昨日は、ギターの練習が認知機能維持に良いかについて書きました。
老化に伴う認知機能低下を防ぐことは健康長寿を全うする上で重要なことですが、ロコモやサルコペニア、フレイル(身体的、精神的、社会的)なども含めて俯瞰的に見て、ギターを弾くことが健康長寿の四原則(食事・運動・睡眠・笑顔)との関わりがどうなのか気になるところです。
今回は四原則のうち、食事と運動(ギターを弾くと栄養や筋肉がつくとか)は、直接は関係なさそうなので、睡眠について調べてみました。
結論から言えば、認知機能と同じく、ギターとの関連があるエビデンス(科学的根拠)を見つけることはできませんでした。
はて?
どうしてエビデンスにこだわるのか?
ブログという公の場で、ウソやゴマカシがあってはならないし、自分自身が120歳まで生きるためのモチベーションになるからです。
なるほど!
ヒトのエビデンスは、細胞を取ってどんな成分が影響していたか、なんて調べることは難しく、動物実験で細胞を取るとしても、運動ならトレッドミル(いわゆるウォーキングマシン)で走らせた影響なら調べることができますが、ネスミに“楽器を演奏させて”なんて無理。
なので、例えば、fNMRで脳のどこに変化があったかとか、電気の流れがどう変わったかなど機能的変化を調べるのが精一杯。それだけでも、根拠も無く○○が良いと言ってるよりはマシ。
そんな中で、まず、運動するとよく眠れると言うけど「ホンマでっか」、ということで、運動が睡眠に良いというエビデンスを一つ。
アイスランドの大学の研究、「習慣的な運動によって、最適な睡眠時間を確保し、不眠症の症状を軽減する」と、今年3月に論文発表しました。(BMJ Open 2024,14,e067197)
これは39~67歳の成人4,339人(男性48.1%)を対象に10年間の追跡調査で明らかになったもので、運動習慣は、週に2日以上、計1時間以上の運動をしていると回答した場合に「活動的」と定義しています。
具体的には、10年間常に活動的だった群は通常の睡眠時間(6~9時間)であることが有意に多く、短時間睡眠(6時間以下)や長時間睡眠(9時間以上)は有意に少なかったそうです。
有意に、というのは簡単に言えば「統計的に差がある」という意味です。
では、ギター演奏をもっと広く解釈して、音楽を聴くと高齢者の睡眠に影響するのか。当たり前のようですが、「就寝時に6本の45分間の鎮静音楽テープ(西洋音楽は5種類、中国音楽は1種類)の中から好きなものを選んで3週間聴いた結果、高齢者の睡眠の質の向上、睡眠時間の延長、睡眠効率の向上、睡眠潜時の短縮、睡眠障害の減少、日中の機能障害の減少という有意な改善をもたらす」という論文がちゃんとあります。「Music improves sleep quality in older adults:Journal of Advanced Nursing Research 19 January 2005」
高校の頃、琴のテープを聴きながら就寝していましたが、良かったのかな。今は、テープはどこかへ行ってしまった。
次に、音楽を“聴く”から“演奏する”に絞ると、高齢者がピアノトレーニング(楽譜を読む、演奏する)と他の余暇活動の認知機能、気分、QOL (生活の質)に対する効果を比較すると、ピアノのレッスンを毎日4ヶ月間受けると、ピアノトレーニンググループで有意な改善が見られた、という論文がありました。
「Effects of music learning and piano practice on cognitive function, mood and quality of life in older adults :Front. Psychol., 01 November 2013 , Volume 4」
やっぱり、ピアノが良いのか、というか、ギターレッスンの調査はないのか?
残念! そう言えば、ギター侍って言う人がいたな・・・。
話はずれますが、効率的にピアノのレッスンを受けるにはを、脳機能的解釈した解説が、「ピアニストのための脳と身体の教科書」が参考になります。
うん、楽器と睡眠の関係を調べていたら、科学的なレッスン法にも巡り逢えたぞ。
まず、レム睡眠(浅い眠り)が楽器演奏の記憶定着に良いそうです。一晩ぐっすり眠ってしまうより、ちょっと昼寝が良いのかも。
「Memory consolidation and reconsolidation: what is the role of sleep?:Trends Neurosci 28(8):408-415」
まあ、寝る前にジャンジャカできる人は、部屋の構造とか、楽器とかに限りがあるでしょうし、そもそも楽器演奏していたら交感神経が活発になって眠れなくなりそう(運動も同じ)。
それから、楽器演奏による筋肉への影響も研究されています。筋電図という装置を使って、筋肉の疲労しやすさを間接的に評価した結果、ピアニストは、速筋よりも遅筋の方が発達していることが分かった、というものです。遅筋は持久力に関わるので、手指の持久力を鍛えるには良いのかも知れません。ただし、健康長寿に関わるような筋トレにはなりませんね。
「EMG power spectrum analysis of first dorsal interosseous muscle in pianists. (Med Sci Sports Exerc 31(12):1834-1838)
一方、「指をどの順番で動かすか」を記憶するにつれて、運動野(運動に関連する脳の部位)の活動が強くなるそうです。脳トレにも良いようです。
「The acquisition of skilled motor performance: fast and slow experience-driven changes in primary motor cortex: Proc Natl Acad Sci U S A. 95(3):861-868」
また、Aパートを練習した直後にBパートを練習すると、Aパートの記憶が定着しないそうです。
僕は、ある曲を練習していて、上手く行かないと別の曲に移ってしまう、という癖があるので、これは良くないのだな、と思います。こまめに休憩を取りながら、一つの曲、パートに集中します。
「Reorganization and plasticity in the adult brain during learning of motor skills.: Curr Opin Neurobiol 15(2):161-167」
楽器演奏だけではなく、他の芸術もいろいろなことにに興味を持つこと、それによって社会と関わることができて、精神的、社会的フレイルの予防に繋がります。
僕の先輩方にも、元気に様々な行事に参加されていらっしゃる方がいます。とても心豊かな老い方(失礼!)だと思い、マネをしたいです。
目指せ!元気で心豊かな高齢者!