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休業期間は平均賃金の60%の休業手当のみを支払えば足りますか?

2013-04-27 | 日記
Q249 休業期間は平均賃金の60%の休業手当のみを支払えば足りますか?


 会社の業績が悪いことを理由とした休業がなされた場合は,通常は使用者の責めに帰すべき事由があると言わざるを得ないため,平均賃金の60%以上の休業手当(労基法26条)を支払う必要があります。
 休業手当の支給義務は,労働協約,就業規則,個別合意により排除することはできません(労基法13条)。

 平均賃金の60%の休業手当のみを支払う旨の労働協約が締結された場合には,当該労働組合の組合員については,平均賃金の60%の休業手当を支払えば足ります。

 少数組合の組合員など,労働協約の効力が及ばない社員に対し,平均賃金の60%の休業手当を超えて賃金を支払う必要があるかどうかについては,従来,民法536条2項の「使用者の責めに帰すべき事由」の存否の問題として争われてきました。
 使用者が労働者の正当な(労働契約上の債務の本旨に従った)労務の提供の受領を明確に拒絶した場合(受領遅滞に当たる場合)に,その危険負担による反対給付債権を免れるためには,その受領拒絶に「合理的な理由がある」など正当な事由があることを主張立証すべきであり,その合理性の有無は,具体的には,使用者による休業によって労働者が被る不利益の内容・程度,使用者側の休業の実施の必要性の内容・程度,他の労働者や同一職場の就労者との均衡の有無・程度,労働組合等との事前・事後の説明・交渉の有無・内容,交渉の経緯,他の労働組合又は他の労働者の対応等を総合考慮して判断すべきものとされています(いすゞ自動車事件宇都宮地裁栃木支部平成21年5月12日判決)。

 民法536条2項は民法上の任意規定であり,特約で排除することもできるため,労働契約及び就業規則において休業期間中は平均賃金の60%の休業手当のみを支払い,民法536条2項の適用を排除する旨明確に定めておけば,理論的にはこれを超える賃金を支払う義務はないはずです。
 しかし,休業手当に関し,就業規則に「臨時従業員が,会社の責に帰すべき事由により休業した場合には,会社は,休業期間中その平均賃金の6割を休業手当として支給する。」と定められている事案において,「被告は,本件休業に係る休業手当額を平均賃金の6割にすることについては,第1グループ原告らとの間の労働契約及び臨時従業員就業規則43条により,その旨の個別合意が存在し,この合意は本件休業の合理性を基礎付ける旨主張する。しかし,上記の規定は,労働基準法26条に規定する休業手当について定めたものと解すべきであって,民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」による労務提供の受領拒絶がある場合の賃金額について定めたものとは解されないから,被告の上記主張は,その前提を欠くというべきである。」と判示している裁判例(いすゞ自動車(雇止め)事件東京地裁平成24年4月16日判決,労判1054号5頁)もありますので,民法536条2項の適用を排除する場合は,最低限,単に休業期間中は平均賃金の60%の休業手当を支払うとだけ就業規則に規定するのではなく,民法536条2項の適用を排除する旨明確に規定しておくべきです。
 また,就業規則が労働契約の内容となるための要件として合理性が要求されていることもあり(労契法7条),事案によっては適用が制限されるリスクがないわけではありません。

 なお,大多数の社員の理解を得られないまま休業を行った場合,会社経営に支障が生じる可能性が高いため,少なくとも多数派の同意を得ておくべきでしょう。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

