ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

グレート・ミュージアム ハプスブルグ家からの招待状

2016-11-26 23:04:00 | さ行

美術館の“裏”をとことん。

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「グレート・ミュージアム ハプスブルグ家からの招待状」68点★★★☆


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ブリューゲルの「バベルの塔」などを持つ
ウィーン美術史美術館。

創立120周年の節目に
大改装が行われたこの美術館に
2年以上密着して撮影されたドキュメンタリーです。

最近は
「ウフィッツィ美術館 4K3D」とか
3Dで魅せる系の美術館ドキュメンタリーが多かったけど
本作はちょっと違う。

監督の興味はあくまでも
働く人々、運営事情などを含めた美術館の「裏側」にあるんですね。

とにかく会議や、展示する作品選び、
修復家の仕事など、美術館で働く人々のスケッチで綴られる。
「いかに集客するか?」「国から予算をもらうか?」といった
せめぎ合いとかね。
(これまた会議、会議の映画でもある。笑)


誰もが見たいであろう
「バベルの塔」はなかなか出てこないし(苦笑)

監督の意識は
「美術品をカッコよく撮る!」とかいうところに
全然、向いてないわけです。

なので
そういうものを期待すると肩すかしかもしれないけれど、
この異色さを楽しむ姿勢でいけば、イケるんだと思います。


名画の裏を探って、虫喰いの犯人を見つける作業シーンや
倉庫に、彫刻が枕を並べて(ホントに!)保管されている様子とか
ほかにない視点で美術品を見るおもしろさがありました。


★11/26(土)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。

「グレート・ミュージアム ハプスブルグ家からの招待状」公式サイト
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母の残像

2016-11-24 23:01:57 | は行

ラース・フォン・トリアーの
甥っ子が監督。


「母の残像」71点★★★★


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高名な戦場写真家だった母(イザベル・ユペール)の
突然の死から3年。

回顧展が開催されることになり
夫と2人の息子たちが一同に集まった。

“しがない”高校教師である夫(ガブリエル・バーン)は
自分が彼女を理解できていなかったのではと思い

若くして大学教授となった長男(ジェシー・アイゼンバーグ)は
知られざる母の顔を知り

3年前から自分の殻に引きこもっている
高校生の次男(デヴィン・ドルイド)は父親と対立してしまう。

三人はそれぞれに
亡き母の“残像”と向き合うことになり――?!


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これはまた
おもしろいタイプの映画が現れた。


戦場写真家の母(イザベル・ユペール)が亡くなって3年後。

その死が「自殺だったのでは?!」というところからストーリーが始まるので
最初はミステリーかと思ったんですが
これが全然、普通の展開と違う。


夫と二人の息子、それぞれの悩める人生が描かれ
そのなかに
それぞれの心に残っている母の姿が映し出される――というイメージ。

まさに“残像”の再生のような。


最初は断片的すぎるかなあと思ったけれど
これが意外に深く、余韻が長く残る。

実際、現実のなかで
ふとしたときに人を思い出す瞬間って、こんなものだよな、とか。
そんな心のリアルが丁寧に写し取られているから
余韻が深いんだと思います。

ヴェンダース監督が
「誰のせいでもない」で提唱した
“映画のあり方”に
ちょっと近い気もしました。


★11/26(土)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。

「母の残像」公式サイト

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ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち

2016-11-23 23:57:43 | な行

素晴らしい実話。いい映画だと思う。

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「ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち」71点★★★★


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1938年。
チェコスロバキアにナチスの手が迫るなか
ごく普通のイギリス人の若者が
チェコ在住のユダヤ人の子どもたちを国外に脱出させ命を救った・・・という
実話ドキュメンタリーです。


教科書に載っていてもおかしくないような話なのに
まったく知らなかった。
本当に世の中には「知られざる歴史の逸話」がまだまだあるんだなあ
びっくりしますが

まあそれもそのはず。
この話は最近まで、誰にも知られていなかったのです。

ニコラス・ウィントンは、669人の子を救ったあと
そのことを妻にも話さずにいた。
でも1988年に彼の妻が、50年間眠っていた彼のノートを見つけ
この歴史的な偉業が世に出ることになったんですね。


映画は105歳でも元気なニコラスへのインタビューも含め
彼に助けられた子どもたちの消息を追い、
インタビューをしている。

観客としては
成長した彼らが一様に立派な職業についているのにびっくりいたします(笑)

学者や企業家、教師――
その理由は彼らの通ったイギリスの“チェコ学校”にあるらしい。

このあたり、ぜひ教育関係者は参考にしていただきたいですね。


と、まあおもしろい題材なのですが
この映画をとりわけオススメしたい理由は
単なる「偉人伝」にしていないところ。

彼に助けられた子どもたちはその事実を知り
「恩返しやお礼をしたい」と
それぞれが善き活動を始めている。
さらに、それが孫世代にも繋がっている――というんです。

だから、感動が深いんですねえ。

ニコラスさんは2015年に106歳で亡くなったのですが
映像でも本当にお元気そうだし。
ラストの歌には、あまりにも善オーラが溢れすぎかと思ったけど(苦笑)
ぜひ授業などでも取り上げていただきたい作品だと思いました。

