75年以上も続いているのです。イスラエルは機会をとらえてパレスチナ人を殺し続けています。それは、下記の年表(『ガザとは何か』より)を見ればわかります。イスラエルの目的は、パレスチナの地から、それまでそこに住んでいたパレスチナ人を暴力的に追放し、土地、財産、所有物を剥奪し、そして彼らの社会、文化、アイデンティティ、政治的権利、民族的願望を破壊し、民族浄化をすることです。10月7日の越境奇襲攻撃は、イスラエルにとって絶好の機会となりました。それを証明するように、イスラエルの虐殺対象は女性も子供も、成年も老人も区別がありません。また、爆撃では軍事施設とは関係のない病院、大学、図書館などを破壊し、医療や教育でさえ不可能な状態にしています。社会的インフラを破壊しているのです。国連は、5月3日までにパレスチナ自治区ガザ地区で全建物の55%が被害を受けたとする分析を発表しています。被害を受けた建物の合計は13万7297棟で、このうち3万6591棟が全壊、1万6513棟が甚大な被害を受けたとしています。明確に建物の破壊とそこにいるパレスチナ人の殺戮が目的だとわかります。イスラエルはこれらの建物には人質がいないことを知っていると思います。

 その一方、イスラエル政府は10月7日の奇襲で取られた人質の救出をそれほど重視していません。「(今年)6月15日、イスラエルのテルアビブで、昨年10月以来最大規模の市民デモが開催された。主催者発表でおよそ16万人が、ハマースとの人質交渉再開とネタニヤフ政権退陣・総選挙を即実施せよと訴えた」という海外の報道機関によるネット報道がありました。つまり、人質交渉をしていないということです。イスラエル政府にとっては、人質救出より、パレスチナ人殺戮と建物破壊の方が重要だと考えていることを表しています。イスラエルのガラント国防相は、「我々は人間の顔をしたケダモノと戦っている」と言っています。

 また、あまり報道されませんが、イスラエルはパレスチナ自治区への入植者を増やし、入植地(=植民地)を拡大し続けています。入植者には自衛のためと武器を渡し、パレスチナ人に暴力をふるったり、殺したりし続けています。背後にはイスラエル軍がいて、入植者を守っています。入植地ではユダヤ系住民を優遇し、パレスチナ人を抑圧するアパルトヘイト政策がとられています。実は、イスラエル国家そのものが、先住のパレスチナ人の土地を奪って建国したという意味で、巨大な「入植地」なのです。その入植地を暴力によってさらに拡大し続けているということです。