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会社の業績が悪いのに,賃金減額に同意しない。

2013-04-27 | 日記
Q26 会社の業績が悪いのに,賃金減額に同意しない。


(1) 賃金減額の方法
 賃金減額の方法としては,①労働協約,②就業規則の変更,③個別同意によることが考えられます。

(2) 労働協約による賃金減額
 労働組合との間で賃金に関する労働協約を締結した場合,それが組合員にとって有利であるか不利であるか,当該組合員が賛成したか反対したかを問わず,労働協約で定められた賃金額が労働契約で定められた賃金額に優先して適用されるのが原則です(労組法16条)。
 したがって,労働者が賃金減額に反対していたとしても,当該労働者が加入している労働組合との間で賃金を減額することを内容とする労働協約を締結すれば,賃金を減額することができることになります。
 労働協約が締結されるに至った経緯,当時の会社の経営状態,同協約に定められた基準の全体としての合理性に照らし,同協約が特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたものである場合には,その規範的効力を否定され(朝日海上火災保険(石堂・本訴)事件最高裁第一小法廷平成9年3月27日判決),賃金減額の効力が生じませんが,例外的場面といえるでしょう。

 労働協約の規範的効力が及ぶ範囲は組合員との範囲と一致するため,労働協約締結後に組合員となった者にも労働協約の規範的効力が及びますが,労働組合を脱退した場合には労働協約の規範的効力が及ばなくなります。
 したがって,労働協約による賃金減額の効力が及ぶのは,原則として労働協約を締結した労働組合の労働組合員に限られることになります。

 労働協約には,労組法17条により,一の工場事業場の4分の3以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは,当該工場事業場に使用されている他の同種労働者に対しても右労働協約の規範的効力が及ぶ旨の一般的拘束力が認められており,この要件を満たす場合には,賃金減額に反対する未組織の同種労働者に対しても労働協約の効力を及ぼし,賃金を減額することができます。
 労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容,労働協約が締結されるに至った経緯,当該労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし,当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは,労働協約の規範的効力を当該労働者に及ぼし,賃金を減額することはできません(朝日海上火災保険(高田)事件最高裁第三小法廷平成8年3月26日判決)が,例外的場面といえるでしょう。

 具体的に発生した賃金請求権を事後に締結された労働協約により処分又は変更することは許されません。

 少数組合に加入している組合員に対しては,労組法17条の一般的拘束力は及びませんので,少数組合に加入している組合員の賃金を減額するためには,当該少数組合と労働協約を締結するか,就業規則を変更するか,個別同意を取る必要があります。
 未組織組合員に一般的拘束力が及ばない場合に賃金を減額するためには,就業規則を変更するか,個別同意を取る必要があります。

(3) 就業規則による賃金減額
 就業規則により賃金を減額する場合は,就業規則の不利益変更に該当するため,就業規則の変更が有効となるためには,以下のいずれかの場合である必要があります。
① 労働者と合意して就業規則を変更したとき(労契法9条反対解釈)
② 変更後の就業規則を周知させ,かつ,就業規則の変更が,労働者の受ける不利益の程度,労働条件の変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき(労契法10条)

 ①に関し,「就業規則の不利益変更は,それに同意した労働者には同法9条によって拘束力が及び,反対した労働者には同法10条によって拘束力が及ぶものとすることを同法は想定し,そして上記の趣旨からして,同法9条の合意があった場合,合理性や周知性は就業規則の変更の要件とはならないと解される。」(協愛事件大阪高裁平成22年3月18日判決)との見解が妥当と思われますが,労働者の同意があれば合理性や周知性は就業規則の変更の要件とはならないとの見解に立ったとしても,合意の認定は慎重になされるのが通常であるため,最低限,書面による同意を取る必要があります。
 労働者が就業規則の変更を提示されて異議を述べなかったといったことだけでは足りません。
 特に,合理性を欠く就業規則の変更については,書面による同意を取ったとしても,労働者の同意があったとは認定されないリスクが高いでしょう。

 ②に関し,賃金,退職金など労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において,その効力を生ずるとするのが最高裁判例です。
 賃金の減額には高度の必要性が必要となります。

