若子さんと美子さん

先日の列車の中でのことです。

私は向かい合わせ４人のボックス席、窓側に座っていました。
隣には２０歳前後の女性が座りました。若いので若子さんにします。

私のお向かいさんはやや高齢の女性、向井さん。
その隣は２５歳前後の女性でした。美子さんにします。

しばらくすると、隣の若子さん、バッグから取り出した缶飲料を飲み始めました。
コーヒーではないぞ・・・ん、このにおいは？　鼻がひくひくするんです。

飲み終えた若子さん、手を伸ばして空き缶を窓側の置き台のところにカッツーンと置きました。
寝たふりをしていた私が、薄め目をあけて見ると、オニオンスープでした。

なるほどオニオンのにおいだったのか。列車の中ではけっこうきついですね。

と、今度はバッグから取り出したのは化粧道具。
やおら始まった眉ひきにマスカラづけ、ああ私のもっとも嫌いなタイプだと、あけていた薄目をかたく閉じてしまいました。

それでも私の目の前に置かれたオニオンスープのにおいはついてきます。
どうするんじゃ、この缶を！　

化粧を終えた若子さんは休憩モードで空き缶には見向きもしません。
私があれこれ思いをめぐらせていると、２駅ほどで若子さんは何事もなかったように下車していきました。

すると、斜め前に座っていた美子さんが、瞬時にバッグからビニール袋を取り出し、空き缶を袋に入れました。
そして、しばらく後、缶の入った袋を持って降りていきました。

目の前で見た二人の女性のふるまいはまさに対照的でした。
向井さんはあの瞬時を見たかしら。

私は自分がそうしなかったことをひどく悔いています。
美子さんよりも先にすべきだったと。

美しさとはなんでしょう。
若子さんと美子さん、２０年後、３０年後はどんな女性になるのでしょう。