それにしても。
子どもを生き延びさせるためとはいえ
やはり「子どもと別れて、子どもだけを外国に逃がす」ことは
親にとっては辛い決断なのだな、とつくづく感じた。
こうした例がほかにあまりない理由はそこにあるんでしょうね。


★11/26(土)からYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。

「ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち」公式サイト
コメント (4)
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メン・イン・キャット

2016-11-22 23:50:13 | ま行

ハリウッド猫モノにしては
猫、可愛い(笑)


「メン・イン・キャット」70点★★★★


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家族を犠牲にしても仕事一筋を貫いてきた
ワガママ社長(ケヴィン・スペイシー)。

だがこの日は
妻(ジェニファー・ガーナー)にしつこく言われ、
娘の誕生日に、欲しがっている猫を飼ってやることにする。

どこか怪しげな店主(クリストファー・ウォーケン)の店で
一匹の猫を飼った彼は
その帰り道、思いがけない事態に遭遇する。

その後、目覚めた彼は
自分の心が、猫に入ってしまっていることに気づき――?!


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なんじゃこのパクりタイトル!と思ったら
「メン・イン・ブラック」監督作だったという(笑)

猫好きゆえの加点もあるけれど(笑)
なかなか楽しい映画でした。


いけすかないゴーマン社長(ケヴィン・スペイシー)の心が
猫の身体に入ってしまう・・・という話で
見た目は猫で中身はオッサン、という状況になるのがおかしい。

それに
どうもハリウッドの描く猫って
いじわるキャラになることが多いんだけど
この映画の猫描写は、意外と「わかってる」かも(笑)


それだけ猫好きが増えてるのかな、とも思ったけど
冒頭にある、猫のYouTube画像を集めたシーンでなんとなくわかった。
「猫への視点は、世界の共通認識となったのだ!」って(笑)

いまや日本の“ネコノミクス”効果は
2兆円以上らしいですからね。


で。本編は87分でサクッとしてて
会社の存続問題なども絡むんだけど
それほどのアップダウンなく
ゴーマン社長も猫になったからとはいって
心を正しく入れ替えた・・・とかもなく(笑)

話としては大きなきらめきはないけれど
とにかく途切れることなく猫が登場し、
猫に絡む「あるある」や「クスクス」が満載なのがたまらん。

怪しげな猫斡旋(?)ショップの店主クリストファー・ウォーケンが
またいい味出していてグー。

猫好きはかなり
イケると思います。


★11/25(金)からTOHOシネマズシャンテほか全国で公開。

「メン・イン・キャット」公式サイト
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ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅

2016-11-21 23:59:05 | は行

ハリポタの世界、再び。


「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」68点★★★★


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1926年のニューヨークに
イギリスからやってきた
青年ニュート・スキャマンダー(エディ・レッドメイン)。

彼は優秀な魔法使いで
世界中で魔法動物に関する調査を行っている。

彼が持ち歩いている革のトランクには
何か秘密があるようだ。

が、そんなとき
トランクの隙間から
一匹の魔法動物がNYの街に逃げ出してしまい――?!


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「ハリー・ポッター」の新シリーズ。
ハリポタに10年間も楽しませてもらいましたから
嬉しいニュースですねえ。

ハリーの大先輩にあたる
魔法使い(エディ・レッドメイン)と
魔法動物が巻き起こす騒動と冒険を描くもので
魔法の映像はやっぱり見ていて楽しい。

ファンタスティック見本市!という感じ。

光りモノに目がない
カモノハシのようなくちばしを持つニフラーなど
魔法動物もおもしろいし

エディ・レッドメインの
コミュニケーション下手で動物ラブな様子も
母性本能をくすぐるし(笑)
いいキャストを得たなあと思います。

ただね・・・
話らしい話があまりないというか
一見では誰が何に属していて、敵なのか味方なのか
話が収束していくまで、いまいちよくわからなかった。

ニュートがあまりにも
魔法動物を逃がしてばかりいるのも
歯ぎしりものだったし(笑)

それに申し訳ないけど
エディ・レッドメイン以外の主要キャストが
ちょっと地味すぎるのではないだろうか。
唯一、人間で仲間になる
ジェイコブ(ダン・フォグラー)のボケキャラが光ってたけど。

でも
ハリポタに精通している人には
わかるネタもたくさんあるようで
未熟なのはこっちみたいですね。

11/23(水・祝)から全国で公開。

「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」公式サイト
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