 具体的に発生した賃金請求権を事後に変更された就業規則の遡及適用により処分又は変更することは許されないとするのが最高裁判例です。

(4) 個別合意による賃金減額
 社員から個別同意を取ることにより賃金減額をすることも考えられますが,個別合意よりも社員に有利な労働条件を定めた労働協約,就業規則が存在する場合には,それらの効力が個別合意に優先するため(労組法16条,労契法12条),個別合意により賃金を減額することはできません。
 個別合意よりも社員に有利な労働条件を定めた労働協約,就業規則が存在しない場合は,個別合意により賃金を減額することができますが,賃金減額に対する同意の認定は慎重になされることが多いので,最低限,書面での同意を取っておく必要があります。
 賃金減額に異議を述べずに勤務を続けたから黙示の同意があったと説明を受けることがありますが,賃金減額に異議を述べずに勤務を続けたという程度で,黙示の同意があったと認定してもらうのは難しいケースが多いというのが実情です。

 「既発生の」賃金債権の減額に対する同意は,既発生の賃金債権の一部を放棄することにほかなりませんから,それが有効であるというためには,それが労働者の自由な意思に基づいてされたものであることが明確である必要があります(シンガーソーイングメシーン事件最高裁第二小法廷昭和48年1月19日判決)。
 「未発生の」賃金債権の減額に対する同意についても「賃金債権の放棄と同視すべきものである」とする裁判例もあるが,「未発生の」賃金債権の減額に対する同意は,労働者と使用者が合意により将来の賃金額を変更した(労契法8条参照)に過ぎず,賃金債権の放棄と同視することはできないのですから,通常の同意で足りると考えるべきです(北海道国際空港事件最高裁第一小法廷平成15年12月18日判決参照)。

(5) 定期昇給凍結
 就業規則に一定額・割合以上の定期昇給を行う義務が定められている場合に定期昇給を凍結するためには,定期昇給を凍結する旨の労働協約を締結するか,定期昇給を凍結する旨就業規則の附則に定める等の就業規則の変更が必要となります。
 労働協約を締結できず,定期昇給を凍結する旨の就業規則の変更に関し同意が得られない場合は,就業変更により一方的に労働条件の変更をせざるを得ませんが,その合理性(労契法10条)の有無が問題となります。
 就業規則に一定額・割合以上の定期昇給を行う義務が定められておらず,使用者に定期昇給の努力義務が課せられているに過ぎない場合は,定期昇給をしなくても法的問題はありません。

(6) ベースアップ凍結
 ベースアップは労使交渉により特段の決定がなされない限り行う必要がありません。

(7) 賞与不支給
 個別労働契約,就業規則,労働協約で一定額・割合の賞与を支給する義務が定められていない場合には,使用者には賞与を支給する義務がないため,賞与不支給としても法的には問題がありません。
 他方,一定額・割合の賞与を支給する義務が定められている場合は,賞与を支給する義務があります。
 賞与を支給する義務がある場合に,就業規則の定めを変更して賞与不支給とする場合には,就業規則の不利益変更の問題となるため,その合理性の有無が問題となります。

(8) 諸手当の廃止,支給停止
 賃金規定で定められた諸手当の廃止,支給停止を行う場合は,賃金規定を変更したり,附則に支給を停止する旨定めたりする必要があり,就業規則の不利益変更の問題となります。

(9) 年俸額の引下げ
 年俸制を採用した場合に,年度途中で年俸額を一方的に引き下げることができるか,次年度の年俸額引下げを求めたところ合意が成立しない場合における次年度の年俸額がどうなるかは,当該労働契約の解釈の問題です。
 労働契約上明確にしておけば,原則としてそれに従うことになりますが,労働契約上明確でない場合は,年度途中で年俸額を一方的に引き下げることはできないケースが多い印象です。
 次年度の年俸額引下げを求めたところ合意が成立しない場合における次年度の年俸額については,使用者の提示額を超えては請求できないとされた裁判例,前年度実績の年俸額を支給すべきものとされた裁判例等,様々な裁判例があります。

