今年最後の投稿です。
「は」の途中で終わることになりました。
「薄桜記」 1959年 日本
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監督 森一生
出演 市川雷蔵 勝新太郎 三田登喜子
大和七海路 北原義郎 島田竜三
千葉敏郎 舟木洋一 伊沢一郎
須賀不二男 清水元
ストーリー
中山安兵衛が高田の馬場へ伯父の決闘の助勢に駆けつける途中、すれちがった旗本丹下典膳が安兵衛の襷の結び目が解けかけているのに気づいた。
注意すべく駆けつけたが、安兵衛の決闘の相手が同門知心流であることを知ると、典膳はその場を離れた。
通りがかった堀部弥兵衛親娘の助けを得た安兵衛は仇を倒した。
一方、同門を見棄てた典膳は安兵衛への決闘を迫られたが、拒絶した典膳を師匠の知心斎は破門した。
源太左衛門の紹介で上杉家江戸家老千坂兵部の名代長尾竜之進が安兵衛に仕官の口を持って来た。
安兵衛はその妹千春に心をひかれた。
谷中へ墓参の途中、野犬に襲われた千春は典膳に救われたが、生類殺害の罪で役人にとがめられそうになった二人を救ったのは安兵衛だった。
千春が典膳と恋仲であり祝言も近いことを知った安兵衛は上杉家への仕官を断り、堀部弥兵衛の娘お幸の婿になって播州浅野家に仕える運命になった。
典膳が公用で旅立った後の一夜、典膳に恨みをもつ知心流の門弟五人が丹下邸に乱入し、思うさま千春を凌辱して引揚げた。
間もなく千春が安兵衛と密通しているという噂が伝えられ、旅先より戻った典膳は浪人となって五人組に復讐する決意をし、長尾家を訪れて千春を離別する旨を伝えた。
怒った竜之進は抜討に典膳の片腕を斬り落したが、しかしこれは典膳の意図するところだった。
同じ日、安兵衛の主人浅野内匠頭は吉良上野介を松の廊下で刃傷に及んだが、その日を限りに典膳は消息を絶った。
安兵衛は、或る日、吉良の茶の相手をつとめる女を尾行して、それが千春であることを知って驚く・・・。
寸評
赤穂浪士異聞と言える内容で、映画全体は吉良家討入直前の堀部安兵衛の回想で縁取られている。
高田の馬場の駆けつけ、運命の剣士丹下典膳との出会い、高田の馬場の決闘とスピーディな滑り出しから、この二人の運命が、二転、三転、四転と、絡み合いつつ、この主人公たちを皮肉な立場へ追い込んで行く構成の面白さは魅力的で、ストーリー的に観客を飽きさせない。
当時の大映にあって、時代劇の若き世代を狙っていた市川雷蔵と勝新太郎が、剣豪丹下典膳、赤穂義士随一の剣客堀部安兵衛となって顔を合わせ火花を散らす競演をしているのも、今となっては貴重と思わせる作品だ。
時代劇ではあるがむしろチャンバラ映画と呼んだ方がいいような作品だが、その格調は高い。
主人公の典膳は片腕を失っており、しかも直前で敵役の一人から鉄砲で足を撃ち抜かれており、立ち上がることもできない満身創痍の状態である。
白い雪が降りしきる境内で、戸板に乗せられた典膳は立上ることもできぬまま、刀を抜き放って多勢の敵と斬り結ぶのだが、これが凄惨ながらも美しくもあり、これがチャンバラ映画の醍醐味シーンなのだと見せつけてくれる。
瀕死の典膳に安兵衛の助太刀が入り、敵どもをすべて討ち果たすが、その時典膳は雪の中に横たわり息たえていて、その死体に虫の息の妻千春が這いながらにじり寄って行き手を固く結び合う。
月並み映画のヒーロー、ヒロインではない結末に胸打たれる。
心打たれるのはそのシーンが本当の愛の情熱の姿を浮彫りさせているからだ。
この一連のシーンの存在で「薄桜記」は市川雷蔵の代表作の一つに数えられているのだと思う。
千春は典膳を心から慕っており、典膳もまた心の底から千春を愛している。
同じように思いを寄せる安兵衛の気持ちを千春は知らない。
いわば男二人に女一人の三角関係だが、それを巡る争いはなく、ひとり安兵衛だけが悶々としている。
典膳と安兵衛には友情めいたものが湧いているから、男同士の友情との相剋によって、三人の関係がもう少し微妙に描かれていれば、愛情物語としてのパートにもっと面白味が出ていただろう。
丹下典膳という架空の人物に中山安兵衛改め堀部安兵衛を絡ませているので、赤穂浪士の仇討物語が背景で描かれることになり、その事も興味をそそる設定として上手くストーリー立てされていた。
高田の馬場の決闘で浅野家の堀部弥兵衛の婿養子になるのは良く描かれているが、吉良家の千坂兵部への仕官話とその娘千春への恋を絡ませているのがミソとなっている。
もちろん大石蔵之助たち浪士が、吉良上野介が茶会を開く日を知ることに苦心する話も挿入されていて、それを千草によって安兵衛に告げられる設定も、話の流れからは納得できる結末として処理されていた。
伊藤大輔の脚本はよくできている。
冒頭のタイトルバックの映像にかぶさるように、最後に赤穂浪士の討ち入り場面が描かれるが、カメラを引いた遠景でとらえたそのシーンは「終」の一文字を出すにふさわしく、映画を見たという満足感を与えてくれた。
SKDから大映銀幕にデビューする真城千都世(まき・ちとせ)が新人とタイトルされるのも懐かしい表示の仕方だ。
