なんて大学の卒業論文みたいなタイトルから始まってしまいましたが、記事の内容はそれほど濃いものではございませんので悪しからず。日本全国弦楽器フェチの皆さん、夏バテとかしてませんか。倉庫と化した店舗の中で相も変わらず作業に没頭しているサンバタウン店主です。
8月アタマに、サンパウロ郊外のMATER工房から待望の弦楽器10台が入荷してまいりました。3月にオーダーして、予定の5月納期(後から考えてみるとそれ自体ちょっと無理がありました)を大幅に超過し、ほとんど痺れを切らしておりましたが、まあそのほとんどが申し分ない仕上がりで届きましたので、店主としましてはここんとこ毎日がハッピーで、何かストレスのたまるようなことがあればすぐさまMATER文字の入ったハードケースに手を伸ばし、カヴァキーニョと言わずバンドリンと言わずおもむろに手にとってガス抜きをするという、ハタから見てると「なんだかなぁ・・・」的な日常を過ごしている次第であります。
さて、このMATER、そもそも仕上げの美しさと音のクリアさには一定の評価を得ておりましたが、身内の弦楽器プレイヤー達からは「リオの楽器みたいに音にガッツがない」とか「エンブレムがお土産品みたい」とか散々な言われようで、店主も内心ちょっと傷ついたりしてたんですが、それでもおかげさまで昨年の入荷分は到着後2ヶ月もたたぬうちに完売と、実績だけは確かなものを誇っておりました。もう一年近く経ちますが、旅立っていった楽器たちは当時よりも良い音で鳴ってくれているかなあとつい思いを馳せたりします。
そしてこのたび第2回のロット入荷となったわけですが、今回のテーマは、
「表板を標準仕様のドイツ松からカナダ杉に変更したら音がどう変化するか」
という一点にありました。これまでは表板はドイツ松を採用していたのですが、そもそも松という素材、MATERの親方・マルセロ氏いわく、本来の底力を発揮してくれるまでに数年を要するそうなのです。つまり出来上がったばかりの時点ではおとなしく、しばらくしてからドカンと鳴ってくるのだとか。
で、一方の杉はというと、氏いわく「音の立ち上がりが早く、作った時点でよく鳴ってくれて、小型楽器の使用材にうってつけ」という特質を持っているそうです。後は店主自身の経験として「弾き手自身にも音が良く伝わる」「鳴りに広がりがある」という印象がありました。
野球にたとえると、松が晩成型の長距離パワーヒッターなのに対し、杉はルーキーイヤーから大活躍の広角打法を持ち味としたアベレージヒッターとも言えるでしょう。まあ、要はお好み次第というわけですね。
そこで今回は「ヴィオラだけは松にしとけ」という親方のアドバイスを守り、カヴァキーニョ、バンドリン、ヴィオラゥン、ヴィオラ・カイピーラ等をどどんと注文してみたわけであります。
果たしてその結果は、というと、明らかに言えるのは「カヴァキーニョにおいては抜群の効果が得ることができた」ということであります。特に側底板にインブイア(ブラジリアンウォルナット)を用いた時の杉との相性は驚くほどピッタリでした。これはひとつの成功事例と呼んでも差し支えないかもしれません。従いまして、ハカランダやメイプル、あるいはインディアンローズといった高級材を使用したハイグレードなカヴァキーニョ(まず国内価格で10万円を切ることはありません)においそれと手を出しづらいのが実情ですから、そのワンランク下のボディ材であるインブイアを使用した楽器、すなわち10万円を切る価格帯のカヴァキーニョにおきましては、おそらく最強のコンビネーションであろうと思われます。MATERに限らず、ARIASSしかり、CARLINHOSしかり、インブイア×杉、コストパフォーマンスといい新品のくせして年季モノに見えてしまう色合いといい、これ、杉×杉の組み合わせと並んで絶対オススメです。
バンドリンについても、松の表板に比べ、音の広がり&音量においては格段の向上が見られました。なんせよう鳴ってくれます(注:あくまで完成間もない時期での所感です)。しかしながら複弦楽器においては、その特性上ただでさえ広がりを持つ鳴り方をするものですから、あえて一方向への強い放出指向性のある松の方が将来的には相性が良いのかもしれません。とはいえ実際に松材の音の成長度合いを検証したわけではないので、ここではあくまで推測としての記述にとどめておきたいと思います。
本来でしたら同じボディ材を2台、うち1台の表板は松、もう1台の方は杉といった風に、直接比較できるようなオーダーにすれば一目瞭然なのですが、さすがにそこまで大量発注できるほどサンバタウンは潤沢な資金をプールしているわけではないので、次回のオーダーまでに、今度はどういった仕様で製作依頼してみようか、などと考えるだけで幸せな気分になってしまう、弦楽器フェチ道まっしぐらの店主であります。それはともかくこのMATER、注文ごとに着実に腕を上げられております。まだまだ日本では無名に等しい工房ですが、作り手と売り手、共に切磋琢磨してどんどん良い楽器を世に紹介していけるものと確信しておりますので、今後もますますご期待下さい。
というわけで、これらのMATER楽器、本日サンバタウン通販にもアップ致しましたので、ご興味のある方は是非チェックしてみて下さい。よろしくどうぞ。
ちなみに今回の入荷分の中に、「トップ:杉×ボディ:メイプル」という、カラーコーディネイト無視(ほとんど紅白のツートンでっせ)のカヴァキーニョ&バンドリン(いずれもMATERの最強グレード『Profissional』)が1台ずつあるのですが、それらは店主の愛器として活躍してもらうことに致します。ふふふ。うふ。うふふ(←欲望の塊)。