(10) 休業時の賃金カット
 会社の業績が悪いことを理由とした休業がなされた場合は,通常は使用者の責めに帰すべき事由があると言わざるを得ないため,平均賃金の60%以上の休業手当(労基法26条)を支払う必要があります。
 休業手当の支給義務は,労働協約,就業規則,個別合意により排除することはできません(労基法13条)。

 平均賃金の60%の休業手当を支払う旨の労働協約が締結された場合には,当該労働組合の組合員については,平均賃金の60%の休業手当を支払えば足ります。

 少数組合の組合員など,労働協約の効力が及ばない社員に対し,平均賃金の60%の休業手当を超えて賃金を支払う必要があるかどうかについては,従来,民法536条2項の「使用者の責めに帰すべき事由」の存否の問題として争われてきました。
 使用者が労働者の正当な(労働契約上の債務の本旨に従った)労務の提供の受領を明確に拒絶した場合(受領遅滞に当たる場合)に,その危険負担による反対給付債権を免れるためには,その受領拒絶に「合理的な理由がある」など正当な事由があることを主張立証すべきであり,その合理性の有無は,具体的には,使用者による休業によって労働者が被る不利益の内容・程度,使用者側の休業の実施の必要性の内容・程度,他の労働者や同一職場の就労者との均衡の有無・程度,労働組合等との事前・事後の説明・交渉の有無・内容,交渉の経緯,他の労働組合又は他の労働者の対応等を総合考慮して判断すべきものとされる(いすゞ自動車事件宇都宮地裁栃木支部平成21年5月12日判決)。


民法536条2項は民法上の任意規定であり,特約で排除することもできるため,労働契約及び就業規則において休業期間中は平均賃金の60%の休業手当のみを支払い,民法536条2項の適用を排除する旨明確に定めておけば,理論的にはこれを超える賃金を支払う義務はないはずです。
 しかし,休業手当に関し,就業規則に「臨時従業員が,会社の責に帰すべき事由により休業した場合には,会社は,休業期間中その平均賃金の6割を休業手当として支給する。」と定められている事案において,「被告は,本件休業に係る休業手当額を平均賃金の6割にすることについては,第1グループ原告らとの間の労働契約及び臨時従業員就業規則43条により,その旨の個別合意が存在し,この合意は本件休業の合理性を基礎付ける旨主張する。しかし,上記の規定は,労働基準法26条に規定する休業手当について定めたものと解すべきであって,民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」による労務提供の受領拒絶がある場合の賃金額について定めたものとは解されないから,被告の上記主張は,その前提を欠くというべきである。」と判示している裁判例(いすゞ自動車(雇止め)事件東京地裁平成24年4月16日判決,労判1054号5頁)もありますので,民法536条2項の適用を排除する場合は,最低限,単に休業期間中は平均賃金の60%の休業手当を支払うとだけ就業規則に規定するのではなく,民法536条2項の適用を排除する旨明確に規定しておくべきです。
 また,就業規則が労働契約の内容となるための要件として合理性が要求されていることもあり(労契法7条),事案によっては適用が制限されるリスクがないわけではありません。

 大多数の社員の理解を得られないまま休業を行った場合,会社経営に支障が生じる可能性が高いため,休業は,少なくとも多数派の同意を得てから行うべきでしょう。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎


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有期契約労働者の試用期間

2013-04-27 | 日記
Q248 有期契約労働者についても試用期間を設けることができますか?


