2018年3月18日、トークイベントWEcafe vol.67「いつかパパ・ママになりたい!を叶える最先端の生殖補助医療技術」を開催しました。
19名が参加し、スタッフやゲストを含めると会場のさんさき坂カフェはほぼ満員。
生殖補助医療胚培養士(病院で卵子や精子を扱う技術者)による最新の医療技術の話題で盛り上がりました。
当日参加できなかった方のために、簡単な抜粋レポートを載せておきます。
不妊治療について
不妊の治療や検査を受けたことのある(または現在受けている)カップルは現在6組に1組(※1)。
将来的には3.5組に1組になるとも言われている。増加の主な理由は、晩婚化に伴う出産年齢の高齢化。
※1 出典:国立社会保障・人口問題研究所 第15回出生動向基本調査
http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou15/NFS15_report4.pdf
不妊の原因
WHOによると不妊症の約半数は男性に要因があるので、不妊治療は男女両方にとって切実な問題。
1. 年齢
(女性)人工授精、顕微授精後に胚を体内へ戻したときの妊娠率、不妊治療全般を受けた人の妊娠率は、(個人差はあるものの)35歳頃から急速に低下。流産率は35歳頃から増加(※2)。35歳以下の女性から卵提供を受けた場合は50代でも妊娠率が高いことから、卵の老化が主要因と考えられる。
※2 日本産科婦人科学会 生殖補助医療 妊娠率・生産率・流産率(2015年) 一部改変
(男性)きちんとした科学的なデータに乏しいが、老化すると言われている。
2. 疾病
(女性)あまり知られていないのは免疫疾患で、抗精子抗体を持つ場合。全ての精子を攻撃してしまうほどの強い抗精子抗体の場合には、顕微授精が必須。
3. 生活習慣や環境
(男性)心的ストレス、酒・タバコ→やめることによって状態が改善する。
熱をためないこと…PCを膝に乗せて長く過ごす、サウナに入りすぎる、自転車に長く乗る(血管が圧迫されて精巣の温度が上がる。精子は熱に弱いため、血流の悪化等がEDの原因になることも)、など。
ブリーフよりもトランクスの方がおすすめ。
現在の不妊治療のステップ
・最初に調べること
採血して、ホルモンの値や性感染症の感染がないか調べる。特に、クラミジアは伝染りやすく、自覚症状が無い場合が多い。
卵管や精管の閉塞を引き起こしていることもある。
1. 「タイミング法」
排卵日を調べて教える。
2. 「人工授精」
精子だけ預かる。状態のいい精子を選り分けて濃縮し、女性の体内に入れる(精液の成分のうち精子は1%程度)。
「人工」と言っているが、体内に入れてから精子と卵子が出会うのは自然に任せる方法。
3. 「体外受精」
精子も卵も採取する。卵は毎月複数個が競ってから最終的に1個のみ成熟し、他は消退し二度と排卵されない。
それらの卵も誘発剤を使って成熟させ、排卵前に内径1 mmほどの微小な針を使って回収し、シャーレの中で精子の液と混ぜ合わせる。
受精卵のうちの原則1個を女性の体内に戻す。
残りの受精卵は凍結保存し、着床しなかったときの再チャレンジや将来の第2子の妊娠のために利用されている。
4. 「顕微授精」
精子も卵も回収する。内径4.5 μmの細さのピペットを使い、卵の中に精子を1つだけ入れる。
処置前に卵の周辺にある顆粒膜細胞をピペットではがす。
授精の作業のために卵を固定するときは、胚培養士が顕微鏡に繋がったチューブを口で吸って陰圧をかけて微調整する。
意外にも全て手作業で、高い技術が必要。
・採卵時の痛みは?
麻酔をしたうえで膣壁から約2mmのところにある卵巣へ針を刺す。
針による穴は1ヶ月程度で修復するが、卵巣の休養期間として次の採卵まで3ヶ月程度は間を空ける場合がある。
・精子の採取方法は?
基本的には排出された精液を提出してもらうが、無精子症などで十分な精子の量が得られない場合は、精細管の基部に針をさして採取する。
採取の際には静脈全身麻酔を施すことが多い。
最新の治療技術
・DFI(DNA fragment Index)
DNAが断片化してしまっている精子の割合をDFI(DNA fragment Index)という。
精子のDFIが高いと受精率や妊娠率が低下するので、DFIの値によって不妊治療の方針を決める。
・着床前検査
受精卵の一部を採取し、残りは一度凍結保存。染色体検査をして異常がなかった胚だけを体内に戻す。
患者さんによっては、異常のない胚が43個中2個ということもあった。なかなか認可されなかったが、最近できるようになった。
妊娠中(着床後)に血液や羊水で調べる出生前診断は以前から許可されておりダウン症なども調べられるようになっているというのに、着床前の検査は認可までに時間がかかった。
今後の不妊治療について
・第三者からの提供(卵バンク・精子バンク)
海外では存在するが、日本では普及していない(実施している機関はある)。
・卵の凍結保存
35歳以前の女性から採取した卵を使えば、35歳以上でも妊娠率が高いことから、若い頃に卵を採取して凍結保存しておき、将来妊娠を希望したときに使用するという選択が一般的になるかもしれない。
・35歳の壁は乗り越えられないのか?
(個人差はあるものの)基本的には、生物学的に難しい。
胚培養士(生殖補助医療胚培養士)について
・仕事内容
産婦人科で顕微授精や体外受精、受精卵の培養などの生殖補助医療を行う医療技術者。
学会認定の資格で国家資格ではない。
麻布大学獣医学部で学んだゲストのように、大学生の頃から動物の受精卵の扱いや培養等の経験を積んでいる人もいれば、就職してから初めて勉強した人もいる。
(参加された教員の方からの質問に答えて)高校生に伝えたいこと
1. 卵も精子も老化する
不妊治療の技術は進んでも限界がある。晩婚化が進み、「出産は仕事が落ち着いてから」と考える方もいると思うが、35歳頃から妊娠率が低下していくことは知っておいてほしい。
2. 避妊具コンドームを使用してほしい
避妊具のコンドームは妊娠を避けるだけでなく性感染症も防げる。性感染症に無自覚なまま過ごした結果、卵管・精管の閉塞で妊娠困難となっている方がいる。
3. 不妊治療カップルへの理解を
不妊治療を受けるカップルは将来3.5組に1組になると言われている。より身近な存在になるし、自分がその対象になるかもしれない。妊娠を希望する人たちに対し理解しサポートするような社会になっていかないといけない。