時給制のアルバイトの残業代 (割増賃金)
=時給単価×所定の割増率×時間外・休日・深夜労働時間数
月給制の正社員の残業代(割増賃金)の計算式
=通常の労働時間・労働日の賃金(時間単価)×所定の割増率×時間外・休日・深夜労働時間数
月給制の正社員等についても,まずは賃金の時間単価を算定し,それに所定の割増率及び時間外・休日・深夜労働時間数を乗じて,残業代(割増賃金)を計算することになります。
時給制のアルバイトの残業代 (割増賃金)
=時給単価×所定の割増率×時間外・休日・深夜労働時間数
月給制の正社員の残業代(割増賃金)の計算式
=通常の労働時間・労働日の賃金(時間単価)×所定の割増率×時間外・休日・深夜労働時間数
月給制の正社員等についても,まずは賃金の時間単価を算定し,それに所定の割増率及び時間外・休日・深夜労働時間数を乗じて,残業代(割増賃金)を計算することになります。
労基法上の残業代 (割増賃金)には,以下の3種類があります。
① 時間外割増賃金
② 休日割増賃金
③ 深夜割増賃金
①時間外割増賃金は,1週間につき40時間(特例措置対象事業場では週44時間),1日につき8時間を超えて労働をさせた場合に支払を義務付けられる残業代(割増賃金)です。
②休日割増賃金は,週1回の法定休日(労基法35条)に労働をさせた場合に支払を義務付けられる残業代(割増賃金)です。
③深夜割増賃金は,深夜(22時~5時)に労働をさせた場合に支払を義務付けられる残業代(割増賃金)です。
残業代(割増賃金)請求を受けるリスクが特に高い業種を教えて下さい。
残業代 (割増賃金)請求を受けるリスクが特に高い業種としては,運送業,飲食業などが挙げられます。もっとも,その他の業種においても満遍なく残業代請求がなされていますので,どの業種においても,残業代を支払っていない場合は,常に残業代請求のリスクにさらされていると考えるべきでしょう
以前は,残業するよう指示しても残業してもらえなくて困っているといった紛争が多かったようですが,最近ではそういった相談はほとんどありません。最近多いのは,(不必要に)残業をして残業代 を請求してきたり,長時間の残業によりうつ病になったから損害を賠償して欲しいと請求してきたりする(退職した)社員の対応などです。
つまり,最近の経営者は,社員にどうやって残業してもらうかで悩んでいるのではなく,残業した(と主張する)社員からの残業代請求や,うつ病になった(と主張する)社員の対応で悩んでいるというのが実情です。社員が,所定労働時間外に長時間,仕事をするスペースに残っている状態は,使用者にとって「リスク」であるということをよく理解する必要があります。
高年齢者の雇用確保と賃金制度の将来について,どのように考えていますか。
少子高齢化が進む日本の人口構成を考えると,将来的には65歳を超える年齢(例えば,67歳や70歳)までの雇用確保措置や,定年を65歳以上とすること等を義務付けられること等が予想されます。
将来の法改正を見据えて,今のうちから賃金制度を見直すなどして,さらなる法改正があっても支障が生じないよう予め備えておくべきと考えます。
能力の高い定年退職者に重要な職務に従事してもらうため,通常の高年齢者よりも高い給料で仕事をしてもらいたい場合はどうすればいいでしょうか。
能力が高く,定年退職後も通常の高年齢者よりも高い給料を支払ってでも重要な職務に従事して欲しい高年齢者については,
① 定年退職者全員に適用される継続雇用制度(高年法9条)とは別枠の嘱託社員として雇用するか,
② 取締役に選任して経営に参加してもらう
ことをお勧めします。
①に関しては,通常の継続雇用制度で再雇用し,賃金額を調整することでも対応できなくはありませんが,少なくとも労働条件が大幅に異なる再雇用者については,別枠の制度を設けてそれを適用するのが望ましいと考えます。
定年退職者を再雇用した場合の雇用期間を1年とすることはできますか。
再雇用後の雇用期間については,特段の規制がありませんので,雇用期間を1年とすることができます。
ただし,高年法9条は,65歳までの継続雇用制度等の高年齢者雇用確保措置を講じることを要求していますので,1年契約とは言っても,65歳までは契約が更新されることについて,合理的期待があると考えざるを得ません。