 民法628条は,「やむを得ない事由」があるときに契約期間中の解除を認めていますが,労契法17条1項は,使用者は,有期労働契約について,やむを得ない事由がある場合でなければ,使用者は契約期間満了までの間に労働者を解雇できない旨規定されています。
 労契法17条1項は強行法規ですから,有期労働契約の当事者が民法628条の「やむを得ない事由」がない場合であっても契約期間満了までの間に労働者を解雇できる旨合意したり,就業規則に規定して周知させたとしても,同条項に違反するため無効となり,使用者は民法628条の「やむを得ない事由」がなければ契約期間中に解雇することができません。
 このため,例えば,契約期間1年の有期労働契約者について3か月の試用期間を設けた場合,試用期間中であっても「やむを得ない事由」がなければ本採用拒否(普通解雇)できないものと考えられます。
 3か月の試用期間を設けることにより,「やむを得ない事由」の解釈がやや緩やかになる可能性はないわけではありませんが,大幅に緩やかに解釈してもらうことは期待できないものと思われます。
 したがって,有期契約労働者についても試用期間を設けることはできるものの,その法的効果は極めて限定されると考えるべきことになります。

 では,どうすればいいのかという話になりますが,有期契約労働者には試用期間を設けず,例えば,最初の契約期間を3か月に設定するなどして対処すれば足ります。
 このようなシンプルな対応ができるにもかかわらず,有期契約労働者にまで試用期間を設けるのは,あまりセンスのいいやり方とは言えないのではないでしょうか。
 正社員とは明確に区別された雇用管理を行うという観点からも,有期契約労働者にまで試用期間を設けることはお勧めしません。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

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雇止め制限の判断基準は正社員の解雇の判断基準と同じか?

2013-04-27 | 日記
Q233 有期労働契約者の雇止めに労契法19条が適用された場合,雇止め制限の判断基準は正社員の解雇の判断基準と同じですか?


 有期労働契約者の雇止めに労契法19条が適用されるといっても,雇止め制限の判断基準は正社員の解雇の判断基準とは異なります。
 例えば,日立メディコ事件最高裁第一小法廷昭和61年12月4日判決は,業績悪化を理由として人員削減目的の雇止めがなされた事案に関し,「右臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである以上,雇止めの効力を判断すべき基準は,いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきである。」とした上で,「独立採算制がとられているYのP工場において,事業上やむを得ない理由により人員削減をする必要があり,その余剰人員を他の事業部門へ配置転換する余地もなく,臨時員全員の雇止めが必要であると判断される場合には,これに先立ち,期間の定めなく雇用されている従業員につき希望退職者募集の方法による人員削減を図らなかつたとしても,それをもつて不当・不合理であるということはできず,右希望退職者の募集に先立ち臨時員の雇止めが行われてもやむを得ないというべきである。」と判断しています。
 また,日本航空事件東京地裁平成23年10月31日判決は,「解雇権濫用法理が類推適用されると,一般的にいえば,雇止めが,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合には権利の濫用として無効となることになる(労働契約法16条)が,雇止めの場合において,雇用契約の内容としては,契約期間が定められ,その期間が経過することにより雇用契約が(ママ)終了が合意されている事案ということができるから,雇止めが『客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない』かどうかの判断に当たっては,解雇権濫用法理が当然に適用される期間の定めのない雇用契約の場合と同一とはいえず,当該雇用契約の性質,内容を十分に考慮した上での判断が求められるというべきである。」と判示しています。

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弁護士 藤田 進太郎

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就業規則に懲戒解雇事由が定められていない場合の懲戒解雇

2013-04-27 | 日記
Q214 労働者が重大な企業秩序違反行為を行った場合であれば,就業規則に懲戒解雇事由が定められていなくても,懲戒解雇することができますよね?


 就業規則において懲戒解雇事由が定められていない場合には,過半数労働組合との労働協約で懲戒解雇事由が定められていて当該労働者に労働協約の効力が及んでいる場合や,個別労働契約において懲戒解雇事由が定められているような場合でない限り,労働者が重大な企業秩序違反行為を行った場合であっても,懲戒解雇することはできません。


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弁護士 藤田 進太郎

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即時解雇する場合の主な注意点

2013-04-27 | 日記
Q197 即時解雇する場合の主な注意点はどのようなものがありますか?


