おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

旗本退屈男 謎の竜神岬

2025-02-21 09:37:57 | 映画
2019/1/1より始めておりますので10日ごとに記録を辿ってみます。
興味のある方はバックナンバーからご覧下さい。

2020/8/21は「アイズ・ワイド・シャット」で、以下「愛と喝采の日々」「愛と哀しみのボレロ」「愛と青春の旅だち」「愛と追憶の日々」「愛の渇き」「愛のむきだし」「逢びき」「アイリス」「アウトレイジ ビヨンド」「アウトロー」と続きました。

「旗本退屈男 謎の竜神岬」 1963年 日本


監督 佐々木康
出演 市川右太衛門 里見浩太郎 桜町弘子
   美空ひばり 東千代之介 北条きく子
   堺駿二 山形勲 八代万智子 清川虹子
   沢村精四郎 阿部九洲男 上田吉二郎
   平参平 和崎隆太郎 小田部通麿

ストーリー
玄海灘の怒涛に臨む竜神岬は、天刑病舎があるため世人が恐れ近づがぬ謎の岬だった。
ある夜、この岬から医師祐軒(村居京之輔)と大橋(和崎隆太郎)が逃亡を企て、重傷を負った大橋は祐軒の家にたどり着いて息絶えた。
祐軒の娘みゆき(北条きく子)は父の身を案じて岬へ向ったが覆面の一団に襲われた。
危機を救ったのは折よく来合わせた早乙女主水之介(市川右太衛門)の諸羽流青眼崩し。
主水之介は黒田藩に武器弾薬などの禁制品密輸入の疑いありとして、探りに来たのだ。
父の安否を尋ねて家老桜井兵部太夫(山形勲)を訪れたみゆきは、意外にも監禁され、隙をみて抜け出したところを目付役早川左馬助(東千代之介)に助けられた。
助手である網元の若主人若十(里見浩太郎)と連れだって岬にやって来た主水之介は、強引に病舎を案内させ何事かを掴んだ。
折から満月の夜が訪れ、主水之介は桜井が竜神岬に出かけたとの注進を受けて駆けつけた。
潮が満ちて日頃海面の上にある洞窟が格好の水路となり、華麗な地下の大広間に次々と密輸品が運びこまれていた。
洞窟に忍び入った主水之介は、芳蘭(美空ひばり)と名乗る不思議な女に会った。
先代黒田侯と恋仲だった彼女は兵部太夫の策略により侯が命を絶つと、その復讐だけを生き甲斐に機をうかがっていたという。
明けて博多名物どんたくの日、大広場には城主忠継(沢村精四郎)の席も設けられその最高潮に達した時天刑病人の不気味な一団が押しよせて広場は騒然となった。
それをみて兵部太夫らは忠継公を包囲した。
慌てふためく役人、町人共の中にゆうぜんと割って入った男、主水之介だ。
人々の制止も聞かず一群にとびこむと、病人を装った逆賊を相手に獅子奮迅の大活躍。
修羅場と化した広場も、左馬之助の活躍もあって騒ぎは収まった。
お家乗っ取り、さては幕府顛覆を計った兵部太夫も主水之介の慧眼の前に崩れ去ったのである。


寸評
かつて「チャンバラ映画」と呼ばれ愛された時代劇が存在していた。
チャンバラとは刀で斬り合う音と様子を表すチャンチャンバラバラの略で、斬り合いををクライマックスにした作品のことで、子供の頃は仲間たちとチャンバラごっこをして遊んだものだ。
「旗本退屈男」はその中の代表的なシリーズで、合計30本が制作され「旗本退屈男 謎の竜神岬」は最後の作品である。
リアル感のないこの時代劇スタイルは過去のものとなっている。
主演は市川右太衛門で旗本退屈男は彼の代表作兼代名詞でもある。
衣裳は超派手で、額に真っ赤な三日月の刀傷がある。
どだい刀傷があんなにまっ赤な筈はないのである。
派手な衣装は大柄な右太衛門には似合っていたので、不思議と違和感がなかった。
そして悪と対決する前にお決まりのセリフを吐く。
「人呼んで退屈男、天下御免の向こう傷、直参旗本・早乙女主水之介(さおとめもんどのすけ)、諸羽流正眼崩し(もろはりゅうせいがんくずし)、剣の舞のひと差し舞って見せようか」
このセリフが出ると待ってましたとばかりに拍手喝采なのだ。
彼のセリフは「まかり通る」など大層なものが多いのだが、それも旗本退屈男の雰囲気作りに一役買っていた。
退屈を前面に出しているので、極めて明るいチャンバラ映画であった。
僕は後半の作品しか見ていないが、戦前から撮られていて全て市川歌右衛門が主演しているからすごい。
33年間にわたり同一人物を演じていたことになるから、あの「男はつらいよ」の渥美清より長いということで、その事に驚いてしまう。
昭和の歌姫・美空ひばりはこのシリーズの何作かに出演しているが、最後となるこの作品でも出ている。
この作品では脇役だが、美空ひばりは東映の中では女優として唯一プログラムピクチャの主役を張り続けることが出来た人だ。
歌手として不世出の歌い手であったが、女優としての出演作も多い稀有な存在であった。

退屈男はプログラムピクチャのシリーズ物なので毎回同じパターンである。
退屈男の早乙女主水之介は1200石の直参旗本であるが、無役のため何もすることがなく、退屈ばかりしている。
そこでブラリと出かけると、待ってましたとばかりに事件が起きる。
この男は退屈して困っているものだから、退屈しのぎで首を突っ込んでいく。
女にもてて、腕っぷしが強いから深みにはまってもビクともしない。
最後は派手な着流しに三日月傷を見せて流麗な立ち回りを見せて終わる。
このパターン、他の役者がやるとキザっぽくて決まらない。
右太衛門だから絵になったのだ。
映画にとっていい時代だったのだと思うが、この作品の頃には陰りが見えていたと思う。

セプテンバー5

2025-02-20 08:38:57 | 映画
「セプテンバー5」 2024年 アメリカ / ドイツ


監督 ティム・フェールバウム
出演 ピーター・サースガード ジョン・マガロ
   ベン・チャップリン レオニー・ベネシュ
   ティム・フェールバウム ジヌディーヌ・スアレム
   コーリイ・ジョンソン マーカス・ラザフォード
   ベンジャミン・ウォーカー

ストーリー
1972年9月5日、ミュンヘンオリンピックでパレスチナ武装組織「黒い九月」によるイスラエル選手団の人質事件が発生した。
事件の発生から終結まで、その一部始終は当時目覚ましい技術革新が進んでいた衛星中継を通して全世界へと生中継された。
だが、全世界が釘付けになったこの歴史的な生中継を担当したのは、ニュース番組とは無縁のスポーツ番組の放送クルーたちだった。
エスカレートするテロリストの要求、錯綜する情報、機能しない現地警察。
全世界が固唾を飲んで事件の行方を見守るなか、テロリストが定めた交渉期限は刻一刻と近づき、中継チームは極限状況で選択を迫られる。


寸評
ミュンヘンオリンピックにおける「黒い九月」が行ったテロ事件を扱った作品として、スティーヴン・スピルバーグ監督の「ミュンヘン」がある。
「ミュンヘン」は当時のゴルダ・メイア首相と上級閣僚で構成された秘密委員会がイスラエル諜報特務庁(モサド)に対して、ミュンヘンオリンピック事件に関与した者の情報収集を行なわせ、これに基づき委員会は暗殺の対象者を決定して、アヴナーという工作員をリーダーに暗殺計画を実行していく、ミュンヘンオリンピック事件の後日談であった。

本作はテロ事件を現地から生中継した人々の視点から描いたサスペンスである。
シーンのほとんどがオリンピック中継のための現地コントロールルームを主な舞台とする放送スタジアムに限定されている。
あの狭い空間だけのやり取りで緊迫感を生み出したのは立派だ。
スタジオはテロ現場ではなく、彼らが襲われることはないのに緊張感が途切れない。
政府、警察の対応の不手際もあったようだが、そのことは描かれず彼らの実況中継で警察の動きが犯行グループ側に筒抜けだったことだけが取り上げられている。
実行犯の再現シーンなどを盛り込まず、あくまでもテレビクルーの判断や行動に絞り込むことで、ドキュメンタリーのような効果を生み出している。
1時間半ほどにまとめ上げているのもよい。
本当にあったことだと分かっていると、殺人などが起きなくても、狭いスペースでも、サスペンスが描けると言うことを証明した作品だ。
最後に事件の結末がテロップされるが、その後に起きたイスラエルによる報復は示されなかった。
いつも思うことなのだが、民族と宗教による対立の根深さは僕の想像を超えるもので、すべての人が平和を望んでいるはずなのになぜ紛争は起きてしまうのだろう。

