明日香の細い道を尋ねて

生きて行くと言うことは考える事である。何をして何を食べて何に笑い何を求めるか、全ては考える事から始まるのだ。

今年のツール・ド・フランスを回顧する

2018-08-13 18:17:57 | スポーツ・ゴルフ
元ツールの王者ヤン・ウルリッ匕が、売春婦に暴力を振るって警察に捕まったという記事がニュースに載っていた。ツールの王者がどうして?と思ったが、どうも精神を患っているようである。世界中で放映されているツールだが、人間のやることだから色んな人が出てくるのも致し方ないのである。それで思い出したのだが、私の「ツール愛」も結構長い。その中でもドーピングで選手生命を絶たれた選手が二人、それと異色のスプリンターが一人、その記憶に残る三人のことを書いてみたい。

その前に、先日無事パリへ辿り着いたツール・ド・フランスについてちょっと書いておこう。序盤のスプリント系レースの第一ステージでは、サガンを脅かすコロンビア出身のフェルナンド・ガビリアが優勝した。総合を狙うナイロ・キンタナも同じコロンビアで、近年自転車界で勢力を伸ばしてきた南米の新勢力である。ガビリアは残念ながら途中で他の選手の落車に巻き込まれて転倒し大きくロスしたが、実力は本物で来年は大注目である。山岳ステージに入ってからはSKYが実力を発揮し始めた。やはりアシストの量と質で他チームより一歩抜きん出ている。自転車レースというのは個人の力だけでは戦えなくて、どんなに強い選手がいてもアシストの力が不可欠なのだ。まさにレースは「消耗戦」である。

山岳で最初にアタックしたミッチェルトンのニバリは、元SKYのアシストであるから如何にSKYが強力なメンバーを揃えているか、というのが分かろうというもの。SKYはイギリスのチームだから自転車王国のフランスやイタリアやオランダでも金を掛けて豪華なアシストを揃える「エース揃い」のチームを作ろうと思えば出来そうなものだが、そこは逆に自転車が好き過ぎて俺が俺がになってしまって「群雄割拠」の状況になっているのかもしれない、と変な憶測をしてしまった。難しいところだ。ツールはSKYのゲラント・トーマスが優勝で幕を閉じたが、私は昔見ていた頃の選手を思い出して「今どうしているんだろう?」と、ふと記憶の隅を辿ってみた。

一人は山登りのスペシャリスト、ラボバンクのエース「ラスムッセン」である。ある時レースの序盤に一人で飛び出したままずっと走り続け、「とうとう最後まで走りきってそのまま優勝」してしまった大逃げのレースというエピソードがあった。最初から最後までの一人旅だったので、なんて超人的とその時は思ったが、「後で薬物摂取」が発覚して失格となり、結局はチームもクビになってしまったようだ。その後は自転車界からも追放されたようで、どこで何をしているかニュースも報じていない。山登りのスペシャリストだけに細身・軽量の選手で、当時の優勝候補ランス・アームストロングと対抗して一人戦いを挑んだ勇者、と見ていたので私はショックだった。ドーピングの魔力に負けた一人だったのだろうと思う。その次の年には、ツール出場選手の中には彼の名前はなかった。彼の薬物使用には何の感情もなかったが、何か人間の末路を見たようで寂しい気持ちになったのを覚えている。

もう一人はカザフスタンの英雄「ヴィノクロフ」である。自転車界のスーパースターで、劣勢のチームながら迫力あるプレースタイルで人気があった。彼はアスタナという「ブルーのアスタナカラー」が粋なカザフ国営チームで活躍していたが、ある年のツールの序盤のレースで、他の選手の転倒に巻き込まれて怪我を負ってしまったことがある。その後のレースでは怪我の具合がよくなくて、どうしても成績が出なかった。ところが途中のステージで驚異的な力を発揮して「天馬空を行く」かのごとき活躍で勝ってしまったのである。余りの勝ちっぷりに興奮したが、試合後の検査で薬物使用が発覚したのだ。結局彼もドーピングで失格になり、チームからも去っていった。彼の残していった言葉の断片から推測されることは、「どうしても勝たねばならなかった」というチーム事情である。それが落車による怪我でいっそう困難になったのだ。自身の不運を乗り越えて勝利するためには、もう薬物に頼る以外に方法がなかったのだろう。彼もまた人間以外の「力の後押し」の誘惑に勝てなかった。路傍で膝を抱えうつ向く彼の哀しい映像が、今でも瞼の裏に残っている。彼には、選択の余地は無かったのかも知れない。

最後の一人はスイスのファビアン・カンチェッラーラである。恵まれた身体能力で圧倒的な存在感を示すツールの常連である。彼は勿論ドーピングの影など微塵もない「陽の当たる場所をずっと歩いてきたスーパースター」なのだ。彼の凄いところは平坦での突出したパフォーマンスに加えて、「アップダウン」にもその抜きん出た力を発揮して活躍、坂道のある「個人TT」には他を寄せ付けないものがあった。私が記憶しているのは「コーナーの抜け方」が異次元の素晴らしさだったことである。他の選手がコーナーを回る時は当然ブレーキを握って減速し、ラインを踏まないように気をつけながら「入りを慎重にスピードを落として」抜けていく。だがカンチェッラーラだけは地面にタイヤが張り付いているかのごとく「スムーズに速度を落とさず」走り抜けていく。ある時市街地コースの観客がひしめき合っている直角カーブで実力を見せつけたカンチェッラーラは、アナウンサーが「なんて美しいコーナリングなんだ!」と唸ったほどのテクニックで観客を沸かせたのである。成績は「世界個人TTを2度の連覇」と圧勝、「オリンピックでも金メダル2回」と世界一の称号を独占、ツールでも「個人TTを7勝」と王者の名を欲しいままにした。単に勝ち負けだけに留まらない「ツールの人気者」でもあった戊である。ツール以外での数々の勝利をも含めて「歴史に残るTTスペシャリスト」と自他共に認める活躍を重ねてきたが、2016年のリオ・オリンピックで個人TT金メダルを最後の花道として、選手生活を引退した(正確にはその後、ジャパンカップ出場)。惜しい選手がまた一人ツールを去っていったなぁと感慨深い。

私はスカイの「クリス・フルーム」を余り好きではない。如何せん実績は文句無いが、イマイチ走りに「凄い!」と思わせる所がないのである。これは彼が伸び盛りの迫力ある走りを見せていたころには私が余りツールに興味がなかったせいもある。しかしツール5連覇は「計算されたチームの後押し」があって達成できた感じが、どうしても払拭できないので「大好き!」とはならないのだ。それに「見た目がイマイチかな?」と、ファン心理の本音が出る。今年優勝したゲラント・トーマスはまだ役不足と感じたので、私の歴代ナンバー1自転車乗りは「カンチェッラーラで決まり!」である。彼のようなカッコいい選手はなかなか出てこないような気がするのは、一種のノスタルジーでもある。

今年はNHKのハイライトでツール観戦したが、やはり来年は「Jスポーツ4」を契約して、どっぷりツールに浸かるのも悪くはないかな、って気がして来た。

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