「恋愛小説家」 1997年 アメリカ
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監督 ジェームズ・L・ブルックス
出演 ジャック・ニコルソン ヘレン・ハント
グレッグ・キニア キューバ・グッディング・Jr
スキート・ウールリッチ シャーリー・ナイト
イヤードリー・スミス レスリー・ステファンソン
ストーリー
メルヴィン・ユドールは人気恋愛小説家だが、実生活の彼は中年を過ぎていまだ独身で、潔癖症の毒舌家として嫌われ者の変人だったが、ある日隣人でゲイの画家サイモンの愛犬ヴァーデルをあずかる羽目に。
サイモンのパートナーの黒人の画商フランクはなかば脅してユドールに犬を押しつけるが、なぜかユドールはヴァーデルに心の安らぎを見いだす。
それを契機に、毎日ランチに通うカフェのなじみのウェイトレス、キャロルとまともに話を交わすようになった。
彼女が病弱な息子を抱えたシングルマザーだと知った彼は、彼女にひとかたならない興味を持ち出した。
ユドールは、彼女が息子の介護で店での給仕を辞めないようにするためと称して自費で彼女に名医を世話。
思いがけない親切にとまどいを隠せないキャロル。
だが、息子が日に日に元気になって彼女の人生は一変、キャロルはユドールに感謝するが、そんな彼女の真情あふれる態度にも毒舌で応えたりするユドールの相変わらずの変人ぶりに彼女は呆れるばかり。
そんな折り、サイモンは退院するが、高額の治療費と展覧会の失敗のためついに破産して絶望の淵に。
サイモンは長年絶縁状態にあった彼の両親に頼るべきだと判断したフランクは、郷里ニュー・オーリンズへの旅の同行をユドールに頼む。
ユドールはゲイとの旅行だからひとりでは不安という口実でキャロルを誘う。
ところがキャロルとサイモンは初対面から意気投合、思惑が外れてユドールは腐る。
気持ちが晴れやかなキャロルは夕食にユドールを誘う。
ユドールは「君が僕の人生を変えてくれた」と初めてキャロルにロマンチックな告白をするが、ムード最高潮のところでつい要らない毒舌が出る。
寸評
ジャック・ニコルソンは性格俳優の本領を発揮したきわどい役が多いように思うが、このようなくすぐったくなるようなユーモアを振りまく役によるロマンチック・コメディにもいい味を出す。
同じような題名の「恋愛適齢期」でも似たような役どころをこなしていて、軽妙な演技も彼の魅力の一面になっているのかもしれない。
ユドールは自分が書く小説の中では女心を十分すぎるぐらい理解しているのだが、実社会ではうまく自分の感情を表現できない変人である。
小説の世界で女心を描けるのは、男から理性と責任を除けばいいだけだからだとユドールは言い放っているのだが、相手のキャロルも中々の強者である。
この二人のやり取りが抜群に面白い。
若い観客にはまどろっこしいやり取りに感じるかもしれないが、中年以降の観客には受け入れられるだろう。
ユドールは極度の潔癖症で、レストランでもプラスチックのナイフとフォークを持ち込んでいるし、手洗いの石鹸も少し使っては捨ててしまうほど徹底している。
おまけに小説家の習性なのか理屈が先に立ち、素直な表現が出来ないので誰にでも突っかかる。
根は人に対して優しい人物なのだが、それをうまく表現できない不器用な男でもある。
その不器用さがキャロル相手に披露され、観客もクスクス笑いを浮かべながらもイライラしてくる。
それがこの映画の面白さでもある。
ユドールがキャロルに魅かれ始めてからの態度は、年齢の壁を飛び越えた恋をする男の行動として納得するものがある。
気のある女性を目の前にすると、どうも素直になれず思ってもいない会話をしてしまう。
相手の気を引こうとしても、その時の言動はどこかよそよそしくなってしまうのは思い当たるふしがある。
キャロルはキャロルで、病弱な息子の看病で手一杯で余裕がない。
ユドールの好意で息子の看病から解放されると、自分の人生の空白を感じ始めて動揺する。
キャロルが母親に泣きながら心情を吐露するシーンは伝わってきたなあ・・・。
ユドールの隣の部屋に住んでいるのがゲイの画家サイモンなのだが、ユドールはサイモンにゲイをバカにしたような言葉を浴びせている。
LGBTに対する差別用語と思われるようなものだが問題にならなかったのだろうか。
もっとも最後の方でサイモンがユドールに感謝を込めて「アイ・ラブ・ユー」と言うと、ユドールは「自分がゲイだったら一番うれしい言葉だ」とユーモアで返すところなどはゲイに対する言葉として首尾一貫している。
いいシーンだったと思う。
最後までぶつかり合う二人だが、最後のユドールのキャロルへの誉め言葉はいいね。
サイモンと両親の和解は気になったが、キャロルの母親はなかなかできた母親で羨ましく思う。
ロマンチック・コメディとしてはよくできている作品だ。
がっぷり四つの二人の演技を見ているだけでも楽しく、二人が主演男優賞、主演女優賞に輝いたのも納得だ。