トロイ

2025-02-19 07:08:04 | 映画
「トロイ」 2004年 アメリカ


監督 ウォルフガング・ペーターゼン
出演 ブラッド・ピット エリック・バナ オーランド・ブルーム
   ダイアン・クルーガー ショーン・ビーン
   ブライアン・コックス ピーター・オトゥール
   ブレンダン・グリーソン ジュリー・クリスティ
   
ストーリー
長年に渡って戦いが繰り返されていたトロイとスパルタの間に和平が結ばれた日、トロイ王子パリスはスパルタの王妃ヘレンと禁じられた恋に落ち、駆け落ち同然にトロイへと彼女を連れ帰ってしまう。
ヘレンの夫であるスパルタ王メネラオスはこれに激怒し、ギリシアの諸王国の盟主にしてメネラオスの兄であるミュケナイ王アガメムノンを頼る。
アガメムノンはこれを口実にトロイを征服しようと、ギリシア連合軍によるトロイ侵攻を決定した。
ギリシアの勇者アキレスは自分や兵士たちを駒としか見ていないアガメムノンに対して不満を抱いていたが、親友オデュッセウスの頼みを受け、自分を尊敬する従弟のパトロクロスを伴ってトロイへと赴く。
先陣を切って飛び込んだアキレスとミュルミドンは瞬く間に浜辺を守るトロイ軍を蹴散らし、アキレスは救援に駆けつけたヘクトルに再戦を約束して引き上げた。
アキレスが自分の指示を無視した事に腹を立てたアガメムノンとの敵対関係は決定的なものとなり、アキレスは戦闘を放棄した。
パリスは戦争を終わらせて故郷を救うため、メネラオスとの一騎討ちに挑むことを決意する。
パリスは防戦一方に追い込まれて助けを求め、ヘクトルは約定を破って助太刀してメネラオスを殺してしまう。
激怒したアガメムノンは一斉攻撃の命令を下すが、アキレスとミュルミドンを欠いたギリシア軍はヘクトル率いるトロイ軍に打ち負かされた。
自軍の窮状にもかかわらず戦わないアキレスに耐えかねたパトロクロスは、アキレスの影武者としてミュルミドンを率いて戦場に赴きヘクトルに挑むが敵わずに討たれ、ヘクトル、トロイ軍、ギリシア軍は、アキレスと思っていた人物の正体がパトロクロスであったことに衝撃を受けて戦いを止めた。
パトロクロスが殺されたことを知ったアキレスは激怒し、たった一人でトロイ城門の前まで戦車を走らせヘクトルとの決闘に挑みヘクトルを討った。
度重なる敗戦にギリシア軍は勝算なしと見て撤退の準備を進めていた。
しかしオデュッセウスは兵士が子供の土産にと作っていた木彫りの馬を見て起死回生の作戦を思いついた。
トロイへの供物として巨大な木馬を造って撤退したと見せかけ、木馬がトロイに運び込まれたら中に隠れた兵士が門を開け、待機していた軍勢で攻め込もうというのだ。
アキレスはミュルミドンたちを帰還させ、心を通じ合ったトロイのブリセイスを助けるため木馬の中に乗り込む。
木馬の策略に騙されたトロイは、瞬く間に炎上する。
ギリシア兵による一方的な破壊と略奪が市民を襲う中、アガメムノンはプリアモス王を殺し、ブリセイスを捕えるが逆に刺殺される。
ブリセイスを探し求めるアキレスはとうとう彼女を助け出すが、そこに兄ヘクトルの復讐に燃えるパリスが現れ、アキレスに矢を放つ。
踵を射抜かれて崩れ落ちるアキレスはさらに胸に矢を受け、ブリセイスに逃げるよう伝えて息絶える。


寸評
僕は歴史物が好きなので「トロイ」も劇場で見たのだが、期待したほどの作品ではなかったと思った記憶がある。
NHKのBSで放送すると言うので手元のパンフレットを見返したが、やはり感激は湧いてこなかった。
先日のテレビ放送で再見しても、やはり感想は変わらなかった。
描かれているどれもが中途半端な描き方で、どこに思い入れを持てばよいのか分からないのだ。
トロイ王子パリスとスパルタの王妃ヘレンとの禁じられた恋の描き方は深くはない。
アキレスとヘクトルの従妹で捕虜となったブリセイスとの関係も同様だ。
アガメムノンとアキレスの確執も図式的に描かれているだけなので、アキレスの参戦が劇的な物に見えない。
戦いのスペクタクルも大軍をCG処理で見せながら描かれているが迫力に欠けている。
衣裳的に敵と味方の区別がつきにくいので乱戦になっているだけの印象である。
内容的にどこまでが史実あるいは神話に忠実かは知る由もないが、ギリシャ神話のトロイの木馬が描かれるのは当然だろう。
アキレスはトロイ戦争に参加し、たった一人で形勢を逆転させ、敵の名将を討ち取るなど向かうところ敵なしの力を誇ったが、戦争に勝利する前に弱点の踵を射られて命を落とし、アキレス腱の由来となった話も盛り込まれている。
断片的に知っている事柄の確認としては都合の良い作品だが、僕はイマイチのめり込むことが出来なかった。
だから20年経っても同じ感想を持ったのだと思う。

日本海大海戦

2025-02-18 07:13:24 | 映画
「日本海大海戦」 1969年 日本


監督 丸山誠治 
出演 三船敏郎 加山雄三 仲代達矢 平田昭彦 土屋嘉男
   佐原健二 アンドリュウ・ヒューズ ピーター・ウィリアムス
   藤田進 柳永二郎 黒沢年男 久保明 佐藤允 小泉博
   田崎潤 辰巳柳太郎 草笛光子 笠智衆 松本幸四郎

ストーリー
19世紀末、欧州列強は争って中国への侵略を続け、明治33年には、日本を含む八ヵ国の連合陸戦隊が排外思想を奉ずる義和団の暴動を鎮圧した。
だが、ロシアだけは満州に兵をとどめて、虎視たんたん日本を狙っていた。
明治天皇(松本幸四郎)は御前会議でロシアとの国交断絶やむなしとし、日露戦争の幕が切って落とされた。
連合艦隊司令長官・東郷平八郎(三船敏郎)は、バルチック艦隊とともに、旅順とウラジオストックにいる太平洋艦隊の動向に気をくばり秘策を練った。
そして広瀬少佐(加山雄三)の旅順港口に老朽船を沈め艦隊を封じ込むという奇策を採用した。
一方乃木軍司令官(笠智衆)率いる陸軍第三軍は、旅順要塞に陸上攻撃をかけた。
だが、ロシア艦隊は封鎖を破り、日本艦隊の砲弾をかわして敗走した。
10月20日、バルチック艦隊がリバウ港を出た。
敵艦が日本海に現われると判断した東郷は、連合艦隊を内地に引上げさせた。
攻撃開始から五ヵ月目の翌年の元日、旅順203高地の敵陣が、乃木軍の手で陥落した。
その頃、ストックホルムで諜報活動をしている明石陸軍大佐(仲代達矢)が、バルチック艦隊の航路が敵司令長官の一存で決まるという情報をつかんだ。
5月20日、見張船信濃丸が五島列島沖にバルチック艦隊を発見。
5月27日、旗艦三笠にZ旗を掲げた東郷長官は、主席参謀・秋山真之(土屋嘉男)が発案した敵の直前を大曲転する大胆不敵な戦法をとり敵の先頭を圧迫した。
激戦は、日本艦隊に大勝利をもたらし、戦勝と平和回復に国民は湧いた
だが、東郷は戦いに勝って真の“戦いの恐しさ”を忘れることができなかった。