 30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)が現に支払われるまでは即時解雇の効力は生じません。
 したがって,即時解雇したい場合は,その日のうちに賃金を手渡したり,労働者の指定する預金口座に振り込んだりして,現に解雇予告手当を支払う必要があります。
 給料日になってから解雇予告手当を支払った場合,労働者から解雇の効力が発生した日について争われた場合,給料日になるまで解雇による退職の効力が生じなくなってしまう可能性があります。

 解雇予告又は解雇予告手当の支払なしに即時解雇がなされた場合は,即時解雇としての効力は生じませんが,使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り,通知後,30日の期間を経過するか,又は通知の後に所定の解雇予告手当の支払をしたときは,そのいずれかのときから解雇の効力を生じるとするのが最高裁判例(相対的無効説,細谷服装事件最高裁昭和35年3月11日判決)です。

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弁護士 藤田 進太郎

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「合理的な理由」

2013-04-27 | 日記
Q176 「支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し,合理的な理由により,裁判所又は労働委員会で争っていること。」(賃金の支払の確保等に関する法律施行規則6条4号)にいう「合理的な理由」があるといえるためには,どの程度の理由があることが必要なのですか?


 賃金(退職手当を除く。)の支払を怠った場合,退職後の期間の遅延利息は年14.6%という高い利率になる可能性があります(賃金の支払の確保等に関する法律6条1項・同施行令1条)が,「支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し,合理的な理由により,裁判所又は労働委員会で争っていること。」(賃金の支払の確保等に関する法律施行規則6条4号)などの厚生労働省令で定める事由に該当する場合には,その事由の存する期間については上記規定の適用はありません(賃金の支払の確保等に関する法律6条2項)。
 では,「支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し,合理的な理由により,裁判所又は労働委員会で争っていること。」(賃金の支払の確保等に関する法律施行規則6条4号)にいう「合理的な理由」があるといえるためには,どの程度の理由があることが必要なのでしょうか。

 退職後の労働者から支払が遅滞していると主張されている賃金の存否を争うことに,厳密な意味での「合理的な理由」があるような場合は,そもそも未払賃金元本自体が存在しないと認定されるケースが多いと考えられますから,未払賃金の遅延利息の利率に関する定めである賃金の支払の確保等に関する法律6条1項・同施行令1条や,その適用除外を定めた賃金の支払の確保等に関する法律6条2項・賃確法施行規則6条の適用は問題となりません。
 とすると,賃金の支払の確保等に関する法律6条1項・同施行令1条が適用され,賃金の遅延利息の利率が年14.6%となる可能性があり,そのその適用除外を定めた賃金の支払の確保等に関する法律6条2項・賃確法施行規則6条適用の可否が問題となるのは,結果として,厳密な意味での「合理的な理由」がなかった場面ということになります。
 厳密な意味での「合理的な理由」がない場面において,賃確法施行規則6条4号の「合理的な理由」を限定的に考えなければならないとすると,賃確法施行規則6条4号は適用場面がなくなり,死文化してしまいます。
 賃確法施行規則6条4号に存在意義を認めるのであれば,「合理的な理由」は限定的に考えるべきではなく,一応の合理的な理由,明らかに不合理とまではいえない理由があれば足りると考えるべきことになるのではないでしょうか。

 私が使用者側代理人を務めた東京地方裁判所民事第19部平成22年(ワ)第41466号賃金請求事件(労判1038号67頁)において,平成23年9月9日に言い渡された判決(伊良原恵吾裁判官,平成23年9月27日確定)では,賃確法施行規則6条4号にいう「合理的な理由」の存在について以下のとおり緩やかに判断されており,当該事案における未払割増賃金に対する遅延損害金の利率も,商事法定利率(年6分)によるべきものとされています。

