「ふるさと」 1983年 日本
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監督 神山征二郎
出演 加藤嘉 長門裕之 樫山文枝 浅井晋 前田吟 樹木希林 花澤徳衛
草薙幸二郎 鈴木ヒロミツ 岡田奈々 篠田三郎
ストーリー
山狭の徳山村ではダム工事が行なわれていた。
静かだった村の道をトラックが砂ぼこりをあげて走りぬけて行く。
徳山村に住む伝三(加藤嘉)は、妻を亡くしてボケ症状が現れはじめていた。
離村を余儀なくされている息子の伝六(長門裕之)と嫁の花(樫山文枝)は、ダム工事の手伝いに出かけており、昼の間は伝三は一人で、それがいっそうボケを進めていた。
隣人も忘れてしまい、伝六と同きんする花をふしだらな女とののしる伝三を、伝六は離れを建てて隔離する。
夏が来て、川で水遊びをする子供たちを見て表情をなごます伝三に、隣家の少年・千太郎(浅井晋)はあまご釣りの伝授を頼む。
かつて伝三はあまご釣りの名人と言われていた。
早起きして出かける二人。
伝三のボケは回復に向かう。
夏休みも終りの頃、雨の日が続き、再び孤独となった伝三のボケは狂気に近いまでになり、やむなく伝六は、離れに鍵をかけて伝三を監禁した。
真夜中に離れで暴れる伝三。
千太郎は、伝三に秘境・長者ヶ淵にあまご釣りに連れて行ってくれるようせがんだ。
歩き詰めで二時間、たどりついた二人は秘境の美しさに目をうばわれる。
そして、伝三に教えられた通りに降ろした千太郎の竿に大ものがかかった。
千太郎は伝三に助けを求めるが、伝三は胸をおさえてうずくまっていた。
あわてる千太郎を落着かせ、伝三は人を呼びにやらせる。
村へと一目散に走る千太郎。
その頃、伝三は岩場に横たわり、若き日の美しい出来事を夢見ていた。
数日後、小雪の降り散る峠に、村に別れを告げる伝六や千太郎たちの姿があり、花の胸には伝三の遺骨がしっかりと抱かれていた。
寸評
やがてダムに沈んでいく村に暮らす家族を描いているが、同時にどこにでもある老人介護の問題も描かれている。
特に伝三は認知症が現れており、家族としてどう支えるのか考えさせられる。
日照りが続き渇水状態になり、貯水ダムの水位が下がるとダムの底からかつての村が現れる映像を何年かに一度の割合で見てきている。
ここで絵がから得ているような村は、ある時期にはたくさん存在していたような気がする。
村人たちはダム建設の仕事に従事しているが、その為に立ち退かねばならない立場にいることに矛盾を感じるが、伝六が言うように新しい生活を始めるにも金が必要なのだ。
彼らは生まれ育った村を出て都会に移住するが、新しい場所はきっと生活環境も文化も全く違うところであろうことは想像できる。
彼らのその後は描かれてはいないが、転居した後の苦労が想像されて胸が熱くなる。
伝三達が住んでいる所は世帯数も人口も少ない山村であるが、そのような場所だから美しい自然環境が壊されることなく存在している。
当初は伝三じいさんのボケぶりが描かれるが、途中から千太郎少年との交流物語に変わっていく。
伝三は時々認知症を発症するが、千太郎に名人と言われたれたアマゴ釣りを教えることで認知症が影をひそめる。
老人となっても必要とされれば生き甲斐が出てくるのだろう。
釣りの極意を教える伝三は頼もしい。
僕は香川県の流通センターに出張した時に、そこのセンター長の息のかかった店でアマゴ料理をご馳走になったことがある。
仕事が深夜に及び店は終了していたが、ひとつだけテーブルのライトをつけて特別に料理を出してくれた。
未だかつてあの時のアマゴの塩焼き程美味い魚を食べたことがなかった。
頭まで骨ごと食べることが出来て、あまりの美味さに僕はお代わりでもう一匹を所望した。
千太郎は清流にしか棲まないアマゴを釣り上げる。
僕はもっぱら寝屋川でのフナ釣りだったが、子供の頃の楽しかった釣りを思い起こした。
伝六の友人は別れを惜しんで名古屋に行き、バスの運転手として再出発する。
別れのシーンは感動的だが悲しみも同時に沸き起こる。
伝六も同じように峠を越えて村を出ていく。
最後に育った村を見下ろすシーンに思わず涙してしまう。
それにしても樫山文枝の奥さんはいい奥さんだった。
あの村だからこそ、樫山文枝のような奥さんになれたのだろうか。
都会のご婦人方は殺伐としたところがあり、それは殿方についても同様である。
不便な土地柄だと思うが、住めば都で彼らにとってはかけがえのない場所だったと思う。
彼らの犠牲に感謝し、出来上がった施設は大事にしなければならない。
そして僕たちはそのような人たちがいたことに想いを馳せねばならないだろう。
感謝と言う言葉を忘れがちな昨今である。