寸評
東宝の8・15シリーズの第3弾で、シリーズ屈指のスペクタル作品となっているが、映画そのものは平坦でドラマ性が少ないと感じる。
それは多分、ナレーション中心でドラマが進行し、人物描写が希薄なためだと思う。
東郷長官が妻と語らう場面や、広瀬少佐が部下や友人と語り合う場面が申し訳程度に挿入されているだけだし、203高地での戦いも将兵は単なる消耗品扱いで悲壮感はない。
反面、スペクタクルには力を注いでおり、ミニチュアによる特撮に於ける戦艦の数は群を抜いている。
バルチック艦隊を迎え撃つ日本海海戦ではT字戦法で戦いを有利に進める様子がたっぷり描かれる。
壮絶な死闘は10分以上も描かれサービス精神旺盛である。
凛とした東郷平八郎は三船敏郎ならではである。
広瀬少佐の加山雄三も彼のパターンである好青年を演じている。
笠智衆の乃木は、本人もこんなだったのではないかと思わせる雰囲気を出している。
仲代達矢も彼らしい明石大佐を演じている。
日露戦争における日本海海戦を、ただただ日本人鑑賞者がスカッとするように描いた作品で、東宝の意気込みなのか、パンフレットは通常の物の2倍の大きさであった。

忍びの国

2025-02-17 07:33:31 | 映画
「忍びの国」 2017年 日本


監督 中村義洋
出演 大野智 / 石原さとみ / 鈴木亮平
   知念侑李 / マキタスポーツ / でんでん
   満島真之介 / きたろう / 少路勇介
   上田耕一 / 平祐奈 / 北畠凛
   立川談春 / 國村隼 / 伊勢谷友介

ストーリー
時は戦国、破竹の勢いで天下統一に突き進む織田信長。
次男の信雄(知念侑李)も伊勢国を掌握し、その隣国・伊賀に次なる狙いを定めていた。
しかし、そこに住んでいたのは人を人とも思わぬ人でなしの忍者衆。
中でも無門(大野智)という男は、伊賀一の凄腕にして、どこまでも非情な忍びだった。
ところが普段は無類の怠け者で、女房のお国(石原さとみ)にはまるで頭が上がらず、尻に敷かれる毎日を送っていた。
北畠信雄は家臣の長野左京亮(マキタスポーツ)、日置大膳(伊勢谷友介)と共に義父で元伊勢国司の北畠具教(國村隼)を討った。
同じ頃、伊賀国では国人の百地三太夫(立川談春)と下山甲斐(でんでん)の小競り合いの最中であり、絶人の忍びと謳われる無門が甲斐の次男である次郎兵衛(満島真之介)を討ち果たしていた。
伊勢を落とした織田家と境を接することとなった伊賀は評定の末に織田家の軍門に下ることを決め、その決定を信雄に伝える使者として下山甲斐の長男平兵衛(鈴木亮平)が選ばれた。
身内の死にさえ冷淡な伊賀の気質に疑問を抱いた平兵衛は織田軍に寝返り、彼らを伊賀へと手引きして信雄に伊賀攻めを進言する。
信雄は伊賀攻めを決め、手がかりとして伊賀の丸山城の築城を提案し、そこに兵を置き伊賀を滅ぼす策略だった。
信雄が抱える最大の戦力である大膳は旧主である具教を弑した事で信雄との間に遺恨があり参戦を拒む。
平兵衛は銭に目がなく情のない伊賀者の習性を利用し、織田方が供出した大金に三太夫たちが飛びつくと思っていた。
計画通り織田方の資金で城が出来たが、織田方の策略を見抜いた三太夫は城を焼き払い織田方に痛撃を与えた。
そのため織田方が攻めてくることになったが、自衛のための戦なので銭は出ないということに下人たちは反発し、半数が逃散すると決めた。
不参戦を決め込んでいた大膳は信雄と和解し参戦に転じた。
1万余の軍勢での伊賀攻めが始まり、数の上でも装備の上でも劣るうえに大膳の剛勇も加わり、伊賀者は劣勢に立たされる。
そのころ他の下人と一緒に伊賀を出ようとしていた無門はお国に意見され、ひょんなことで入手した北畠家の家宝の茶入「小茄子」を元手に「雑兵首には十文、兜首には十貫、信雄が首には五千貫を払う」と逃亡中の下人たちに伝えて形勢逆転をはかった。
銭が出るとわかった下人たちの勢いはすさまじく、なりふり構わない戦いぶりに織田軍は総崩れとなり伊勢へと敗走した。
田丸城に侵入して信雄を討とうとした無門だったが、平兵衛に阻まれる。
「川」という伊賀の決闘手段で平兵衛を倒したが、決闘の前に平兵衛が語った話で十二家評定衆への怒りを募らせていた無門は、信雄のことはいったん置いて伊賀に取って返した。
そして十二家評定衆を糾弾し刃を向けた。
無門は下人たちに囲まれたが、その時お国が無門をかばって命を落とし、自らの愚かさに気づいた無門は伊賀から姿を消した。
三太夫の思惑通り、天下の織田軍に勝利したということで下人の雇い口は増え価値も高騰した。
だがそれも長くは続かず、2年後織田信長は4万の軍勢で伊賀に攻め寄せ、伊賀の国は壊滅した。


寸評
物語は第一次天正伊賀の乱を背景としている。
北畠家の養子となっていた織田信長の次男織田信雄は、天正4年(1576年)に北畠具教ら北畠一族を三瀬の変で暗殺し伊勢国を掌握した。
信雄は伊賀国の郷士の日奈知城主・下山平兵衛から伊賀国への手引きを申し出られ、北畠具教が隠居城として築城した丸山城の修築を命じた。
これを知った伊賀衆は不意を突いて総攻撃を開始し丸山城を落城させた。
信雄は信長に相談もせず独断で伊賀国に3方から侵攻したが大敗を喫して伊勢国に敗走した。
敗戦したことを知った信長は激怒して信雄を大いに叱責したらしい。
やがて第二次天正伊賀の乱が起きて伊賀は信長の軍門に下る。

映画はこの事実を脚色しながら進んでいく。
中身は滑稽なので歴史絵巻としての重みはない。
アイドル映画なのかと思ってしまう。
無門とお国のラブストーリーでもあるのだが、大野智と石原さとみの関係が物足りない。
当初、大野智は石原さとみの尻にひかれて家にも入れてもらえない。
ところが、最後には大野智を助けるために石原さとみが死んでいく。
石原さとみの心の変化がなぜ起きたのかよく分からない。
女心と秋の空だったのか。
無門はねずみを育てることになるが、それはお国に教えられた愛の為だったのだろう。
伊賀者は全国に散って脈々と生き続けると大膳が言い、伊賀者の集団が一瞬現代人になる。
引き継がれたものは、金に目がなく自分さえよければ良いとする負の習性なのか、それとも無門が感じた愛なのか。
キネマ旬報の読者投票では2位にランクされていたが、僕はこの作品の良さが理解できなかった。

日本沈没

2025-02-16 09:19:33 | 映画
「日本沈没」 1973年 日本


監督 森谷司郎
出演 藤岡弘 いしだあゆみ 小林桂樹 滝田裕介
   二谷英明 中丸忠雄 村井国夫 夏八木勲
   丹波哲郎 伊東光一 松下達雄 河村弘二
   山本武 森幹太 鈴木瑞穂 垂水悟郎
   細川俊夫 加藤和夫 中村伸郎 島田正吾