<『ガザとは何か』より> * 注釈は筆者
1894年 フランスでドレフュス事件が起きる
    * 1894年にフランスで起きた、当時フランス陸軍参謀本部の大尉であったユダヤ人のアルフレド・ドレフュスがスパイ容疑で逮捕された冤罪事件である。
1896年 テオドール・ヘルツル「ユダヤ人国家」を上梓
    * シオニズム運動のさきがけをなす著作。ここでは、ユダヤ人国家像と国家建設のプログラムが詳細に記されている。
シオニズム運動とは、19世紀にユダヤ人のための故郷をパレスチナに建設するために生まれたナショナリズム運動のこと。
1897年 第一回シオニスト会議がスイスのバーゼルで開催
1914年 第一次世界大戦勃発
1917年 バルフォア宣言、パレスチナにユダヤ人の民族的郷土建設を承認
    * イギリスの外務大臣アーサー・バルフォアが、イギリスのユダヤ系貴族院議員であるロスチャイルド男爵ウォルター・ロスチャイルドに対して送った書簡で表明された、イギリス政府のシオニズム支持表明。
1920年 第一次世界大戦戦勝国によるサン・レモ会議開催、イギリスのパレスチナ委任統治が決められる(1923年、委任統治開始)
1933年 ナチス、政権獲得
1936年 英国委任統治下のパレスチナでアラブ民衆による反乱
1939年 第二次世界大戦勃発。ナチスによるホロコーストが起きる
1945年 第二次世界大戦終結
    連合車占領下でユダヤ人難民問題発生
1947年 11月29日、国連総会で「パレスチナ分割案」を採択、パレスチナの民族浄化始まる
1948年 「ナクバ」
    * 「大災厄」と言う意味で、第一次中東戦争中、イギリス委任統治領パレスチナのパレスチナ人を暴力的に追放し、土地、財産、所有物を剥奪し、そして彼らの社会、文化、アイデンティティ、政治的権利、民族的願望を破壊することによって行われた民族浄化のことである
    4 月、デイル・ヤーシーンの虐殺
    * 第一次中東戦争直前の1948年4月9日、当時イギリスの委任統治領であったパレスチナのエルサレム近郊のデイル・ヤーシーン村で起こったユダヤ人武装組織による住民の虐殺事件。老人、女性、子供も含む非武装の村民たちが虐殺された。
    5 月、イスラエル建国宣言、イギリスによる委任治終了
    第一次中東戦争
    12月10日、国連が世界人権宣言採択
    11日、国連総会、決議194号を採択、パレスチナ難民の即時帰還の権利を確認
    国連総会、「ジェノサイド条約」を全会一致で採択
1956年 第二次中東戦争
1957年 パレスチナ民族解放運動組織「ファタハ」発足(初代議長はアラファト、1967年 PLOに加入)
1964年 PLO(パレスチナ解放機構)設立
1967年 第三次中東戦争
    イスラエルは、東エルサレム、ヨルタン川西岸、ガザ、シナイ半島、ゴラン高原を占領
    国連安保理イスラエルに撤退を求める決議(242号)採択
    パレスチナ解放人民戦線(PFLP)設立
1969年 バレスチナ解放民主戦線(DFLP)設立
1970年 ヨルダン「黒い9月」、ヨルダン王政はPLOをレバノンに追放
1973年 第四次中東戦争
1974年 アラファト議長、国連で「オリーブの枝」演説
1975年 レバノン内戦始まる
1976年 3月30日「土地の日」。イスラエル政府の土地収用に反対するパレスチナ系市民に対する弾圧
    レバノン、タッル・エル=ザァタル難民キャンプで集団虐殺
1980年 イスラエル、東エルサレムを併合、首都化宣言
1982年 イスラエル、レバノンに優攻、ベイルートを占領、サブラー・ジャティーラ両パレスチナ難民キャンプで集団虐殺
1985年 レバノン、キャンプ戦争(~1987年)
1987年 第一次インティファーダ始まる
    民族解放組織「イスラーム抵抗運動」(ハマース)誕生
1990年 イラクのクウェート侵攻
1991年 湾岸戦争
1993年 オスロ合意。パレスチナ暫定自治開始
1995年 オスロ合意に調印したイスラエルのラビン首相が暗殺される
2000年 第二次インティファーダ始まる
2001年 アメリカ同時多発テロ事件
2003年 アメリカ軍などによるイラク侵攻
2005年 ガザからイスラエルの全入植地が撤退
2006年 パレスチナ立法評議会選挙でハマース勝利
    イスラエル、レバノンに侵攻(ダーヒヤ・ドクトリン)
2007年 ハマース、統一政府を作るもアメリカは承認せず、ガザ内戦、ハマース勝利。
    パレスチナは、ガザ(ハマース政権)、西岸(ファタハ政権)の二重政権に
    イスラエル、ガザを完全封鎖
2008年 12月、イスラエル、ガザを攻撃(2009年1月にかけて22日間、バレスチナ側の死者1400人超
2010年 チュニジアの地方都市で露天商のムハンマド・ブアズィズィが焼身自殺。「アラブの春」起こる(2011年)
2012年 11月、イスラエル、ガザを攻撃(8 日間。パレスチナ側の死者140人超
    11月、国連総会は「パレスチナ」をオブザーバー国家として承認
2014年 5月、ネタニヤフ・イスラエル首相来日、安倍晋三首相(当時)と会見し、「包括的パートナーシップの構築に関する共同声明」を発表
    4月、ハマース、ファタハと暫定統一政府発足に合意(51日間戦争により頓挫)
    7 月、イスラエル、ガザを攻撃(51日問戦争。パレスチナ側の死者2200人超、うち 500人は子供
2017年 トランプ大統領、アメリカ大使館のエルサレム移転を表明(2018年5月に移転)
2018年 3月末から 1 年半以上にわたり、ガザで「帰還の大行進」
2021年 5月、イスラエル、ガザを攻撃(15日間 パレスチナ側の死者256人
2022年 5月、イスラエル、ガザを攻撃(3日間 パレスチナ側の死者49人
2023年 10月7日、ハマース主導の越境奇襲攻撃を端に、イスラエルによるガザ地区攻撃が始まる

 このようなイスラエルの蛮行をどうして欧米の政府は止めようとしないのでしょうか。ヨーロッパについては、反ユダヤ主義とナチスによるホロコーストへの反省があると言う人もいます。もっと現実的に見れば、それぞれの国の利益のためでしょう。パレスチナ側を支援してもあまり利益はなさそうです。アメリカについては、イスラエル・ロビーというものの存在が大きいのです。ロビー活動とは、特定の主張を有する個人または団体が政府の政策に影響を及ぼすことを目的として行なう私的な政治活動であり、議会の議員、政府の構成員、公務員などが対象となります。