 そもそも賃確法6条1項の趣旨は,退職労働者に対して支払うべき賃金(退職手当を除く。)を支払わない事業主に対して,高率の遅延利息の支払義務を課すことにより,民事的な側面から賃金の確保を促進し,かつ,事前に賃金未払が生ずることを防止しようとする点にあるが,ただ,それは,あくまで金銭を目的とする債務の不履行に係る損害賠償について規定した民法419条1項本文の利率(民法404条又は商法514条に規定する年5分又は年6分である。)に関する特則を定めたものにとどまる。
 以上によると上記(1)の賃確法6条2項,同法施行規則6条は,遅延利息の利率に関する例外的規定である同法6条1項の適用を外し,実質的に原則的利率(民法404条又は商法514条)へ戻すための要件を定めたものであると解することができ,そうだとすると賃確法施行規則6条所定の各除外事由の内容を限定的に解しなければならない理由はなく,むしろ上記原則的利率との間に大きな隔たりがあること及び賃確法施行規則6条5号が除外事由の一つとして「その他前各号に掲げる事由に準ずる事由」を定め,その適用範囲を拡げていることにかんがみると,同条所定の除外事由については,これを柔軟かつ緩やかに解するのが同法6条2項及び同施行規則6条の趣旨に適うものというべきである。
 このように考えるならば,賃確法6条2項,同法施行規則6条4号にいう「合理的な理由」には,裁判所又は労働委員会において,事業主が,確実かつ合理的な根拠資料が存する場合だけでなく,必ずしも合理的な理由がないとはいえない理由に基づき賃金の全部又は一部の存否を争っている場合も含まれているものと解するのが相当である。

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弁護士 藤田 進太郎

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定年退職者を再雇用した場合の雇用期間

2013-04-27 | 日記
Q174 定年退職者を再雇用した場合の雇用期間を1年とすることはできますか?


 再雇用後の雇用期間については,特段の規制がありませんので,雇用期間を1年とすることができます。
 ただし,高年齢者雇用安定法9条は,65歳までの継続雇用制度等の高年齢者雇用確保措置を講じることを要求していますので,1年契約とは言っても,65歳までは契約が更新されることについて,合理的期待があると考えざるを得ません。
 したがって,65歳になる前に契約期間満了で雇止めをする場合は,労働契約法19条が適用されますので,雇止めに客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当なものとなっているかどうかをチェックする必要があります。

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弁護士 藤田 進太郎

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高年齢者雇用確保措置(高年齢者雇用安定法9条1項)

2013-04-27 | 日記
Q167 高年齢者雇用確保措置(高年齢者雇用安定法9条1項)としては,どれがお勧めですか?


 当面は,継続雇用制度(高年齢者雇用安定法9条1項2号)を採用し,高年齢者に係る基準制度(高年齢者雇用安定法9条2項)を設けるのが無理がないのではないかと考えています。

 ただ,老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢は平成25(2013)年度に65歳への引上げが完了し,同年度に老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が61歳に引き上げられ,平成37(2025)年度までに65歳へ段階的に引き上げられることとなっていること(女性は5年遅れ)もありますので,継続雇用されない高年齢者が年金も支給されないという事態を防止する(「雇用と年金の接続」)必要性が高くなっています。
 「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」に基づく制度の廃止についても,平成25年4月1日から施行されました。
 もっとも,改正法施行の際,既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準については,平成37年3月31日までの間は,段階的に基準の対象となる年齢が以下のとおり引き上げられるものの,なお効力を有するとされていますが,猶予期間が与えられているというに過ぎません。
① 平成25年4月1日~平成28年3月31日 61歳以上が対象
② 平成28年4月1日~平成31年3月31日 62歳以上が対象
③ 平成31年4月1日~平成34年3月31日 63歳以上が対象
④ 平成34年4月1日~平成37年3月31日 64歳以上が対象
 今後は,既にこの基準に基づく制度を設けている会社についても,段階的に,「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」によって継続雇用する高年齢者を選別することができなくなります。