ストーリー
海底開発KKに勤める深海潜水艇の操艇者・小野寺俊夫(藤岡弘)は、小笠原諸島北方の島が一夜にして消えた原因を突きとめようと、海底火山の権威、田所博士(小林桂樹)、幸長助教授(滝田裕介)らとともに日本海溝にもぐった。
潜水艇“わだつみ”が八千メートルの海底にもぐった時、彼等は異様な海底異変を発見した。
東京に帰った小野寺は、自由奔放に生きる伊豆の名家の令嬢・阿部玲子(いしだあゆみ)と会った。
そして、湘南の海岸で二人が激しく抱擁中、突如、伊豆の天城山が爆発し、それを追うように、三原山と大室山が噴火を始めた。
小野寺と幸長助教授は、ふたたび田所博士に呼び出された。
田所はなぜか、日本海溝の徹底した調査を急いでいた。
内閣では、山本総理(丹波哲郎)を中心に、極秘のうちに地震問題に関する学者と閣僚との懇談会が開かれた。
出席した学者たちは楽天的な観測をしたが、一人、田所博士だけが列島の異常を警告した。
しかし、この意見は他の学者に一笑に付されてしまった。
懇談会から十日ほどたったある日、田所博士は渡(島田正吾)という高齢の老人に会った。
渡は政財界の黒幕として君臨し、今もなお政治の中枢になんらかの影響力を持つという人物だった。
それから一週間後、内閣調査室の邦枝(中丸忠雄)という男が田所博士を訪れ、列島の異変への調査を依頼してきた。
田所博士は、幸長、小野田、邦枝、そして、情報科学専門の中田(二谷英明)らを加えてプロジェクト・チームを結成し、D計画を設置して、異変調査の“D1計画”を秘密裡に始動させた。
全員は、フランスより購入した高性能の深海潜水艇“ケルマディック号”に乗り、連日、日本海溝の海底調査に没頭、調査が終了して得た結論は、日本列島の大部分は海底に沈むだった。
その時、“第二次関東大震災”の勃発が知らされた。
電車の脱線、追突、車の衝突が続発し、地下鉄・地下街は一瞬にして停電、処によっては泥水が流れ込み、首都圏は想像を絶するパニック状態に陥り、まさに地獄と化した。
そんなある日、田所博士が、テレビに出演し、日本は沈没すると発表してしまう。
その頃、山本と渡との間で秘かに、一億国民の国外大移住“D2計画”の話し合いが行なわれていた。
母の急死により大阪に帰っていた小野寺は兄と別れた後、意外にも玲子と再会した。
一年半前から玲子は小野寺を捜し求めていたのだった。
その夜、二人は空港ホテルの一室で結ばれる。
一方、D計画本部では遂に恐るべき事実が判明した。
日本列島は後10ヵ月後に急激な沈下が始まるというのである。
翌日、総理官邸では、緊急臨時閣議が開かれ、日本国民の海外移住について、審議された。
小野寺は玲子とともにスイスへ移住することを決意した。
小野寺の出発する日、山本総理は、宇宙衛星を通じて全世界に向けて、列島沈没を報道した。
時を同じくして、富士山が本格的な噴火、爆発を始め、箱根、御殿場での避難が始まったという連絡が入った。
その時、小田原近くで富士山の大噴火のために立往生してしまった玲子から小野寺に電話が入った。
必死になって声をはり上げる玲子の声にかぶさるようにゴーッという山鳴りのような響きが聞こえ電話が切れた。
小野寺は気狂いのように受話器を叩きつけ部屋を突び出した。
この日から日本各地で火山が爆発を開始、日本列島はズタズタに引き裂かれ、急速に沈下を始めた。
この間にも“D2計画”は急ピッチで進められ、世界各国に特使が飛び、日本国民の避難交渉が進められた。
アメリカ、ソ連、中国から救助の手がさしのべられ、続々と国民は沈没していく列島から避難していった。
やがて、四国が、東北が、北海道が次々と裂けていき、やがて、日本列島はその姿を海中に没した……。


寸評
光文社カッパ・ノベルスから出た小松左京の原作が大ベストセラーとなり、僕も上下2巻を買って読んだのだが非常に面白かった。
本作はその映画化である。
VFX技術が進んだ現在ではもっとリアルな特撮が可能だろうが、当時としてはよくできていたと思うのに、映画は小説ほどのヒット作とはならなかった。
ジャンルとしては空想科学映画の部類に入ると思うが、地震大国に住む日本人である僕は絵空事と思えないものを感じてしまう。
当時もそうだったが、現実に阪神淡路大震災や東日本大震災が起き、熊本地震や能登地震も起きているからなおさらだ。
東南海地震の発生確率も上がっているのだが、まあ自分の生きている間は大丈夫だろうとの甘い気持ちがないわけではない。
さすがに列島がずたずたに分断されて海中の没してしまうことはないだろうが、いつ自分の家が倒壊するか分からないのが日本国土である。
地震学者の予想など当てにならないと思っている。
それでも自分に都合の悪いことは起きないと思ってしまうのが人の常なのかもしれない。

海底開発会社の深海潜水艇の操縦者である藤岡弘が物語前半の主人公である。
後半は富士山の噴火など列島の異常事態が占めるようになり、集団群像劇の様相を見せてくる。
しかしどこか中途半端で乗り切れないものがある。
自分勝手なイメージを想像できる小説ほどの緊迫感を僕は感じ取れなかった。
小野寺と玲子の関係も消化不良だった。
田所博士がテレビで日本は沈没すると発言するのは、それとなく国民に事態を知らせるための芝居だったなどというのは、この国の政府がじっさいにやりそうなことだ。
各国に日本人を受け入れてもらうように働きかえるが、難民の受け入れに厳しい日本は勝手すぎないかという皮肉を感じる。

陸軍中野学校

2025-02-14 11:40:57 | 映画
「陸軍中野学校」 1966年 日本


監督 増村保造
出演 市川雷蔵 小川真由美 待田京介 
   E・H・エリック 加東大介 村瀬幸子
   早川雄三 仁木多鶴子 南堂正樹 三夏伸
   仲村隆 井上大吾 森矢雄二 九段吾郎
   喜多大八 ピーター・ウィリアムス

ストーリー
1938年10月、草薙中佐(加東大介)の極秘命令で三好次郎陸軍少尉(市川雷蔵)以下18名の陸軍少尉が東京・九段の靖国神社近くのバラックに集められた。
三好は母・菊乃(村瀬幸子)と婚約者・雪子(小川真由美)には出張と偽り家を出てきた。
背広姿で彼らの前に現れた草薙は、優秀なスパイを養成すべく陸軍予備士官学校出身者を集めたことを明かした。
三好らは変名を与えられ、軍服の着用および、軍隊用語の使用を禁じるよう申し渡される。
訓練は柔道から飛行機の操縦までわたり、政治、経済、外交問題については大学教授の講義を受けた。
18人は九段から中野電信隊跡の空き建物に移動し、「中野学校」が正式に開校した。
三好らはさらに変装、ダンス、更に女の肉体を喜ばせる方法までの訓練を受けた。
だが、スパイになり切れず落伍する者もいたし、気の弱い中西(南堂正樹)は自殺し、手塚(三夏伸)は女に貢ぐ金を得るため窃盗を働らき、強引に自殺させられた。
一方、音信不通となった三好を探す雪子は彼を探す手がかりを求め、外資系の貿易会社をやめて参謀本部の暗号班にタイピストとして勤めはじめた。
ある日、雪子は前の職場のイギリス人社長・ベントリイ(ピーター・ウィリアムス)に呼び出された。
ベントリイは「三好は理不尽な理由で軍法会議にかけられ、銃殺刑となった」と嘘を告げ、「日本陸軍の暴走を止めるために力を貸してくれ」と、雪子に参謀本部内の機密情報の持ち出しを依頼した。
三好の死を信じ込んだ雪子はそれに応じた。
三好は、杉本(仲村隆)と久保田(森矢雄二)と共に、卒業試験として英国外交電報の暗号コードブックを英国領事館から盗んだ。
しかし参謀本部暗号班の前田大尉(待田京介)にコードブックが渡った直後、暗号の内容はすぐに変更されてしまった。
前田は草薙のもとに乗り込み、作戦に失敗した中野学校の存在に苦言を呈する。
三好らは「暗号班から情報が漏れたのではないか」と不審に感じ、参謀本部を訪れて手がかりを探る。
三好はそこで勤務中の雪子の姿を認めて尾行すると、雪子がベントリイに紙片を手渡すところを目撃した。
引ったくりを装って雪子からカバンを奪った三好は、彼女が記した手帳の内容から真相を理解し、イギリス側にコードブックの変更をさせた張本人が雪子とベントリイであることを確信した。
中野学校生の報告を受け、憲兵隊がベントリイの自宅に踏み込むが、彼は自殺を図っていた。
三好は雪子を憲兵隊に連絡することなく自分の手で殺した。
中国潜入の司令が下った三好は、雪子のスパイ行為の証拠品である手帳を焼き捨て、黙って汽車に乗り込んだ。
ちょうど欧州では第二次大戦か始まっていた。


寸評
陸軍中野学校は戦前から戦中にかけて実在した大日本帝国陸軍のスパイ養成機関だが、組織の性格上秘密のベールに包まれていたと思うし、活動内容が描かれたようなものだったのかどうか、戦後生まれの僕はその実態を知らない。
市川雷蔵は時代劇が中心のスターだったが、この頃から「若親分シリーズ」や「陸軍中野学校シリーズ」「ある殺し屋シリーズ」など、時代劇以外でも活躍を見せていた。
1960年の「ぼんち」でも放蕩を重ねる船場商家の跡取りを軽妙ながらも存在感をだす演技を見せていたから、現代劇の素養は早くから見出されていたのだろう。
その魅力が引き出されたのがこの「陸軍中野学校」だったと思う。
「ある殺し屋」にも引き継がれるクールさは雪子の小川真由美を殺害する場面だ。
再会が出来て喜ぶ雪子を食事に誘いワインで乾杯するのだが、雪子のワイングラスには毒が塗ってある。
雪子の筆跡を真似て遺書を書き自殺に見せかけて去っていく。
私情に流されないクールな男で、時代劇なら眠狂四郎か大菩薩峠の机龍之介だ。
映画のヒットを受け、「陸運中野学校シリーズ」はその後、森一生、田中徳三、井上昭へと引き継がれていったが、イメージを作ったことも有り、この増村保造による第一作がいちばんよい。

大映では勝新太郎と市川雷蔵が二枚看板だった。
僕が近年太秦を訪れた時、彼らの名前をもじった「カツライス」というカツカレーがメニューとして残っていたし、大映はなくなってしまったけれど大映通りも残っていた。
「悪名」「座頭市」の勝新太郎もよかったけれど、僕は雷蔵派であった。
早逝したのは惜しい!

