南伊豆へ５

知り合いの家に招かれるような感覚で、引き戸を開ける。
距離をとったのか、厨房から出たところだからなのか、廊下の端で出迎えてくださったのは、こざっぱりとしたエプロンに三角巾をきっちりと巻いたきりりとしたご婦人だ。
夫に丁寧に早々のお振込みありがとうございましたとお礼を述べられた。


楽天トラベルを通じて予約をしたが、支払いは現地現金払いの表示になっていた。私たちは現金を持ち歩くのは気が重いなと思ったので、振込にしていただいたのだ。

出迎えてくれた方は、到着時に離れの鍵を開けてくれた女性とは違う。
食事の用意が出来たと知らせてくれたのは、落ち着いた声からして今の女性。

宿のご主人がミニバンの中で、「家内が横浜から移住することに賛同してくれたんで」と話してくれたが、その奥様なんだろう。

連泊の初日は、焼き物に伊勢海老、刺身はサザエ、蒸し物はアワビと海鮮好きにはたまらんラインナップ。
伊豆の海鮮と言えば金目、その煮つけもある。
１匹の身を縦に二つ割った伊勢海老に夢中になっていると、天ぷらが運ばれてきた。山の幸、海の幸、もちろん、申し分ないおいしさ。
配膳はおそらくお嬢さんの担当らしい。鍵を開けてくれた女性。

夫は私がムキになって伊勢海老の殻をほじっているのを笑い、そんなにしなくっても。。という。

感激したのは、金目の煮つけだ。以前も熱海や下田で食べたことはある。
しかし、私は魚は塩焼きが一番だと思っているので、まぁ煮つけもたまにはいいだろうけどね、と思った。
が、こんなに美味しい煮つけは初めてだ。何と上品な甘み。脂がのっているが、くどくない。旨味だけがストレートに味わえる。

じゅんさいとキュウリの酢の物にもアワビが入っていて、なお涼やか。
セリの煮びたしと小さな里芋、オクラとユリネとホンシメジの吸い物など多彩で飽かずどれも美味しく食べられる。

ご飯はお出汁の効いている炊き込みで、アワビ入り。

ゆっくり二人だけで、こんな豪華な食事をいただいている。
もう、幸せ。満腹。


ふと外を見れば、大きな窓の外は真っ暗。

離れに案内されたときに、蚊取り線香の説明も受けていた。
窓の外の外灯に羽虫が集まっているのは当然、そして家で年がら年中お香の代わりに蚊取り線香を焚く夫が、いそいそと火を着けて、あっちにこっちに移動させていたのを見ていた。

今窓のところの羽虫の中には、大きな蛾などは少なく、小さいのがちょっと多いなぁくらいに思っていた。

まだ、つづく。