中野剛志著の集英社新書、『TPP亡国論』を今回の同窓会行きの列車の中で読んだ。中野剛志は現在京都大学大学院工学研究科の助教授(2011年時)であるが、元経済産業相の課長補佐を務めていた。いわば政府側の人間であった人だ。
『TPP亡国論』は、TPPへの参加は単に農業が破壊されるにとどまらず、デフレ状態にある日本経済をさらに深刻化させ、デフレからの脱却を困難にすると指摘している。世界経済が深刻になっている時、日本の市場を開放する自由化の流れは、日本の市場を世界に食い荒らされることができるよう道を開くことなると喝破している。この点で『TPP亡国論』には学ばされるものも大いにあると思う。同時に、彼の経歴などが示すように、現在の日本の政治の根本問題である「大企業・財界いいなり」「アメリカいいなり」という2つの異常からの脱却の問題は触れられず、「日米同盟が主軸」であるいう見解であるように感じられた。その点で、根本的な打開の展望は示されないのだが、とにもかくにもTPPは日本の経済をダメにし、国民のくらしを壊すという点で鋭く指摘している点では意見が一致する。また、日本農業をめぐっては「付加価値の高い農産物をつくれば、国際的競争にも勝てる」という論についても、付加価値の高い農産物は生活必需品ではなく、嗜好品の中に分類され、ひとたび食糧危機が起これば売れなくなってしまうことを指摘。基本的農産物の増産ができるような仕組みが必要であることを力説している点も注目した。