四万十川

2025-02-13 10:58:37 | 映画
「四万十川」 1991年 日本


監督 恩地日出夫
出演 樋口可南子 小林薫 山田哲平 高橋かおり
   石橋蓮司 菅井きん 佐野史郎 小島幸子
   ベンガル 絵沢萠子 中島葵 奥村公延 芹明香

ストーリー
四万十川流域に小さな食料品店を営む山本家。
一家の主、秀男は出稼ぎに出ており、妻のスミが店を切り盛りしていた。
ある日、秀男が出稼ぎ先で大怪我をして宇和島の病院へ入院することになり、長女の朝子が集団就職をやめて家へ残ることになる。
五人兄弟の次男で小学校三年生の篤義は、クラスのいじめられっ子だったが、くじけず元気に成長していた。
夏休みも近いころ、篤義の学校で鉛筆削り紛失の事件が起こった。
その犯人に、やはりクラスのいじめられっ子である千代子が祭り上げられ、そんな彼女をかばって自分が盗んだと名乗りあげる篤義。
だが実は心の中で千代子を疑っていたことを悟った篤義は言いようのない嫌悪感に襲われた。
夏休みが過ぎ、二学期が始まった。
教員室に呼ばれた篤義は、井戸に小便を仕込んだと覚えのない濡れ衣をかぶる。
実は学校で「いらん子」といじめられた友達の太一が、相手の家の井戸に小便をしたのだった。
その気持ちが痛いほどわかった篤義は太一と一緒に処罰を受ける。
数日後、秀男が退院して家に帰って来た。
それと同時に朝子は町に働きに出ることになり、皆が朝子を見送る中、ひとり四万十川を見下ろす山頂に登った篤義は、朝子の乗った列車を見つめながら泣いた。
それからしばらくして、四万十川流域に台風が直撃。
篤義たちは危うく難を逃れたが、家も店もつぶれてしまう。
さらに何日か経ち、秀男は再び出稼ぎに出る。


寸評
清流「四万十川」に滅した貧しい家庭の少年物語である。
僕が育った村はこれ程の田舎ではなかったが、それでも似たような所があった。
家の前には川が流れていて、そこで釣った鮒やモロコは食材にすることが出来た。
数は少なかったがウナギも居て、夜に仕掛けをしていけば翌朝に獲れた。
大きな池があり、農業用の小川も流れていた。
小川の土手には柳が植えられていて、まっすぐな枝を切って皮をはぐと真っ白な枝となり、絶好の刀になった。
遊び場所はいっぱいあるというのが田舎の風景だった。
篤義たちが四万十川で鰻を獲ったり、魚を捕まえたりしている姿は、僕には郷愁をそそる行為である。
台風が来て前の川が増水すると、たちまち床下浸水であった。
台風が去ると役所の人が来て床下を消毒してまわる。
昭和30年代だとまだまだ日本国中が、都会を除けばそんなだったのだと思う。

石橋蓮司の先生はひどい教師だ。
目を付けられている篤義は何かにつけて犯人扱いされ、石橋蓮司は弁明の機会も与えない。
疑わしい子のランドセルをいきなりひっくり返して中の物をぶちまけている。
この先生の下では生徒は育たないのではないかと思ってしまう。
ダメな大人の代表者のようだ。
今見ればそう感じるが、当時はそんな先生も大勢いたような気がする。
先生の仕打ちに文句を言ってくる親もいなかった。
もしかすると、親たちもそれどころではなかったのかもしれない。

篤義は勉強が出来ないようだが義理人情にはあつい。
共犯者としてでっちあげられても、篤義なら一緒に叱られてくれると思ってと言われると責める気もしない。
小便を井戸に入れた家は金持ちの家だったのだろう。
たぶんガキ大将はその家の子だ。
篤義は金持ちの家の子なら何をやってもいいのかとくってかかる。
最後に篤義が言う「金が魔物になったとはどういうことなのか」に通ずる。
人力でやっていた作業は機械化されていく。
篤義の友達は故郷を棄てて出て行かざるを得ない。
清流「四万十川」に面した村は近代化の波に流されていく。
ここにあった自然と人々の人情は守っていかねばならない。
逆に言えば、制作された頃はそれを失いつつある時代だったのだと思う。
母親は村の為に店を続けるのだが、村人は台風で荒れた家を総出で修理してくれると言う。
それでも父親は出稼ぎに出て行かねばならない。
長女も働くために都市へ出ていく。
家族はバラバラになってしまうが、篤義はその現実を感じながら大人になっていくのだろう。

ボディガード

2025-02-12 15:21:06 | 映画
「ボディガード」 1992年 アメリカ


監督 ミック・ジャクソン
出演 ケヴィン・コスナー ホイットニー・ヒューストン
   ビル・コッブス ゲイリー・ケンプ
   ミシェル・ラマー・リチャード マイク・スター
   トマス・アラナ クリストファー・バート ラルフ・ウェイト

ストーリー
ある日、フランクの元に今を時めくスーパースターである人気歌手で女優のレイチェル・マロンのマネージャーであるビル・デヴァニーが訪れ、数か月前から彼女のもとに脅迫状が送りつけられ、自宅が荒らされるなどの被害が相次いだことからレイチェルの身辺警護を依頼してきた。
フランクが早速レイチェルの豪邸を訪れたところ、わがままな性格のレイチェルをはじめスタッフのあまりの危機感のなさにしびれを切らした彼は依頼を断ろうとした。
ビルの懇願により結局警護を引き受けることになったフランクは警備体制を強化する。
フランクへの反発を募らせたレイチェルはフランクの目をかすめてライヴハウスでコンサートを行い、舞台に上がった男から客席につき落とされるが、駆けつけたフランクに助けられた。
錯乱状態になった彼女を心から介護するフランクを見て、それまで彼をただの邪魔者としか考えていなかったレイチェルは、初めて心を開いた。
レイチェルはフランクをデートに誘い、すっかり惹かれ合う仲となった二人はそのままフランクの自宅で一線を超えてしまった。
翌朝、依頼人に手を出してしまったことに深く後悔したフランクはあえてレイチェルを突き放す態度を取ってしまい、誤解したレイチェルは当てつけのようにフランクの元同僚だったグレッグ・ポートマンを誘い、無断で外出するなどの問題行動を繰り返す。
もうこれ以上レイチェルの警護は無理だと判断したフランクはビルに辞めると告げたが、その直後にレイチェルの一人息子フレッチャーを騙った犯人からの脅迫電話があり、強いショックを受けたレイチェルは全てのスケジュールをキャンセル、フランクと運転手を除くスタッフ全員に休暇を出した。
結局警護を続行することにしたフランクはレイチェルとフレッチャー、そしてレイチェルの姉ニッキーを連れてオレゴン州の田舎にある自身の父ハーブの家にかくまった。
しかし、安心したのも束の間、フレッチャーが一人で乗ったボートが危うく爆破されそうになり、危険を感じたフランクは直ちにここから脱出するよう促した。
ニッキーはフランクに事の真相を打ち明けた。
かつて歌手を目指していたニッキーだったがレイチェルの方がブレイクしてしまい、嫉妬心から偶然酒場で出会った見知らぬ男にレイチェル殺害を依頼してしまっていたのだ。
自責の念に駆られたニッキーは依頼を取り消そうとするも男の連絡先も知らなかった。
その直後、ニッキーは何者かに暗殺され、フランクはその手口からプロの犯行だと睨み、アカデミー賞受賞式に出席するというレイチェルを止めるが、最優秀主題歌賞にノミネートされている彼女は舞台に立つことを決心する。
受賞式当日、客席にある映画スターのボディガードとして入場したはずの昔の同僚ポートマンの姿を見つけ、彼が犯人だと直感する。
見事に主演女優賞を受賞したレイチェルがステージに上がったその時、カメラマンに変装していたポートマンはレイチェルに向けて発砲したが、フランクは自ら銃弾を受けてレイチェルを守り、ポートマンを射殺して事件を解決した。
全てを終えたフランクはレイチェルたちと飛行場で別れの挨拶を交わした。
別れを惜しむ2人だが、ショービジネスと政治家の警備というそれぞれの世界に帰っていくのだった。