「は」の途中で終わることになりました。
「薄桜記」 1959年 日本
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監督 森一生
出演 市川雷蔵 勝新太郎 三田登喜子
大和七海路 北原義郎 島田竜三
千葉敏郎 舟木洋一 伊沢一郎
須賀不二男 清水元
ストーリー
中山安兵衛が高田の馬場へ伯父の決闘の助勢に駆けつける途中、すれちがった旗本丹下典膳が安兵衛の襷の結び目が解けかけているのに気づいた。
注意すべく駆けつけたが、安兵衛の決闘の相手が同門知心流であることを知ると、典膳はその場を離れた。
通りがかった堀部弥兵衛親娘の助けを得た安兵衛は仇を倒した。
一方、同門を見棄てた典膳は安兵衛への決闘を迫られたが、拒絶した典膳を師匠の知心斎は破門した。
源太左衛門の紹介で上杉家江戸家老千坂兵部の名代長尾竜之進が安兵衛に仕官の口を持って来た。
安兵衛はその妹千春に心をひかれた。
谷中へ墓参の途中、野犬に襲われた千春は典膳に救われたが、生類殺害の罪で役人にとがめられそうになった二人を救ったのは安兵衛だった。
千春が典膳と恋仲であり祝言も近いことを知った安兵衛は上杉家への仕官を断り、堀部弥兵衛の娘お幸の婿になって播州浅野家に仕える運命になった。
典膳が公用で旅立った後の一夜、典膳に恨みをもつ知心流の門弟五人が丹下邸に乱入し、思うさま千春を凌辱して引揚げた。
間もなく千春が安兵衛と密通しているという噂が伝えられ、旅先より戻った典膳は浪人となって五人組に復讐する決意をし、長尾家を訪れて千春を離別する旨を伝えた。
怒った竜之進は抜討に典膳の片腕を斬り落したが、しかしこれは典膳の意図するところだった。
同じ日、安兵衛の主人浅野内匠頭は吉良上野介を松の廊下で刃傷に及んだが、その日を限りに典膳は消息を絶った。
安兵衛は、或る日、吉良の茶の相手をつとめる女を尾行して、それが千春であることを知って驚く・・・。
寸評
赤穂浪士異聞と言える内容で、映画全体は吉良家討入直前の堀部安兵衛の回想で縁取られている。
高田の馬場の駆けつけ、運命の剣士丹下典膳との出会い、高田の馬場の決闘とスピーディな滑り出しから、この二人の運命が、二転、三転、四転と、絡み合いつつ、この主人公たちを皮肉な立場へ追い込んで行く構成の面白さは魅力的で、ストーリー的に観客を飽きさせない。
当時の大映にあって、時代劇の若き世代を狙っていた市川雷蔵と勝新太郎が、剣豪丹下典膳、赤穂義士随一の剣客堀部安兵衛となって顔を合わせ火花を散らす競演をしているのも、今となっては貴重と思わせる作品だ。
時代劇ではあるがむしろチャンバラ映画と呼んだ方がいいような作品だが、その格調は高い。
主人公の典膳は片腕を失っており、しかも直前で敵役の一人から鉄砲で足を撃ち抜かれており、立ち上がることもできない満身創痍の状態である。
白い雪が降りしきる境内で、戸板に乗せられた典膳は立上ることもできぬまま、刀を抜き放って多勢の敵と斬り結ぶのだが、これが凄惨ながらも美しくもあり、これがチャンバラ映画の醍醐味シーンなのだと見せつけてくれる。
瀕死の典膳に安兵衛の助太刀が入り、敵どもをすべて討ち果たすが、その時典膳は雪の中に横たわり息たえていて、その死体に虫の息の妻千春が這いながらにじり寄って行き手を固く結び合う。
月並み映画のヒーロー、ヒロインではない結末に胸打たれる。
心打たれるのはそのシーンが本当の愛の情熱の姿を浮彫りさせているからだ。
この一連のシーンの存在で「薄桜記」は市川雷蔵の代表作の一つに数えられているのだと思う。
千春は典膳を心から慕っており、典膳もまた心の底から千春を愛している。
同じように思いを寄せる安兵衛の気持ちを千春は知らない。
いわば男二人に女一人の三角関係だが、それを巡る争いはなく、ひとり安兵衛だけが悶々としている。
典膳と安兵衛には友情めいたものが湧いているから、男同士の友情との相剋によって、三人の関係がもう少し微妙に描かれていれば、愛情物語としてのパートにもっと面白味が出ていただろう。
丹下典膳という架空の人物に中山安兵衛改め堀部安兵衛を絡ませているので、赤穂浪士の仇討物語が背景で描かれることになり、その事も興味をそそる設定として上手くストーリー立てされていた。
高田の馬場の決闘で浅野家の堀部弥兵衛の婿養子になるのは良く描かれているが、吉良家の千坂兵部への仕官話とその娘千春への恋を絡ませているのがミソとなっている。
もちろん大石蔵之助たち浪士が、吉良上野介が茶会を開く日を知ることに苦心する話も挿入されていて、それを千草によって安兵衛に告げられる設定も、話の流れからは納得できる結末として処理されていた。
伊藤大輔の脚本はよくできている。
冒頭のタイトルバックの映像にかぶさるように、最後に赤穂浪士の討ち入り場面が描かれるが、カメラを引いた遠景でとらえたそのシーンは「終」の一文字を出すにふさわしく、映画を見たという満足感を与えてくれた。
SKDから大映銀幕にデビューする真城千都世(まき・ちとせ)が新人とタイトルされるのも懐かしい表示の仕方だ。