おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

狐の呉れた赤ん坊

2020-12-29 08:12:47 | 映画
「狐の呉れた赤ん坊」 1945年 日本


監督 丸根賛太郎
出演 阪東妻三郎 橘公子 羅門光三郎 寺島貢
   谷譲二 光岡龍三郎 見明凡太郎 阿部九州男
   藤川準 水野浩 原健作 荒木忍 阪東太郎

ストーリー
東海道名代の大井川金谷の宿に、酒と喧嘩では人におくれを取ったことがないという川越人足、張子の寅八がひょんなことから赤ン坊を背負い込んだ。
話というのは街道筋に悪狐が出没するというので武勇自慢の寅八が勢い込んで出馬したが、間もなく、すやすやと寝ている赤ン坊を抱えて来たのである。
寅八にとって赤ン坊は思いがけない厄介者だが、といって捨てるに捨てられず育てる破目になった。
それからの寅八は善太と名づけた子供のために、酒も喧嘩もやめてしまった。
善太はやがて七つになり、彼は自然と備わる品と威厳で近所の餓鬼大将になった。
ところが大名行列の先を突っ切ったため本陣に連れて行かれてしまった。
これを聞いた寅八は一時は気も顛倒したが、一大決心をすると大名の宿泊する本陣に駆け込み子供の身代わりになることを懇願した。
それが「武士にも劣らぬ覚悟」というので、善太も寅八も許されて帰って来た。
その夜祝いの酒の席で、寅八は「善坊はさる大名の落胤だ」と座興に言った。
ところが、その翌日それが本当の話になって、なにくれと善太のことに気をつかって巡業の旅ごとに玩具や金を持ってくる関取賀太野山からその真相が語られた。
寅八は美しい着物を着た善太の周囲にいる腰元や威儀を正した武士達を淋しげに眺めた。
彼は七年の間、父となり子となり今は善太と切り離した生活などを考えることすら出来ないのだ・・・。


寸評
1945年8月15日に日本は無条件降伏をして終戦を迎える。
9月2日に大日本帝国政府が公式にポツダム宣言受諾による降伏文書に調印したことをもって正式な終戦を迎えたことになり、日本映画はGHQの検閲を受けることになった。
GHQにより時代劇は禁止されたとのことであるが、1945年11月8日に初公開されたという「狐の呉れた赤ん坊」はいわゆるチャンバラシーンはないし、仇討物でもないが紛れもなく時代劇である。
そして終戦を迎えて日本が焼け野原という時代背景の中で、すでにこのような作品が作られていたことに驚く。
確かにセットや衣装は金のかからない題材を選んでいるとは思うが、エキストラを使った本格的な作品となっていることに日本映画の底力を見た思いがする。

「狐の呉れた赤ん坊」は人情喜劇で、その為にオーバーな演技も見られるが十分に鑑賞に堪えうる出来栄えだ。
戦前からの大スター阪東妻三郎の独り舞台のような作品だが、作品自体はきっちりと撮られている。
捨て子だった善太の具合が悪くなり寅八が名医を連れてくるシーンなどは上手い。
全篇に渡って走る、暴れる、転げ回る阪東妻三郎だが、ここでもそれが見事に描かれている。
寅八は医者を求めて走りに走りまくり、必死で連れてくる。
息絶え絶えの医者に水を与えるドタバタが描かれるが、そこからの描写が素晴らしい。
善太の脈をとる医者と心配そうに見守る寅八たち。
頷きながらこつんと張子の虎の頭を揺らす医者に、ゆらゆらとした張子の虎のアップ。
そして少し表情をゆるめる医者と、その表情を見てなんともいえない笑みを浮かべる寅八。
そこまでが一切のセリフなしで描かれ善太の無事が示される。
阪東妻三郎が暴れまくる賑やかな映画だが、その中にこのような静かなシーンを入れ込んだ演出がいい。

寅八が「善坊はさる大名の落胤だ」と酔った勢いで言ってしまったことがラストの顛末への入り口となっているが、 阿部九州男の賀太野山を登場させて捨て子の経緯を語らせるのは、前述の粋な演出に比べると唐突感がある。
藩の重臣は世継が無くなったことでご落胤を探し回っていて、ご落胤のうわさを聞いてやってきたと言うのだが、重臣ならば賀太野山の語ったことは承知していたはずだ。
賀太野山は関取で著名人の部類に入る人物だから、重臣たちは賀太野山と連絡を取ればご落胤の居場所などはすぐに分かりそうなものである。
とは言うものの、まあこれは余計なあら捜しに過ぎない。
寅八は不始末を仕出かした善太の身代わりとなって手討ちされることを申し出ている。
その心意気があっぱれと許されているのだが、善太を手放したくない寅八に質屋の親父が「もう一度死ね!」と一喝するシーンは胸に突き刺さるこの映画で一番の名セリフだった。
寅八は別れることになった善太を肩車して大井川を渡っていく。
笑顔で見上げる阪東妻三郎の笑顔が何とも素晴らしいショットとなっている。
ラストシーンで橘公子のおときが父親から寅八との結婚を許されるが、おときが別れを悲しむシーンがないので、おときは寅八との結婚を望んでいた為に善太を可愛がっていたのかもしれないなと思わせる仕草に見えた。


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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
勝新は・・・ (指田文夫)
2023-08-17 21:55:45
勝新太郎は、阪妻を尊敬していたので、彼の映画『無法松の一生』『王将』を自分で里目アイクしていて、『狐のくれた赤ん坊』もリメイクしています。
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名優 (館長)
2023-08-18 06:31:32
勝新もいい役者だったですが、やはり阪妻ですね。
返信する
阪東太郎 (じゅんちゃん)
2024-12-13 13:08:30
本作品に阪東太郎という俳優さんが出演と記載されていますが、映画の冒頭のクレジットにはお名前が出てきません
チラシにはお名前がはいっているのでしょうか?

実は、阪東太郎は曾祖父でして、動いている曾祖父を見てみたいと思い、探しております

お忙しい中、恐縮ですが、教えていただけますと幸いです

宜しくお願いいたします
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資料によれば (館長)
2024-12-14 09:00:43
資料によれば、阪東太郎さんは笹井正庵という役で出られているようなのですが・・・。
でも、なんかすごいですね。
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Unknown (Unknown)
2024-12-14 10:22:57
>館長 さんへ
>資料によれば... への返信

返信ありがとうございます

資料にはそのように記載されているのですが、映画のクレジットには、笹井正庵役は他の方の名前になっているのです😅

何があったのやら…💦
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へえ~ (館長)
2024-12-15 08:08:04
どうしたんでしょう?
機会があれば再見して確認してみます。
でも、やっぱ、なんか羨ましい話です。
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