寸評
作品自体は平凡なものだが、主題歌「オールウェイズ・ラヴ・ユー」が良くて、僕はCDアルバムの「ボディガード:オリジナル・サウンドトラック・アルバム」を買った。
僕には、主題歌があってこの映画が存在している。
レイチェルが狙われているのは姉のニッキーの嫉妬に原因があるのだが、姉妹の確執が焦点にならずケヴィン・コスナーとホイットニー・ヒューストンのラブロマンスに重心が置かれていて、サスペンス作品としては軽い。

ホイットニー・ヒューストンは浴槽の中に倒れ48歳の若さで急死したが、遺体からコカインが検出されていることから、入浴中にコカインの影響で心臓発作が起こり浴槽に沈んだらしく、遺体はコカイン中毒の為かボロボロだったらしい。
しかし、その事でアルバムの色があせるわけではない。
僕は映画「ボディガード」より、アルバム「ボディガード」を断然評価している。
アルバムを聞くたびに映画を思い出す逆パターンである。

終着駅

2025-02-11 12:33:30 | 映画
2019/1/1より始めておりますので10日ごとに記録を辿ってみます。
興味のある方はバックナンバーからご覧下さい。

2020/8/11は「私が棄てた女」で、以下「私の男」「わたしは、ダニエル・ブレイク」「笑う蛙」「悪い奴ほどよく眠る」「われに撃つ用意あり READY TO SHOOT」「あゝ結婚」「愛がなんだ」「愛されるために、ここにいる」「愛情物語」と続きました。

「終着駅」 1953年 アメリカ / イタリア


監督 ヴィットリオ・デ・シーカ
出演 ジェニファー・ジョーンズ モンゴメリー・クリフト
   リチャード・ベイマー ジーノ・チェルヴィ パオロ・ストッパ

ストーリー
米国人の若い人妻メアリー・フォーブスは、断ち切りがたい想いを残してローマの中央駅にやって来た。
彼女は妹の家に身を寄せて、数日間ローマ見物をしたのだが、その間に1人の青年と知り合い、烈しく愛し合うようになってしまった。
青年はジョヴァンニ・ドナーティという米伊混血の英語教師で、彼の激しい情熱にメアリーは米国に残してきた夫や娘のことを忘れてしまうほどだったが、やはり帰国する以外になすすべもなかった。
妹に電話で荷物を持って来るよう頼み、午後7時に出発するミラノ行の列車にメアリーは席をとった。
発車数分前、ジョヴァンニが駆けつけた。
彼はメアリーの妹から出発のことを聞いたのだ。
彼の熱心なひきとめにあって、メアリーの心は動揺した。
彼女はその汽車をやりすごし、ジョヴァンニと駅のレストランへ行った。
ジョヴァンニの一途な説得に、メアリーは彼のアパートへ行くことを承知したかに見えたが、丁度出会った彼女の甥のポール少年にことよせて、彼女は身をかわした。
ジョヴァンニはメアリーを殴りつけて立ち去った。
メアリーとポールは3等待合室に入って、次の8時半発パリ行を待つことにした。
そこでメアリーは妊娠の衰弱で苦しんでいる婦人の世話をし、心の落ち着きを取り戻した。
ジョヴァンニは強く後悔して、メアリーを求めて駅の中を歩きまわった。
プラットホームの端に、ポールを帰して1人たたずむメアリーの姿があった。
彼は夢中になって線路を横切り、彼女のそばに駆け寄ろうとした。
そのとき列車が轟然と入ってきた。
一瞬早くジョヴァンニは汽車の前をよぎり、メアリーを抱きしめた。
2人は駅のはずれに1台切り離されている暗い客車の中に入っていった。
しばらく2人だけの世界に入って別れを惜しむのも束の間、2人は公安委員に発見され、風紀上の現行犯として駅の警察に連行された。
8時半の発車時刻も間近かに迫り、署長の好意ある計らいで2人は釈放された。
いまこそメアリーは帰国の決意を固めて列車に乗った。
ジョヴァンニは車上で彼女との別れを惜しむあまり、列車が動き出したのも気づかないほどだった。
慌てて列車を飛び降りた彼はホームの上に叩きつけられた。
メアリーを乗せた列車は闇の中に走り去っていった。


寸評
この映画は、ローマ中央駅の雑踏を背景に旅のアメリカ夫人とローマの青年との恋と、数日の情事のあとの別れを描いたものだ。
作品の進行と上映時間が一致しているのは「真昼の決闘」などと同じだが、オール・ロケーションであることで生々しく思えるし、映像は活気に満ち溢れている。
イタリアの青年をモンゴメリー・クリフトが演じているが、イタリア男性は女性に超積極的だというのは知られたことで、ジョヴァンニの執拗なまでの引き留めにメアリーが予定列車を延ばしてしまうのも納得である。
平凡な主婦であるメアリーだったが、情熱的な愛撫に動揺し理性を失ってしまい男の胸にしがみついてしまう。
たぶんメアリーは家庭的な主婦で、夫と子供の為だけに生きてきた女性だったのだろう。
長い間の夫婦生活では、恋だの愛だのの燃えるような感情は失われていく。
刺激はないが不満のない平和で幸せな生活だ。
忘れていた情熱をジョヴァンニによって呼び起こされたのだろう。
忘れていた青春が蘇ったに違いない。
立場が逆だったら僕だって動揺する。
粋な駅長さんが「子供さんの所へお帰りなさい、奥さん」と言われメアリーはアメリカへ帰っていく。
男女のかりそめの出会いと別れのはかなさを描いているのはヴィットリオ・デ・シーカらしいと思うし、「ひまわり」に通じるものを感じる。

明治天皇と日露大戦争

2025-02-10 17:48:05 | 映画
「明治天皇と日露大戦争」 1957年 日本


監督 渡辺邦男
出演 嵐寛寿郎 阿部九州男 高田稔 武村新
   藤田進 岬洋二 江川宇礼雄 広瀬恒美
   原文雄 倉橋宏明 沼田曜一 田崎潤
   天城竜太郎 小笠原竜三郎 宇津井健
   高島忠夫 中山昭二 若山富三郎
   芝田新 丹波哲郎 天知茂

ストーリー
明治37年、ロシアの極東侵略政策に脅威を感じた日本は、日露交渉によって事態を収めようとしたが、ロシア側の誠意のない態度に国内は自衛のためロシアを討つべしとの声が高まり、それまで開戦の国民生活に与える影響を考え慎重だった明治天皇(嵐寛寿郎)もついに開戦のご英断を下された。
かくて連合艦隊に護送された日本陸軍は仁川に上陸を敢行し、一路満洲へと進撃を開始した。
一方海軍は、旅順港にある敵艦隊を封鎖し日本海の制海権を握らんとして決死隊を編成、第一次、第二次と相次ぐ閉塞決行し遂に成功したが広瀬少佐(宇津井健)、杉野兵曹長(有馬新二)はじめ多くの勇士が壮烈な戦死をとげた。
次いで黄海大海戦でも勝利を得た。
この海軍の目覚しい活躍と同様、陸軍数十万の将兵は大陸の奥深く敵を蹴散らしていたが、敵将ステッセル(サベル・ジャミール)の守る旅順要塞は、攻撃司令官乃木大将(林寛)以下必死の攻撃にもかかわらず噂通り難攻不落を誇っていて、乃木大将の長男もここで戦死した。
第一回の総攻撃は、新兵器機関銃の出現に15,000名の犠牲者を出して失敗に終った。
一方、大山元帥(信夫英一)が率いる他の軍団は遼陽総攻撃を行い、関谷連隊長(大谷友彦)、橘少佐(若山富三郎)を失うが、これを占領した。
この間、旅順要塞への攻撃は休みなく続けられ、ことに11月3日天長節を迎えて乃木第三軍は要衝203高地攻撃を決行、一時は奪取したが後続部隊が続かず、遂に乃木将軍の二男保典(高島忠夫)をはじめ全員戦死した。
だが激闘幾度、38年1月遂に203高地は陥落し、ステッセルは旅順を開け渡した。
続く奉天の大会戦に露軍も30万の兵を動員したが、日本軍必死の猛攻で3月10日遂に奉天入城を果たした。
一方、バルチック艦隊と、東郷司令長官(田崎潤)率いる連合艦隊は対馬海峡で接触、海戦史上初の180度転回作戦によって敵艦隊を全滅させた。
勝利を祝う提灯行列と万歳の声を陛下は何時までも飽かずに見守っておられた。


