2019/1/1より始めておりますので10日ごとに記録を辿ってみます。
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2020/8/21は「アイズ・ワイド・シャット」で、以下「愛と喝采の日々」「愛と哀しみのボレロ」「愛と青春の旅だち」「愛と追憶の日々」「愛の渇き」「愛のむきだし」「逢びき」「アイリス」「アウトレイジ ビヨンド」「アウトロー」と続きました。
「旗本退屈男 謎の竜神岬」 1963年 日本
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監督 佐々木康
出演 市川右太衛門 里見浩太郎 桜町弘子
美空ひばり 東千代之介 北条きく子
堺駿二 山形勲 八代万智子 清川虹子
沢村精四郎 阿部九洲男 上田吉二郎
平参平 和崎隆太郎 小田部通麿
ストーリー
玄海灘の怒涛に臨む竜神岬は、天刑病舎があるため世人が恐れ近づがぬ謎の岬だった。
ある夜、この岬から医師祐軒(村居京之輔)と大橋(和崎隆太郎)が逃亡を企て、重傷を負った大橋は祐軒の家にたどり着いて息絶えた。
祐軒の娘みゆき(北条きく子)は父の身を案じて岬へ向ったが覆面の一団に襲われた。
危機を救ったのは折よく来合わせた早乙女主水之介(市川右太衛門)の諸羽流青眼崩し。
主水之介は黒田藩に武器弾薬などの禁制品密輸入の疑いありとして、探りに来たのだ。
父の安否を尋ねて家老桜井兵部太夫(山形勲)を訪れたみゆきは、意外にも監禁され、隙をみて抜け出したところを目付役早川左馬助(東千代之介)に助けられた。
助手である網元の若主人若十(里見浩太郎)と連れだって岬にやって来た主水之介は、強引に病舎を案内させ何事かを掴んだ。
折から満月の夜が訪れ、主水之介は桜井が竜神岬に出かけたとの注進を受けて駆けつけた。
潮が満ちて日頃海面の上にある洞窟が格好の水路となり、華麗な地下の大広間に次々と密輸品が運びこまれていた。
洞窟に忍び入った主水之介は、芳蘭(美空ひばり)と名乗る不思議な女に会った。
先代黒田侯と恋仲だった彼女は兵部太夫の策略により侯が命を絶つと、その復讐だけを生き甲斐に機をうかがっていたという。
明けて博多名物どんたくの日、大広場には城主忠継(沢村精四郎)の席も設けられその最高潮に達した時天刑病人の不気味な一団が押しよせて広場は騒然となった。
それをみて兵部太夫らは忠継公を包囲した。
慌てふためく役人、町人共の中にゆうぜんと割って入った男、主水之介だ。
人々の制止も聞かず一群にとびこむと、病人を装った逆賊を相手に獅子奮迅の大活躍。
修羅場と化した広場も、左馬之助の活躍もあって騒ぎは収まった。
お家乗っ取り、さては幕府顛覆を計った兵部太夫も主水之介の慧眼の前に崩れ去ったのである。
寸評
かつて「チャンバラ映画」と呼ばれ愛された時代劇が存在していた。
チャンバラとは刀で斬り合う音と様子を表すチャンチャンバラバラの略で、斬り合いををクライマックスにした作品のことで、子供の頃は仲間たちとチャンバラごっこをして遊んだものだ。
「旗本退屈男」はその中の代表的なシリーズで、合計30本が制作され「旗本退屈男 謎の竜神岬」は最後の作品である。
リアル感のないこの時代劇スタイルは過去のものとなっている。
主演は市川右太衛門で旗本退屈男は彼の代表作兼代名詞でもある。
衣裳は超派手で、額に真っ赤な三日月の刀傷がある。
どだい刀傷があんなにまっ赤な筈はないのである。
派手な衣装は大柄な右太衛門には似合っていたので、不思議と違和感がなかった。
そして悪と対決する前にお決まりのセリフを吐く。
「人呼んで退屈男、天下御免の向こう傷、直参旗本・早乙女主水之介(さおとめもんどのすけ)、諸羽流正眼崩し(もろはりゅうせいがんくずし)、剣の舞のひと差し舞って見せようか」
このセリフが出ると待ってましたとばかりに拍手喝采なのだ。
彼のセリフは「まかり通る」など大層なものが多いのだが、それも旗本退屈男の雰囲気作りに一役買っていた。
退屈を前面に出しているので、極めて明るいチャンバラ映画であった。
僕は後半の作品しか見ていないが、戦前から撮られていて全て市川歌右衛門が主演しているからすごい。
33年間にわたり同一人物を演じていたことになるから、あの「男はつらいよ」の渥美清より長いということで、その事に驚いてしまう。
昭和の歌姫・美空ひばりはこのシリーズの何作かに出演しているが、最後となるこの作品でも出ている。
この作品では脇役だが、美空ひばりは東映の中では女優として唯一プログラムピクチャの主役を張り続けることが出来た人だ。
歌手として不世出の歌い手であったが、女優としての出演作も多い稀有な存在であった。
退屈男はプログラムピクチャのシリーズ物なので毎回同じパターンである。
退屈男の早乙女主水之介は1200石の直参旗本であるが、無役のため何もすることがなく、退屈ばかりしている。
そこでブラリと出かけると、待ってましたとばかりに事件が起きる。
この男は退屈して困っているものだから、退屈しのぎで首を突っ込んでいく。
女にもてて、腕っぷしが強いから深みにはまってもビクともしない。
最後は派手な着流しに三日月傷を見せて流麗な立ち回りを見せて終わる。
このパターン、他の役者がやるとキザっぽくて決まらない。
右太衛門だから絵になったのだ。
映画にとっていい時代だったのだと思うが、この作品の頃には陰りが見えていたと思う。