 なお,平成25年4月1日施行の改正法では,その他,
① 継続雇用制度の対象となる高年齢者が雇用される企業の範囲をグループ企業まで拡大すること
② 高年齢者雇用確保措置義務に関する勧告に企業が従わない場合,企業名を公表することができるとすること
③ 従来,65歳未満の高年齢者の雇用機会増大を目標としてきたところであるが,雇用機会増大の対象を65歳以上の高年齢者にも拡大すること
等についても規定されています。
 ③に着目すれば,将来,65歳を超える年齢(例えば,67歳や70歳)までの雇用確保措置や,定年を65歳以上とすること等を義務付けられることも十分に考えられます。
 将来の法改正を見据えて,今のうちから60歳以前の社員の賃金制度を見直すなどして,さらなる法改正があっても支障が生じないよう備えておくべきと考えています。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

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高年齢者を雇い続けるだけの経済的余裕がない場合の対処方法

2013-04-27 | 日記
Q165 当社は高年齢者を雇い続けるだけの経済的余裕がありません。どうすればいいでしょうか?


 高年齢者雇用確保措置(高年齢者雇用安定法9条)を取ることは事業主の義務であり,雇用確保措置を取らないという選択肢はあり得ません。
 したがって,会社に経済的余裕がない場合であっても,再雇用制度を講じる等,高年齢者雇用確保措置は取る必要があります。

 問題は,高年齢者を雇い続けるだけの経済的余裕がないという点ですが,この点は,賃金額等の労働条件を抑制することで対処すべき問題です。
 財務上の余裕がないのであれば,高年齢者に対し,低めの賃金額での勤務を提案し,それでも継続勤務する意思があるのかどうかを確認すべきことになるでしょう。
 例えば,時給1000円,1日8時間,週3日勤務等の労働条件での再雇用を提案し,高年齢者がそれでも働きたいというのであれば再雇用し,それでは賃金が安すぎるというのであれば再雇用しないということでいいと思います。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

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高年齢者雇用確保措置を取らないとどうなりますか?

2013-04-27 | 日記
Q164 高年齢者雇用確保措置を取らないとどうなりますか?


 高年齢者雇用確保措置について定めている高年齢者雇用安定法9条には,これに違反した場合に定年の定めを無効とするなどの私法的効力はないと考えられています。
 したがって,高年齢者雇用安定法9条に違反して高年齢者雇用確保措置を取らなかった場合,定年退職した高年齢者は,事業主に対し,訴訟で65歳までの雇用確保を請求することはできないことになります。

 ただし,高年齢者雇用確保措置を取らないことは,高年齢者雇用安定法9条に違反しますから,厚生労働大臣から,公共職業安定所を通じて,必要な指導及び助言を受けたり,高年齢者雇用確保措置を講ずべきことを勧告されたりする可能性があるだけでなく,勧告を受けた者がこれに従わなかった場合はその旨を公表される可能性があります(高年齢者雇用安定法10条)。
 また,合同労組などの労働組合から団体交渉を申し入れられ,高年齢者雇用確保措置を講じるよう要求される可能性もあります。

 さらに言えば,高年齢者雇用確保措置を取らない会社は,コンプライアンスの意識が低い会社であると公言しているようなものですから,どうしても社会一般からの評価が低くなりがちです。
 結果として,優秀な人材が集まりにくくなるかもしれません。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

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65歳までの雇用確保要求の根拠

2013-04-27 | 日記
Q162 60歳の定年退職間近な社員が,65歳までの雇用確保を要求してきました。何を根拠にそんなことを言っているのでしょうか?


 高年齢者雇用安定法9条は,65歳未満の定年の定めをしている事業主は,以下のいずれかの高年齢者雇用確保措置を講じなければならないとしています。
① 定年の引上げ
② 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは,当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度)
③ 定年の定めの廃止
 貴社の定年は60歳とのことですので,①②③いずれかの雇用確保措置を取る必要があります。
 仮に,貴社が高年齢者雇用確保措置を取っていないのだとすれば,高年齢者雇用安定法9条を根拠に,65歳までの雇用確保を要求してきたものと思われます。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

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