寸評
かつてアラカンと呼ばれた役者がいた。
嵐寛寿郎を親しみを込めてアラカンと呼んでいた。
名前を縮めて呼んだのは、アラカン以外では坂東妻三郎のバンツマ、勝新太郎のカツシンぐらいではなかったろうか。
僕にとってのアラカンは鞍馬天狗と本作における明治天皇である。
後年に任侠映画で渋い親分の役などをやっていたが、印象に残るのはやはり鞍馬天狗と明治天皇だ。
本作は嵐寛寿郎が堂々たる明治天皇を演じている超・愛国映画だ。
明治天皇の英明さ、慈悲深さ、思慮深さを徹底的に描き、天皇はカリスマとして存在している。
まるで戦前の国威高揚映画のようだ。
明治天皇の威光によって兵たちが一命を投げ打ちロシアに勝利し、ロシアの侵略から日本は守られたという内容なのだ。
反戦色は全くなく、映画は大ヒットしたと言う。
第二次世界大戦における敗戦国となった日本だが、かつては大国ロシアに勝利したことがあるのだと、民族のプライドを呼び起こすような内容が受けたのだろう。
時代劇のスターだった嵐寛寿郎はこの作品における明治天皇があまりにもハマっていたので、この後時代劇に出るとケシカランと言われたという笑い話がついている。
群衆シーンなど迫力もある作品で、新東宝が社運を賭けただけのことはある作品ではある。

火垂るの墓

2025-02-09 09:19:19 | 映画
「火垂るの墓」 1988年 日本


監督 高畑勲
声の出演 辰己努 白石綾乃 志乃原良子
     山口朱美 酒井雅代

ストーリー
終戦近い神戸は連日、B29の空襲に見舞われていた。
幼い兄妹・清太と節子は混乱のさなか、母と別れ別れになった。
清太が非常時の集合場所である国民学校へ駆けつけると、母はすでに危篤状態で間もなく息絶えてしまった。
家を焼け出された兄妹は遠縁に当たるおばさん宅に身を寄せた。
しかし、うまくいっていた共同生活も生活が苦しくなると、おばさんは二人に対して不満をぶつけるようになった。
清太は息苦しい毎日の生活が嫌になり、ある日節子を連れて未亡人の家を出た。
そして、二人はわずかの家財道具をリヤカーに積み、川辺の横穴豪へ住みついた。
兄妹は水入らずで、貧しくとも楽しい生活を送ることになった。
食糧は川で取れるタニシやフナ、電気もないので明りには蛍を集めて瓶に入れていた。
しかし、楽しい生活も束の間、やがて食糧も尽き、清太は畑泥棒までやるようになった。
ある晩、清太は畑に忍び込んだところを見つかり、農夫にさんざん殴られたあげく、警察につき出されてしまった。
すぐに釈放されたものの、幼い節子の体は栄養失調のため日に日に弱っていった。
清太は空襲に紛れて盗んだ野菜でスープを作って節子に飲ませたが、あまり効果はなかった。
ある日、川辺でぐったりしていた節子を清太は医者に診せたが、「薬では治らない。滋養をつけなさい」と言われただけだった。
昭和20年の夏、日本はようやく終戦を迎えたが、清太らの父が生還する望みは薄かった。
清太は銀行からおろした金で食糧を買い、節子におかゆとスイカを食べさせるが、もはや口にする力も失くしていた。
節子は静かに息をひき取り、清太は一人になってしまった。
彼もまた駅で浮浪者とともにやがてくる死を待つだけだった。


寸評
僕は滅多にアニメ作品を見ないのだが、このアニメだけは何度見ても泣ける。
野坂昭如の原作を読んで泣き、このアニメを見て泣いた。
先ず、幼い清太と節子の絆が強く描かれており、その兄弟愛の健気なさに涙してしまう。
白石綾乃さんの節子の声がたまらない。
戦時中だと、おばさんの言う事は当たり前だったのかもしれない。
それでも二人は貧しいながらも戦時下で楽しそうに暮らしている。
ままごと遊びの延長のような生活は微笑ましい。
それ故に、迎える結末がとてつもなく悲しい。
彼らに食料を与えたい、病院にいれたい。
しかし僕たちには彼らを救うことは出来ない。
終活の一環で原作本も処分してしまったが、たしか「焼土層」なる短編も収められていたはずだ。
こちらは清太の後日談のような話で、浮浪者が意識朦朧となって排泄物をまさぐりながら死んでいくと言った内容だったように思う。
僕にはこのような話を想像することもできない。
その時代を生きた人にしか分からないものではないかと思う。
ウクライナ、ガザ、シリアなどの状況を見ると、やはり戦争は良くない!
文章を書いていて作品の場面が思い浮かび、自然と涙が湧いてきた。

騙し絵の牙

2025-02-08 12:43:11 | 映画
「騙し絵の牙」 2020年 日本


監督 吉田大八
出演 大泉洋 松岡茉優 佐藤浩市 佐野史郎
   宮沢氷魚 池田エライザ 斎藤工 中村倫也
   坪倉由幸 國村隼 木村佳乃 小林聡美
   リリー・フランキー 塚本晋也 

ストーリー
出版不況の煽りを受ける大手出版社「薫風社」では、創業一族の社長が急逝したことにより、次期社長の座を巡る権力争いが勃発。
専務の東松が進める大改革で、変わり者の速水が編集長を務めるカルチャー誌「トリニティ」は、廃刊のピンチに陥ってしまう。
「トリニティ」を率いる速水は、カルチャー誌の存続に奔走していく。
嘘、裏切り、リークなどクセモノぞろいの上層部、作家、同僚たちの陰謀が入り乱れるなか、雑誌存続のために奔走する速水は、薫風社の看板雑誌“小説薫風”から迎えた新人編集者・高野恵とともに新人作家を大抜擢するなど、次々と目玉企画を打ち出していくのだが・・・。


寸評
騙し絵には一つの絵が見る人によって違うものに見えるといったものや、錯視を利用して実際にはありえない立体物を平面に描いたものなどがある。
後者の代表的な作家はマウリッツ・エッシャーだろう。
雑誌「トリニティ」の編集長である速水はトリックアートのように変幻自在な手法で「トリニティ」の発行部数を増やしていく。
スーパーマン的な行動力を見せるが、それは彼の最終目的にたどり着くまでの手段だったのだ。
速水はこの映画におけるエッシャーだ。
彼の描く絵に隠されたもう一つの見方に気付かずに薫風社の役員たちは翻弄される。
作品は出版社の内幕物でもあるのだが、セクショナリズムはどこにでも存在している。
新聞社なら政治部と社会部、会社なら開発部門と営業部門などだろうが、この出版社では小説部門と雑誌部門が対立している。
今、再見するとタレントのスキャンダルに端を発した某テレビ局問題がダブる。
この映画の製作に協力している文芸春秋社における文芸春秋と週刊文春を連想してしまう。
薫風社の前社長は伊庭喜之助で、息子の名前が伊庭惟高で、ネームプレートはどちらもK・IBA となり、続ければKIBAである。
東松は巨大なKIBA会館建設を目論んでいるのだが、僕は球形を持ったテレビ局ビルを連想してしまった。
社長を追い出すための増資資金集めの道具だったあの建物だ。
KIBAは牙であり、速水の牙は二階堂、城島咲、矢代聖に向かい、小説部門を牛耳る宮藤に向かい、東松にも向かう。
物語として速水は立派過ぎるが、新人編集者の高野は面白いキャラクターとして描かれていて、演じている松岡茉優も魅力的だ。
新人編集者でもあれほど作家に対して書き直しを提言できるものなのだろうか。
高野の転身は書物への賛歌であり、ミニ書店への激励でもある。
速水が悔しさで紙コップを投げつけるシーンは痛快であった。

カラオケ行こ!

