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普通解雇事由に該当するものの,懲戒解雇事由に該当するかどうかが微妙な事案における解雇の有効性

2010-11-29 | 日記
Q5普通解雇事由に該当することは明らかなものの,懲戒解雇事由に該当するかどうかが微妙な事案において,解雇の有効性を判断するにあたり問題となりやすい論点には,どのようなものがありますか?

 まず,懲戒解雇事由に該当し得る場合であっても普通解雇できるかどうかという問題ですが,高知放送事件における最高裁昭和52年1月31日判決は,「就業規則所定の懲戒事由にあたる事実がある場合において,本人の再就職など将来を考慮して懲戒解雇に処することなく,普通解雇に処することは,それがたとえ懲戒の目的を有するとしても,必ずしも許されないわけではない。」と判断しており,懲戒解雇事由がある場合であっても,就業規則の普通解雇事由に該当するのであれば,普通解雇できることに争いはありません。
 この場合の普通解雇の有効性は,普通解雇の要件を具備しているかどうかにより判断されます。
 就業規則の普通解雇事由のいずれにも該当しない場合に普通解雇できるかについては争いがありますので,就業規則の普通解雇事由に包括条項を入れておくなどして,懲戒解雇事由が普通解雇事由にも該当することを明示しておくべきでしょう。

 次に,懲戒解雇が無効と判断された場合に,当該懲戒解雇の意思表示は普通解雇の意思表示として有効であると主張できるかという問題ですが,懲戒解雇のみを行ったことが明らかな場合は,普通解雇であれば有効な事案であっても,懲戒解雇を普通解雇に転換し,普通解雇の有効性を主張することは認められず,当該解雇は無効となるのが通常です。
 裁判例の中には「使用者が,懲戒解雇の要件は満たさないとしても,当該労働者との雇用関係を解消したいとの意思を有しており,懲戒解雇に至る経過に照らして,使用者が懲戒解雇の意思表示に,予備的に普通解雇の意思表示をしたものと認定できる場合には,懲戒解雇の意思表示に予備的に普通解雇の意思表示が内包されていると認めることができる」とするもの(岡田運送事件における東京地裁平成14年4月24日判決)もありますが,全ての場合に当てはまると考えることはできません。
 したがって,普通解雇としては有効であることが明らかではあるが,懲戒解雇として有効かどうかは微妙な事案では,使用者としては,懲戒解雇と合わせて普通解雇の意思表示も明示的にしておくべきでしょう。
 当初,懲戒解雇のみを行ってしまったが,訴訟の審理が進むにつれ,懲戒解雇としては無効となる可能性が高いことが判明したような場合も,事後的に普通解雇の意思表示をしておくべきです。

弁護士 藤田 進太郎
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