最後に動物園にでかけたのは、いつごろでしょうか。
月に1回は行ってるよ!という動物園ファンの方もいれば、小学校の遠足で行ったきりという方もいらっしゃると思います。
大人になると、なかなか動物園に行く機会が無いですよね。
そう考えると、一般的に、動物園は子供や家族連れのためのレジャー施設というイメージが強いかもしれません。
今回ご紹介するのは、動物園の、展示だけではない新しい役割について書かれた本です。
題名は、「動物たちの箱船-動物園と種の保存-(原題: LAST ANIMALS AT THE ZOO)」。
著者のコリン・タッジは、動物学者であり、一般向けの本も多く書いているサイエンスライターです。動物園の役割は、すみかを失い、数を減らしている野生動物を後世に残すことだとして、動物園における「種の保存」の取り組みがわかりやすく紹介されていました。
動物園が種の保存のために取り組んでいることの中で、「そういうことだったのか!」と思ったことを2つ紹介します。
ときどき、「○○動物園から○○動物園へゾウがお引っ越し」というニュースを聞くことはありませんか?
コリン・ダッジは、「動物たちは、動物園間で必要に応じて引っ越しをすべきだ」と言います。
といっても、動物園間の友好を深めろ、というわけではありません。
動物園は、絶滅の危機に瀕している生き物を後世に残すため、飼育下での繁殖に取り組んでいます。
しかし、一つの動物園の中で繁殖させて世代を重ねていくと、飼育している動物たちの間で遺伝情報がどんどん似てきます。
そうなると、同じ病気にかかり易くなり、全滅の危険性が高まるなど、いろいろと悪い影響が出てきてしまうのです。
そこで、他の動物園から遺伝情報が似ていない動物に来てもらい、遺伝的な多様性をできるだけ保つ取り組みが「動物のお引っ越し」という訳なのです。
もう一つは、展示の方法についてです。
近年、飼育環境を実際の生息環境に近づけたり、動物の行動を引き出すような道具を設置したりしている展示が増えています。
日本では旭山動物園の取り組みで有名になりましたよね。
著者曰く、このような取り組みは、「動物をより魅力的に見せるだけでなく、種の保存の面でも重要である」とのこと。
動物を後世に残す、といういうことには、動物が本来持っている習性や行動の多様性の保存も含まれる。
だから、飼育環境や行動も自然の状態に近づけておくべきだ――というのです。
このことは、WEcafe vol.15,16「あなたの知らない動物園」でも、話題に登場していました!
この本の中では、動物園で生き物を飼育する最終的な目的は、本来の生息地が再生したとき、野生に戻すことであると書かれています。
実際、アラビアオリックスやゴールデンライオンタマリンなど、野生の個体が絶滅した後、動物園で飼育されていた個体を野生に戻すことに成功した例があります。
しかし、コリン・タッジは地球環境が完全に生き物が暮らしやすい状態に戻るまでには、100年、200年、またはそれ以上かかるだろうといいます。
これから動物園で何世代にもわたって暮らした動物たちの、遺伝的な多様性や本来の習性が失われないような飼育・展示の工夫に、なるほど~と納得しました。
手軽によむにはボリュームが多く、一部専門的な知識が必要なところもありますが、普段何気なく入ってくる「◯◯の赤ちゃんが生まれました」や「動物のお引っ越し」というニュースも、この本を読むと少し違って聞こえることうけあいです。
また、これからの動物園について著者の見解も書かれているので、将来動物園で働きたいと思っている方にもお勧めの本です!
(WEcafeスタッフ 宮崎)