したがって,65歳になる前に契約期間満了で雇止めをする場合は,労働契約法19条が適用されますので,雇止めに客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当なものとなっているかどうかをチェックする必要があります。
定年退職者から定年退職後も従来と同じ労働条件で継続雇用するよう要求されているのですが,応じる必要はあるでしょうか。
定年退職者を継続雇用した場合の労働条件について,特別の規制はなされていません。
したがって,労働契約,就業規則等で定年退職後も従来と同じ労働条件で継続雇用する旨が定められている場合でない限り,要求に応じる必要はありません。
定年退職者に提示した賃金水準での再雇用を高年齢者が拒絶したため,定年退職者を再雇用しませんでした。高年法違反にはなりませんか。
高年法が事業主に要求しているのは,継続雇用制度等の高年齢者雇用確保措置の導入であって,事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではありません。事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば,定年退職者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず,結果的に定年退職者が再雇用されなかったとしても,高年法違反となるものではありません。
企業が定年退職者に提示した賃金水準での再雇用を高年齢者が拒絶した場合は,再雇用されなかったとしてもやむを得ないところです。企業ができることは,自社の体力,定年退職者の能力,再雇用後の業務の内容,当該業務に伴う責任の程度,当該職務の内容及び配置の変更の範囲等に見合った適正水準の賃金等の労働条件を提示するところまでであり,当該労働条件での再雇用を希望するかどうかは,定年退職者の選択に委ねられることになります。
再雇用後の業務の内容,当該業務に伴う責任の程度,当該職務の内容及び配置の変更の範囲等が定年退職前と変わらないにもかかわらず,再雇用後の賃金が定年退職前よりも大幅に下がったのでは高年齢者の不満が大きくなります。
再雇用後の賃金額が定年退職時よりも低い場合は,再雇用後の勤務日数や勤務時間数を減らすとか(例えば週3日勤務にするとか1日4時間勤務にするといったことも考えられます。),業務の内容を正社員でなくてもできるような難易度の低いものにするとか,責任の軽い仕事を担当させるとか,職種や勤務地を限定するとかすべきと考えます。
再雇用後の高年齢者の適正な賃金水準はどれくらいだと考えていますか。
高年齢者雇用確保措置の主な趣旨が,年金支給開始年齢引上げに合わせた雇用対策,年金支給開始年齢である65歳までの安定した雇用機会の確保である以上,継続雇用後の賃金額に在職老齢年金,高年齢者雇用継続給付等の公的給付を加算した手取額の合計額が,従来であれば高年齢者がもらえたはずの年金額と同額以上になるように配慮すべきであり,賃金原資に余裕がない会社であっても,「時給1000円,1日8時間・週3日勤務」程度の賃金額にはしておきたいところです。
一定規模以上の会社の場合は,再雇用後の賃金水準は,定年前の50%~70%程度になることが多いようです。賃金原資に余裕があるのであれば,同業他社よりも高めの賃金設定でも構いません。
当社は赤字決算続きで債務超過に陥っていることもあり,高年齢者を再雇用する経済的余裕がないのですが,それでも再雇用しなければなりませんか。
高年齢者雇用確保措置(高年法9条)を取ることは事業主の義務であり,雇用確保措置を取らないという選択肢はあり得ません。したがって,会社に経済的余裕がない場合であっても,再雇用制度を講じる等,高年齢者雇用確保措置は取る必要があります。
また,年金支給開始年齢が引き上げられていることを考慮すれば,賃金原資に余裕がない企業であっても,同業他社と同水準の賃金が払えないから再雇用自体を拒絶せざるを得ないといった発想で対処するのではなく,再雇用自体は認めた上で,体力に応じた金額の賃金を支給するようにすべきでしょう。
高年齢者を雇い続けるだけの経済的余裕がないという点は,賃金額等の労働条件を抑制することで対処すべき問題です。財務上の余裕がないのであれば,高年齢者に対し,低めの賃金額での勤務を提案し,それでも継続勤務する意思があるのかどうかを確認すべきことになるでしょう。例えば,時給1000円,1日8時間,週3日勤務等の労働条件での再雇用を提案し,高年齢者がそれでも働きたいというのであれば再雇用し,それでは賃金が安過ぎるとして再雇用を拒絶されたら再雇用しないという流れになると思います。
