弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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「当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合」の対処法

2013-03-04 | 日記
Q97 事業場外みなしの適用がある営業社員について,「当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合」(労基法38条の2第1項但書)には,どのように対処するのがお勧めですか?


 事業場外みなしの適用がある営業社員について,「当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合」(労基法38条の2第1項但書),当該業務に関しては,「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」労働したものとみなされます。
 「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」とは,通常の状態でその業務を遂行するために客観的に必要とされる時間のことであり,平均的にみれば当該業務の遂行にどの程度の時間が必要かにより,当該時間を判断することになります。

 「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」が何時間かは,事前に決めておかないと後から争いになりますので,労使協定(労基法38条の2第2項)により,その時間を定めておくべきでしょう。
 その結果,例えば,所定労働時間が1日8時間の事業場において,「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」が1日11時間と定められた場合は,1日3時間分の残業代(割増賃金)を支払う必要があることになります。

 1日3時間分の残業代は,残業代以外の基本給等の賃金とは金額を明確に分けて,それが残業代だと客観的に分かる形で支給するようにして下さい。
 残業代が残業代以外の基本給等の賃金とは金額を明確に分けて支給するようにさえしておけば,万が一,事業場外みなしの適用が否定されたとしても,残業代の支払自体はなされていることに変わりはないのですから,残業代に不足が生じる場合に不足額についてのみ追加で支払えば足りることになります。
 例えば,事業場外みなしの適用が否定された場合で,1日4時間残業していたと認定されたとしても,3時間分の残業代は基本給等の賃金とは金額を明確に分けて支給済みですから,1時間分の残業代を追加で支払えば足りることになりますので,会社のダメージはそれ程大きくはありません。
 残業代請求に対するリスク管理としては,事業場外みなしの適用があるかどうかよりも,実態に適合した金額の残業代が残業代以外の基本給等の賃金とは金額を明確に分けて支給されているかどうかの方が,重要とさえいえると思います。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

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営業社員と残業代

2013-03-04 | 日記
Q96 営業社員であれば残業代を支払わなくてもいいのですよね?


 営業社員も労基法上の労働者ですから,1日8時間,週40時間を超えて労働させた場合,深夜(22時~5時)に労働させた場合,1週1休の法定休日(労基法35条)に労働させた場合には,原則として労基法37条所定の残業代(時間外割増賃金,深夜割増賃金,休日割増賃金)を支払う必要があります。
 事業場外労働時間のみなし制(労基法38条の2)が適用され,所定労働時間労働したものとみなされれば,結果として時間外労働がなかったことになり,時間外割増賃金の支払を免れることもありますが,営業社員であれば事業場外みなしが適用されるとは限りません。
 また,業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては,当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなされますので(労基法38条の2第1項ただし書き),事業上外みなし制が適用される場合であっても,業務を遂行するためには通常1日8時間を超えて労働することが必要となる場合においては,1日8時間を超えた時間については残業代(時間外割増賃金)の支払が必要となります。

 事業場外みなし制が適用されるためには,当該営業社員が事業場外で業務に従事しただけでなく,「労働時間を算定し難いとき」に該当する必要があります。
 事業場外で業務に従事する場合であっても,使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合は労働時間の算定が可能なため,事業場外みなしの適用はありません。
 解釈例規(昭和63年1月1日基発第1号・婦発第1号)では,以下のような場合には事業場外みなしの適用はないとされています。
① 何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で,そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
② 事業場外で業務に従事するが,無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合
③ 事業場において,訪問先,帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち,事業場外で指示どおりに業務に従事し,その後事業場にもどる場合

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

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管理監督者該当性に関する従来の一般的な判断基準とは異なる立場

2013-03-04 | 日記
Q95 管理監督者該当性に関する従来の一般的な判断基準とは異なる立場にはどのようなものがありますか?


 管理監督者該当性に関する従来の一般的な判断基準とは異なる立場としては,『労働法 第十版』(菅野和夫著)340頁の以下の見解が有力です。
 「近年の裁判例をみると,管理監督者の定義に関する上記の行政解釈のうち,『経営者と一体の立場にある者』,『事業主の経営に関する決定に参画し』については,これを企業全体の運営への関与を要すると誤解しているきらいがあった。企業の経営者は管理職者に企業組織の部分ごとの管理を分担させつつ,それらを連携統合しているのであって,担当する組織部分について経営者の分身として経営者に代わって管理を行う立場にあることが『経営者と一体の立場』であると考えるべきである。そして,当該組織部分が企業にとって重要な組織単位であれば,その管理を通して経営に参画することが『経営に関する決定に参画し』にあたるとみるべきである。最近の裁判例では,このような見地から判断基準をより明確化する試みも行われている。」

 一般的な判断基準とは違う判断基準を用いて管理監督者を判断した裁判例としては,ゲートウェイ21事件東京地裁平成20年9月30日判決,プレゼンス事件東京地裁平成21年2月9日判決,東和システム事件東京地裁平成21年3月9日判決などがあります(いずれも管理監督者該当性を否定)。
 3件とも東京地裁民事11部の村越啓悦裁判官(当時)1人の書いた判決です。
 これらの判決は,「管理監督者とは,労働条件の決定その他労務管理につき,経営者と一体的な立場にあるものをいい,名称にとらわれず,実態に即して判断すべきであると解される(昭和22年9月13日発基第17号等)。」とした上で,具体的には,以下の①②③④の要件を満たすことが必要であると判断しています。
① 職務内容が,少なくともある部門全体の統括的な立場にあること
② 部下に対する労務管理上の決定権等につき,一定の裁量権を有しており,部下に対する人事考課,機密事項に接していること
③ 管理職手当等の特別手当が支給され,待遇において,時間外手当が支給されないことを十分に補っていること
④ 自己の出退勤について,自ら決定し得る権限があること

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

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