弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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解雇された労働者が解雇期間中に他社で働いて得た収入を控除することはできるか

2014-06-25 | 日記

解雇が無効と判断された場合に支払う賃金(バックペイ)から,解雇された労働者が解雇期間中に他社で働いて得た収入(中間収入)や失業手当を控除することはできませんか?


 解雇期間中の中間収入(他社で働いて得た収入)がある場合,その収入が副業収入のようなものであって解雇 がなくても取得できた(自社の収入と両立する)といった特段の事情がない限り,
 ① 月例賃金のうち平均賃金の60%(労基法26条)を超える部分(平均賃金額の40%)
 ② 平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(賞与等)の全額
が控除の対象となります(米軍山田部隊事件最高裁第二小法廷昭和37年7月20日判決,あけぼのタクシー事件最高裁第一小法廷昭和62年4月2日判決,いずみ福祉会事件最高裁第三小法廷平成18年3月28日判決)。
 控除しうる中間収入はその発生期間が賃金の支給対象期間と時期的に対応していることが必要であり,時期が異なる期間内に得た収入を控除することは許されません(あけぼのタクシー事件最高裁第一小法廷昭和62年4月2日判決)。
 解雇期間中に失業手当を受給していたとしても,失業手当額は控除してもらえません。
 単純化して,解雇期間中の賃金が月額30万円,平均賃金も月額30万円と仮定して説明すると,以下のとおりとなります。
 中間収入の額が平均賃金額の40%(12万円)を超えない場合,例えば他社で毎月10万円を稼いでいた場合には,30万円-10万円=20万円の賃金を毎月支払えば足りることになります。
 中間収入の額が平均賃金額の40%(12万円)を超える場合,例えば他社で毎月25万円を稼いでいた場合には,30万円-25万円=5万円の賃金を毎月支払えば足りることにはならず,平均賃金の60%(18万円)を毎月支払わなければならないことになりますが,平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(賞与等)がある場合には,その全額を対象として控除することができます。


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解雇が無効と判断された場合に解雇期間中の賃金として使用者が負担しなければならない金額

2014-06-25 | 日記

解雇が無効と判断された場合に解雇期間中の賃金として使用者が負担しなければならない金額を教えて下さい。


 解雇 が無効と判断された場合に,解雇期間中の賃金として使用者が負担しなければならない金額は,当該社員が解雇されなかったならば労働契約上確実に支給されたであろう賃金の合計額です。
 解雇当時の基本給等を基礎に算定されますが,各種手当,賞与を含めるか,解雇期間中の中間収入を控除するか,所得税等を控除するか等が問題となります。
 
 通勤手当が実費保障的な性質を有する場合は,通勤手当について負担する必要はありません。
 残業代 は,時間外・休日・深夜に勤務して初めて発生するものですから,通常は負担する必要がありませんが,一定額の残業代が確実に支給されたと考えられる場合には,残業代についても支払を命じられる可能性があります。
 賞与の支給金額が確定できない場合は,解雇が無効と判断されても支払を命じられませんが,支給金額が確定できる場合は,賞与についても支払が命じられることがあります。
 解雇された社員に解雇期間中の中間収入(他の事業上で働いて得た収入)がある場合は,その収入があったのと同時期の解雇期間中の賃金のうち,同時期の平均賃金の6割(労基法26条)を超える部分についてのみ控除の対象となります(米軍山田部隊事件最高裁第二小法廷昭和37年7月20日判決,あけぼのタクシー事件最高裁第一小法廷昭和62年4月2日判決)。
 中間収入の額が平均賃金額の4割を超える場合には,更に平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(賞与等)の全額を対象として利益額を控除することが許されることになります(あけぼのタクシー事件最高裁第一小法廷昭和62年4月2日判決,いずみ福祉会事件最高裁第三小法廷平成18年3月28日判決)。
 賃金から源泉徴収すべき所得税,控除すべき社会保険料については,これらを控除する前の賃金額の支払が命じられ,実際の賃金支払の際,所得税等を控除することになります。
 仮処分で賃金相当額の仮払いが命じられ,仮払いをしていたとしても,判決では仮払金を差し引いてもらえません。
 賃金の支払を命じる判決が確定した場合は,労働者代理人と連絡を取って,既払の仮払金の充当について調整する必要があります。
 他方,賃金請求が認められなかった場合は,仮払金の返還を求めることになりますが,労働者が無資力となっていて,回収が困難なケースもあります。


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解雇が無効と判断された場合,使用者はいつまでの賃金を支払い続けなければならないのか

2014-06-25 | 日記

解雇が無効と判断された場合,使用者はいつまでの賃金を支払い続けなければならないのですか?


 解雇 が無効と判断された場合,労働者が転職せずに職場復帰を求め続けた場合は,実際には全く働いていない期間についても賃金の支払を命じられることになります。
 もっとも,解雇された労働者が他社に正社員として就職したり,使用者が解雇を撤回して労働者に出社するよう命じたにもかかわらず労働者が出社しなかったような場合は,解雇された労働者が労務提供の意思を喪失していると評価できるのが通常であり,解雇された労働者が就労できないのは使用者の責任ではなくなりますから,使用者は以後の賃金支払義務を免れることになります。


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解雇が無効だったとしても,ノーワーク・ノーペイなのだから働いていない期間の賃金は支払う必要ない?

2014-06-25 | 日記

解雇が無効だったとしても,ノーワーク・ノーペイなのですから,働いていない期間の賃金は支払う必要はありませんよね?


 解雇 が無効の場合において,労働者が就労の意思と能力があるにもかかわらず,使用者が就労を拒絶しているような場合には,就労不能の帰責事由が使用者にあると評価されるのが通常です。
 したがって,解雇された労働者が現実には働いていなかったとしても,使用者は賃金支払義務を免れず(民法536条2項),実際には働いていない期間についての賃金についても,支払わなければならなくなります。
 例えば,月給30万円の労働者を解雇した1年後に解雇が無効と判断された場合,既に発生している過去の賃金だけで,30万円×12か月=360万円の支払義務を使用者が負担するリスクを負っており,その後も毎月30万円ずつ支払額が増額されていくリスクがあることになります。
 上記具体例を見れば,解雇が無効と判断された場合,働いてもいない労働者に対し,高額の賃金を支払わなければならないことが分かると思います。
 無効な解雇をさせることができれば,働かずに働いたのと同じ賃金を取得できることから,勤労意欲の低い問題社員 の中には,使用者に対し積極的に自分を解雇するよう働きかけて自分を解雇させ,解雇無効を主張して働かずに毎月の賃金(高額の解決金)を取得しようとする者もいます。
 最近,無断録音機をポケットに忍ばせて,経営者に対して解雇だと言わせようと頑張る問題社員が増えていますので,見え透いた罠にはまらないようくれぐれもご注意下さい。


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