「ひ」は2回に分けて掲載しています。
1回目は2020/2/1の「ピアノレッスン」から「ヒア アフター」「ビートルズがやって来る/ヤァ!ヤァ!ヤァ!」「彼岸花」「羊たちの沈黙」「瞳の奥の秘密」「ひとり狼」「陽のあたる場所」「日の名残り」「火火(ひび)」「緋牡丹博徒 お竜参上」「ヒミズ」「ヒメアノ~ル」「百円の恋」「ヒューゴの不思議な発明」「昼顔」「ビルマの竪琴」「ピンポン」と続きました。
2回目は2021/9/22の「ヒート」から「光」「蜩ノ記」「ビジランテ」「左きゝの拳銃」「ビッグ・ウェンズデー」「ビッグ・ガン」「羊の木」「人斬り」「人のセックスを笑うな」「ヒトラー ~最期の12日間~」「ヒトラーの贋札」「陽のあたる坂道」「ヒポクラテスたち」「緋牡丹博徒 花札勝負」「火まつり」「ひまわり」「秘密」「百万円と苦虫女」「BIUTIFUL ビューティフル」「ビューティフル・デイ」「ビューティフル・マインド」「病院で死ぬということ」「病院へ行こう」「評決」「ビリー・ザ・キッド/21才の生涯」「ビルマの竪琴」と続きました。
今回は3回目です。
「ヒーローショー」 2010年 日本
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監督 井筒和幸
出演 後藤淳平 福徳秀介 ちすん 米原幸佑 桜木涼介 林剛史 阿部亮平
石井あみ 永田彬 結城しのぶ 大森博史 太田美恵
ストーリー
芸人を目指すユウキ(福徳秀介)はオーディションで失敗し、バイトもクビになってしまう。
暗い気分のところ、先輩で元相方の剛志(桜木涼介)と出会い、剛志はユウキに新しいバイトを紹介する。
翌日ユウキは、紹介されたバイト先である住宅展示場の中で行われる『電流戦士ギガチェンジャーショー』の会場に向かう。
剛志が演じる怪人バクゲルグが司会の美由紀(石井あみ)に襲いかかると、5人のギガチェンジャーが現われるというお決まりのショーで、ユウキは悪の手下の1人として参加することになる。
剛志は悪役の方が子供のウケがいいとうそぶくが、ギガレッドを演じる俳優志望のノボル(永田彬)とギガブルーのツトム(米原幸佑)は剛志をバカにしている。
ある日、剛志の恋人である美由紀をノボルが寝取ったことが発覚し、剛志とノボルは、ショーの最中に大乱闘。
怒りの収まらない剛志は、サーフショップの鬼丸(阿部亮平)を訪ね、ノボルたちを締めてほしいと頼む。
鬼丸は金をせしめようと、大学に乗りこんでノボルとツトムを痛めつける。
観念したノボルたちは、金を借りるためにツトムの兄・拓也(林剛史)のところに行く。
渋谷で出会い系サイトを運営している拓也は、剛志たちを返り討ちにしてやろうと、自衛隊時代の友人・勇気(後藤淳平)に相談を持ち掛ける。
勇気は今は配管工をしているが、年上の恋人あさみ(ちすん)とレストランを出すため、調理師免許を取ろうと考えている。
かつてその凶暴性で評判だった勇気は、拓也の頼みを引き受ける。
金を受け取るために勝浦に来た鬼丸たちは、勇気たちの壮絶なリンチに遭う。
寸評
前半は、ユウキがひょんなことから凄惨な事件に関わることになる経緯が、壮絶な暴力描写とともに描かれ、後半になると、ユウキと勇気という2人の男のロードムービー的な展開になるのだが、話としては勇気の彼女とその子供も加わって、奇妙な4人の旅が続く後半部分の方が断然面白い。
その旅を通して、ユウキと勇気の間には不思議な絆が生まれ、それぞれいろいろなものを背負った2人の心が共鳴していくところはなかなか面白い。
この話でもって全編を通したほうが面白い作品に仕上がったかもしれない。
前半は兎に角暴力シーンが多く、その描き方はグロテスクですらある。
若者というか不良グループの暴力行為とはこのようなものだと見せつけられているようだ。
仲間が集まると、その暴力行為がどんどんエスカレートしていってしまい止めようのないものになってしまう。
時たま新聞紙上をにぎわすリンチ事件などの背景もこのようなものなのかも知れない。
一度狂って回り始めた歯車の怖さを感じてしまった。
それに比べて後半は友情とか家族愛が前面に出てきてセンチメンタルである。
このギャップが大きすぎて、前半部分は何だったんだろうと思ってしまう。
勇気は、彼女と一緒になって石垣島でレストランを開くという夢を持っているのだが、その反面にある暴力性はどこからきているのかよくわからない。
自衛隊時代の友人への義理立てだけではあるまい。
また、ユウキがサラ金から金を借りようとするシーンに代表されるようなコミカルなシ-ンが時折挿入されるのだが、どうも笑えない。
なんとなく中途半端なイメージを作品に植え付けていた様な気がする。
これは主演の「ジャルジャル」の平凡になってしまった演技によるものなのか、演出の稚拙さによるものなのか判断に迷うところである。
殺人事件も未解決で、勇気と彼女の行く末も想像の域だし、ましてや勇気の生命さえ明らかでない。
故郷に帰ったユウキの今後も未定で、全てを観客の想像に任せきったのは井筒監督らしい。
監督はハッピーエンドを好ましく思っていないのだろう。
井筒監督は「岸和田少年愚連隊」とか「パッチギ」など、テーマを別にしても青春時代の暴力を描かせると中々いい感じを出す人だと思っているのだが、ここではちょっとそれが内容とかみ合っていなかったような気もする。
だからかもしれないが、見ていた時には結構のめり込んでいたのに、終わってみるとこれと言ったことが思い出せない作品だ。
僕の感受性と記憶力が悪いのかもしれない。
子供がいなくなって大騒ぎになっていないのもおかしいけれど、その母親で勇気の彼女役でもあった、ちすんが光っていて役者さんを感じさせた。
ちょっと変わった青春映画だ。