*  なお、市民レベルでは各国で、イスラエル国内も含めて、イスラエル政府を非難する運動が起きています。正統派ユダヤ教徒(イスラエル国内にも人口の1割を超える100万人がいます)は一貫して政府(シオニスト)のやり方に反対してます。シオニストとはシオニズムを信奉する人たちであり、シオニズムとは、年表の注釈でも述べましたが、19世紀末、パレスチナのシオンの地にユダヤ人の民族的国家を創ろうとする思想・運動のことです。「シオン」とは、エルサレムのシオンの丘を指します。パレスチナは無人ではなく、紀元前からいろいろな人たちが住み続けてきた土地です。だから、1948年のイスラエル建国時には、その土地に住んでいたパレスチナ人(3/4=75万人以上)を暴力的に追放する必要があったのです。

 アメリカでは選挙に多額の費用が必要です。そして、選挙に関する寄付は政治的意思表明として擁護されています。ユダヤ系の富裕層には、豊富な資金を団体や政治家に寄付する習慣があります。親イスラエル派の寄付金はアラブ系やイスラーム教徒による寄付に比べて圧倒的に多額です。したがって、イスラエル・ロビーは選挙の際に、親イスラエルの立場をとる政治家を当選させ、反イスラエルの立場をとる政治家を落選させることに大きな影響を与えています。イスラエルに対して友好的な態度をとる候補には膨大な資金を提供する一方で、非友好的と判断された候補については対立候補を送り、多額の資金を投じて追い落としを図ります。大統領でさえ例外ではありません。

 イスラエルの蛮行とそれを支援するアメリカ政府、ロシアのウクライナ攻撃、ハイチやエルサルバドルなど中南米諸国での暴力的な権力争いなど、この世界では、いまなお理不尽な暴力が横行しています。ホモ・サピエンス(知性がある人)は約40万~25万年前にアフリカで誕生したとされています。しかし、いまに至っても暴力はなくなるどころか、より大きく強力になってきています。人間以外の動物も暴力的な争いはするものの、生きるために必要な範囲で行使するだけで、食べ尽くしたり、競争相手を殺し尽くしたりはしません。持続可能な、サステナブルな生き方をしています。しかし、人間は違います。その欲望には限界がありません。その際限のない欲望が人々が助け合いながら生きてゆくべき社会を破壊し、自らの生きる環境を破壊し、自らの死滅を招くのです。

 現在の経済システムでは、この世界の富(モノやサービス)の量は貨幣額で表されます。先ごろ、テスラのイーロン・マスクが8兆円の報酬を受け取ったそうですが、実際に彼自身が生きている間に消費する富の量とは関係がない数字です。「もうお腹いっぱいだ、十分だ」という感覚で富について考える世界とは関係がありません。現在の経済システムはその数字を増やすための競争で成り立っています。イーロン・マスクはまだまだ満足せず、その数字を増やそうとするでしょう。もちろん彼だけではありません。現在の経済システムの中で生きている人のほとんどが、その数字を増やすために競争し合っているとも言えます。(この世界には、得られる数字=貨幣では自身の衣食住さえまともに満たせない人という人が多数いるのですが)その競争の規模が大きくなり、国家レベルになると、戦争という大規模な殺し合い、修復不能な環境破壊にまで至るのです。放射能についての管理能力が未熟なままに巨大なエネルギー(原子力)の営利的利用が推進されるのもこの競争のためです。

 こんなバカげた競争ですが、それを人類はやめられるのでしょうか。現状を見る限り、どうも人類はホモ・サピエンス(homō・sapience=知性がある、賢い人属)ではなく、ホモ・バセオラス(homō・baceolus=知性がない、愚かな人属)のような気がします。そしてこのまま絶滅してしまうのかもしれません。でも、終わらせたくないですね。人間にはホモ・サピエンスもホモ・バセオラスも両方いて、ホモ・バセオラスが権力を握り、社会を動かしている現状を変えればなんとかなるかもしれません。権力者が権力者でいられるのは、それを支える人がいるからです。また、権力者が傍若無人に振舞えるのは、自分には関係がないとして、見て見ぬふりをする人が多いからです。この国にはまだ曲がりなりにも選挙制度というものがあって、投票によって国民はホモ・バセオラスが国政、都道府県政、市町村政にかかわることを防ぐことができることになっています。ホモ・サピエンスのみなさんは、まず、そこから始めてみませんか。

 最後に、一人でも多くの方に下記のYoutubeを見ることをお勧めします。きっと蒙を啓かれると思います。

「ジェノサイドは10月7日始まったのではない 岡真理さん 池田香代子の世界を変える100人の働き人96人目」
https://www.youtube.com/watch?v=exKUQHb04rU&t=61s

 

 



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