高浜原発運転停止仮処分に思う

裁判所の命令で運転中の原発に停止命令がでた。ニュースで取り上げていたほとんどは単に事実を流すだけだったが、現地の賛成派の人のコメントが目を引いた。「この辺の人は皆、関西電力さんにお世話になってる人ばかりだからね、ほとぼりが冷めたらまた関西電力さんが何とかしてくれるんじゃないかな」。その男性はそう言っていた。福島の原発事故の後で、福島の人々がどんな目にあったか知らないわけではなかろう。

もう二度と帰れないだけではなく、子供達も甲状腺癌に罹って人生を台無しにされている。農業も酪農家も漁業も全て、福島は原発の事故のせいで壊滅した。風評被害ではない、安全性に不安がある野菜や魚をわざわざ選んで食べるひとがいるだろうか。あと１００年、福島には人が入れないという。地球が死滅した町。そこではまだ燃料＝ジブリすら見つかってない。海の汚染は南北の沿岸部を放射能で汚染し、果たして流れ出た高濃度の汚染水はどこでどうなったのか。もうニュースですら取り上げない。そんな破壊され尽くした死の町の事を知っていて、なお先程のコメントである。人間はどこまで馬鹿なんだろうと思った。

安全とかどうとかじゃなく、一回事故があれば全てを失うのである。それも１００年単位での死である。福島は電源喪失事故だった。だが今度は何が起きるかわからない。想定外という言葉は、メルトダウンより大規模な爆発が起きる可能性も示唆している。高浜原発がもしもの事になれば、京都も大阪も金沢も無傷ではないだろう。日本の中央が壊滅するのだ。経済損失は福島の比ではない。それだけのリスクを負うのは、第二次世界大戦でもう二度としないと誓ったあの悲惨な戦いより更に、日本にダメージを与えるだろう。

日本は敗戦後２０年で何とか立ち直り、生活も人々を食べさせていくだけの余力が出てきた。だが原発事故は１００年の事故である。日本の真ん中が１００年間も人が住めなくなるのである。例え江戸時代の暮らしに戻るとしても、電気代が今より１０倍高くなっても、原発事故よりはマシだと思う。高浜のコメントした男性は仕事がなくなるというのだろうが、事故が起きたらそんな事を言っていた自分をどう思うだろう。

少しぐらい良い暮らしがしたいだけでリスクを負う、しかも本来は負える筈の無い「他人の命と地球を死滅させるリスク」を、「ほとぼりが冷めたら・・・」と言って誤魔化した。恥ずかしいと思う。原発は安全かどうかの問題では無い。安全以前に、これほどのリスクを冒してやらねばならないことなど、今の日本には無い、全く無いのだ。人間が最もやってはいけないこと、人の命を弄ぶ罪をどうか犯さないでほしいと、思わずつぶやいた。