高年法上,継続雇用後の賃金等の労働条件については特別の定めがなく,年金支給開始年齢の65歳への引上げに伴う安定した雇用機会の確保という同法の目的,パート労働法8条,労契法20条,最低賃金法等の強行法規,公序良俗に反しない限り,就業規則,個別労働契約等において自由に定めることができます。
定年後に再雇用された社員の賃金水準が定年退職前よりも下がるのはむしろ通常の話であり,社会通念に照らし,直ちに不当ということはできません。定年の延長や継続雇用の場合は手順を間違えると労働条件の不利益変更(労契法9条・10条参照)の問題となってしまうリスクがありますが,再雇用の場合はいったん定年退職し新たな労働契約を締結するわけですから,定年退職前の労働条件との関係では労働条件の不利益変更の問題とはならないと考えられます。
もっとも,就業規則で再雇用後の賃金等の労働条件を定めて周知させている場合はそれが労働条件となりますから,再雇用後の労働条件を就業規則に定められている労働条件に満たないものにすることはできません。
従来は,定年後の継続雇用を拒絶された高年齢者が継続雇用されないのは不当だとして継続雇用又は損害賠償を請求されることが多かったのですが,近時は継続雇用後の労働条件の交渉が中心です。
雇用と年金の接続が重要な国家的課題となっている現在においては,継続雇用基準が認められている企業においても,継続雇用自体を拒否するのは,余程の事案でない限りお勧めできません。高年齢者にとっても死活問題ですし,訴訟リスクが高いと言わざるを得ません。
就業規則の再雇用基準を満たす高年齢者が再雇用を希望したにもかかわらず再雇用しなかった場合,再雇用されたことになってしまうのでしょうか。
労働契約は,労働者が使用者に使用されて労働し,使用者がこれに対して賃金を支払うことについて,労働者及び使用者が合意することによって成立するものですから(労契法6条),会社が再雇用を承諾していない以上,労働契約は成立せず,再雇用を拒絶された高年齢者は,会社に対し,損害賠償請求する余地があるというにとどまるのが原則です。
ただし,津田電気計器事件最高裁平成24年11月29日第一小法廷判決は,定年に達した後引き続き1年間の嘱託雇用契約により雇用されていた労働者の継続雇用に関し,東芝柳町工場事件最高裁判決,日立メディコ事件最高裁判決を参照判例として引用して,「本件規程所定の継続雇用基準を満たすものであったから,被上告人において嘱託雇用契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があると認められる一方,上告人において被上告人につき上記の継続雇用基準を満たしていないものとして本件規程に基づく再雇用をすることなく嘱託雇用契約の終期の到来により被上告人の雇用が終了したものとすることは,他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情もうかがわれない以上,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないものといわざるを得ない。したがって,本件の前記事実関係等の下においては,前記の法の趣旨等に鑑み,上告人と被上告人との間に,嘱託雇用契約の終了後も本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であり,その期限や賃金,労働時間等の労働条件については本件規程の定めに従うことになるものと解される」と判示しています。
津田電気計器事件は,定年退職後の有期契約労働者(嘱託)について継続雇用しなかった事案であり,無期契約労働者を継続雇用しなかった事案とは異なりますが,無期契約労働者を継続雇用しなかった事案についても射程が及ぶ可能性があります。
理論的には相当無理をして結論を導いているようなところがありますが,就業規則の選定基準を満たしているにもかかわらず,再雇用しないというのは,再雇用制度の誤った運用をしていることになりますから,そのようなことがないよう運用を改める必要があることはいうまでもありません。
継続雇用基準を満たしているにもかかわらず,継続雇用を拒絶した場合,損害賠償請求を受けるリスクの他,継続雇用契約の成立が認められ,賃金請求が認められてしまうリスクがあることに留意する必要があります。