2025-02-07 17:29:00 | 映画
「カラオケ行こ!」 2023年 日本


監督 山下敦弘
出演 綾野剛 齋藤潤 芳根京子 後聖人 橋本じゅん
   やべきょうすけ 吉永秀平 チャンス大城
   RED RICE 米村亮太朗 岡部ひろき
   坂井真紀 宮崎吐夢 ヒコロヒー 井澤徹
   加藤雅也 北村一輝

ストーリー
合唱コンクールを終えた森丘中学校の合唱部。
3位になったことで部長の聡実はトロフィーをもらいに行くと、見知らぬ男から「カラオケ行こ」と言われた。
気迫のある男の誘いを断れず、聡実は「カラオケ天国」へ。
男は名刺を出して狂児だと名乗ったが、聡実は彼がヤクザであるとわかって萎縮した。
狂児は組のカラオケ大会で最下位になった者には恐怖の罰ゲームとして親分から刺青をされるので、それを回避するため上手くなりたいという。
狂児から歌を聞いてもらってアドバイスをして欲しいと頼まれ、聡実は渋々ながら狂児の『紅』の歌を聞き、手を上げて唄うのはまずいと助言をして帰ることができた。
次の日、合唱祭の練習が始まる中、なんと校門に聡実が忘れた傘を届けに来た狂児の姿があった。
聡実は狂児に歌の助言も欲しいと言われ、合唱部用の練習冊子を渡して帰らせた。
再びカラオケに呼ばれた聡実は、狂児が冊子を元に真面目に練習していたことに驚いた。
聡実は同じパートの和田からサボっていると非難されながらも、映画部に顔を出す回数が増えていった。
そうして狂児の歌に付き合う回数も増え、聡実は彼の音域にあった 曲を何曲か提案した。
聡実は『紅』の英語パートを関西弁で和訳し、狂児はしみじみと歌詞を読み上げた。
歌詞の意味を知って感慨深そうにする狂児に、聡実は狂児の女性への影を感じた。
日は変わり、聡実の評判を聞いた狂児の仲間たちがカラオケに押しかけ、ヤクザたち十人ほどが彼を「先生」と呼びつつアドバイスをもらうために何人かが歌った。
聡実はハッキリと歌の評価をし、「カス」呼ばわりされて激怒する者もでたが、狂児のとりなしでみんなが御礼の頭を下げることになった。
合唱祭当日、聡実は会場に向かう途中で狂児らしき男が救急車に運ばれるのを見て動揺する。


寸評
山下敦弘は多作家でジャンルも広い。
今回はコメディである。
ヤクザが中学生にカラオケの指導を受けるという設定自体が滑稽なのだが、クスリと笑ってしまう小ネタが満載。合唱部顧問代理の森本先生が合唱に対する愛を説き、愛は与えるものだと言った後で岡家の食事シーンとなる。
そこで母親は焼き鮭の皮を綺麗に取って父親のご飯の上に乗せるのだが、それは母親の父親への愛の受け渡しだと言った具合だ。
聡実の使っている傘のエピソードや、合唱コンクールへのお守りのエピソードなど、所々に出てくるギャグに笑わされる。
聡実と狂児の会話はまるで掛け合い漫才のようで、ハイテンションな狂児と大人しすぎる聡実の対比が面白い。
綾野剛の熱烈な歌唱もインパクトが強い。
これはコメディだが、同時に聡実の成長物語でもある。
聡実は合唱部の部長だが後輩の和田に責められっぱなしだし、女性部員で副部長の中川が仕切っているところもある。
それは声変わりでソプラノの音域が出せなくなってきていることにもよるのだが、もともと自己主張が強い方ではないのだろう。
カメの傘を鶴の傘に代えられると、不満ながらも鶴の傘を受け入れてしまう性格だ。
その彼が狂児に中川、和田との三角関係をを冷やかされるとブチギレル。
初めて聡実が大声を上げる場面だ。
狂児の死を聞いて、呑気にカラオケをやっているヤクザたちに大声を上げて憤る。
彼への鎮魂歌として「紅」を熱唱する。
聡実が初めて歌声を披露する場面だで、ジーンとくるシーンとなっている。
エンドクレジットが終わってもう1シーンあるのだが、このシーンはなかなかいい。
内容的に軽い作品だが、僕は結構楽しめた。

暗くなるまでこの恋を

2025-02-06 08:14:47 | 映画
「暗くなるまでこの恋を」 1969年 フランス


監督 フランソワ・トリュフォー
出演 ジャン=ポール・ベルモンド カトリーヌ・ドヌーヴ
   ミシェル・ブーケ ネリー・ボルゴー マルセル・ベルベール

ストーリー
フランス領リユニヨン島の煙草栽培で財を成したルイは、新聞広告で交際相手を募集。
それに応じた女性と文通の末、結婚することになった。
まだ会ったことがないので会おうということになって、ルイは島へ来る彼女を港で待つことに。
予定通りにユリーという女性が降り立ったが、送られてきた写真とは別人で遥かに美人だった。
戸惑うルイに、送ったのは友人の写真だと答えるユリー。
彼女の美貌や優しさに目がくらみ、ルイは事情も調べずにあっさりと結婚を決めた。
彼女との新婚生活は喧嘩もなく穏やかな日々が続き、ルイもこの結婚にしごく満足した。
すっかり彼女を信頼したルイは、自分の銀行預金を妻も利用できるように契約を変更したところ、ユリーが預金のほとんどを引き出した末に姿を消してしまった。
さらにユリーから連絡がないことを心配して姉のベルトが島へやってきた。
ルイが結婚式の写真を見せると、ベルトは驚き「これはユリーではない」と断言した。
どうやら詐欺どころか、人の生死に関わる事件の様相を呈してきた。
彼らは私立探偵のコモリを雇って調査を開始する。
ルイも自分で事件を探ろうとニースへ。
やがて努力の甲斐あって、リビエラでユリーを詐称した女を見つけ出した。
彼女の本名はマリオン・ベルガノ。
孤児として苦労して育ち、いつの間にか悪事に手を染めるようになっていたのだ。
この詐欺ではギャングの男と手を組み、本物のユリーを殺した上で彼女に化けていたのだ。
しかし結局金はギャングが取り、マリオンは貧しいままだった。
彼女を恨むより、その境遇に同情したルイはそのまま彼女と再び暮らし始めた。
ルイが雇ったコモリが真相を嗅ぎつけたが、ルイは彼を殺してしまい、2人はリヨンに逃亡。
金が乏しくなりはじめ、マリオンはそれが縁の切れ目とばかりルイに冷たく当たり始めた。
警察が彼らを追い始め、2人はさらにスイスへ。
そこでマリオンはルイに毒入りコーヒーを飲ませようとした。
これまでの事件を彼1人に押し付ける気だった。
ルイはあえて死ぬつもりだったが、マリオンは彼の愛に打たれ、コーヒーを棄てた。
そして本当の愛に結ばれた2人は国境へ向かう。


寸評
これはサスペンス映画なのか、恋愛映画なのか?
内容からすればサスペンス映画で、ヒッチコックを敬愛するトリュフォーらしいのだが、描かれているのが男女のいびつな愛で、これまたトリュフォーらしい。
トリュフォーはこれより前にジャンヌ・モロー主演で「黒衣の花嫁」を撮っている。
この作品でもそうなのだが、美しくて魅力的な女性は男にとって危険な存在でもあると暗に言っているようだ。
従順な女性よりも悪魔的な女性の方が魅力的だとの認識は、トリュフォー自身にもあるのかもしれない。

観客はこの結婚が破綻をきたすことを当初から分かっているので、どのような形で破局を迎えるのだろかと興味を持たせる。
しかし小細工なしに、いとも簡単に破局を迎える。
サスペンスとしてはなら、もう少し工夫があっても良さそうなものだ。
ルイは騙された女を探し出そうとするが、そうするのは彼女への報復もあるが、同時に美しいユリーの面影が忘れられないからである。
ここが男の弱いところである。
愛してしまうと、相手が善人であろうが悪人であろうが関係なくなってしまうものなのだろう。
ユリーの名前を語ったマリオンの告白など、どうでもよくなってしまっている。
ルイはリユニヨン島の煙草工場の権利を売り払いマリオンとの愛に生きようとする。
毒殺されようとしても、それさえ受け入れようとする。
その純粋さに打たれたマリオンはルイと共に白い雪の中をよろめきながら国境を目指す。
トリュフォーってロマンチストなのだなあと感じさせるエンディングである。
この甘ったるさが、どちらかと言えば失敗作と言えるものにしてしまっていると思う。
僕がカトリーヌ・ドヌーヴよりジャンヌ・モローの方を女優として評価し、なお且つ好きなことも一因ではあるのだが。