ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

よこがお

2019-07-31 23:53:59 | や行

筒井真理子氏の横顔、市川実日子氏の目の奥に

ギリギリの「淵」をたしかに見ました。

 

こわ。

 

 

「よこがお」75点★★★★

 

 

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訪問看護師の市子(筒井真理子)は、

献身的で面倒見のよい女性。

 

周囲からの信頼も厚く

訪問先の娘でひきこもりがちな基子(市川実日子)の勉強も見てやるほどで

基子は市子をとても慕っていた。

 

市子には恋人(吹越満)がおり、

彼女は彼と彼の幼い連れ子と

つつましくも平和な家庭を築こうとしていた。

 

――が、そんな矢先、

ある事件が起こる。

 

そして市子は

すべてを失うほどに追い詰められていき――?!

 

************************************

 

 

深田晃司監督の新作。

 

期待どおり、見応えありました!

 

善き訪問看護師の人生が

ある出来事で一変するお話で

 

 

日常と地続きに起こる事件の

じわじわとくるイヤ〜な感じ。

不穏や緊迫感が

静かにノンストップに首をしめてくるような

 

「淵に立つ」(16年)に繋がる、深田ワールドの真骨頂!だと思います。

 

 

ヒロイン市子を演じる筒井真理子氏が

とにかく出ずっぱりで、迫真。

人の良さそうなその横顔が、一瞬で雑で下卑た感じになる

冒頭シーンの、豹変の見事さといったら!

 

あそこからタイトルをとったのだろうか?

と思うほど、印象が強かった。

まあ、すべては監督の計算のうち、と思いますが

 

筒井氏は

日本映画ではなかなか行かない場所に行かん、としている監督の要求に

きっとそれ以上をもって応えたのだろうなと思います。

 

 

明るい陽射しのなか、穏やかに、しかしズブズブと

人の内面をこれでもかとえぐっていくさまといい

なんだかフランス映画みたいなんですよね。

イザベル・ユペールがヒロインでもおかしくない感じ。

 

また、基子役・市川実日子氏の存在が

きっついんですわ(笑)。

 

基子は市子を慕っていながら、だんだんと攻撃性を見せていく。

 

一瞬、「市子が結婚して、一人だけ幸せになることが単にいやなのか?」とも思うんですが

その底に彼女への恋愛感情があるとわかる。

 

 

愛情が執着になり、愛憎になっていくさまが

実に自然でリアルで

 

このへんの描写には

かなりゾッとした。

 

さまざまなラストが予感でき、

しかし、そのどれにも当てはまらないエンディングを

もぐもぐと反芻するのでした。

 

AERAdot.に監督インタビューが掲載されています。

映画と併せてぜひ、もぐもぐと。

 

★7/26(金)から角川シネマ有楽町、テアトル新宿ほか全国で公開。

 

「よこがお」公式サイト

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存在のない子供たち

2019-07-19 23:50:56 | さ行

これは必見!

 

「存在のない子供たち」81点★★★★

 

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「両親を訴えたい。僕を産んだ罪で」――

12歳のゼイン(ゼイン・アル=ハッジ)は

法廷で、まっすぐにそう話した。

 

中東レバノンの貧民窟で生まれたゼインは

両親が出生届けを出さなかったため

「いないこと」にされている。

学校にも行かず、路上で働かされる彼の唯一の支えは

仲良しの妹サハラ(シドラ・イザーム)の存在だった。

 

が、ある日

両親はまだ11歳のサハラを、

無理矢理アパートの大家と結婚させてしまう。

 

無力感と絶望にさいなまれたゼインは

家を飛び出し、一人で生きていこうとするが――?!

 

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うわ、これはもう・・・・・・

胸がつぶれそうですよ。

 

レバノン・ベイルートの貧民窟で生きる少年の、

ある闘いを描いた作品。

 

出演者全員が、似た境遇にある素人だそうで

そのリアリティはハンパなく

ほとんどドキュメンタリーのよう。

 

そのなかで

主人公の少年ゼインの存在感、

ゴミ溜め世界でも強く気高く生き抜く

その瞳に撃ち抜かれました。

 

 

12歳のゼインは

学校にも行けず、日々路上で働かされている。

 

それだけでも憤怒ものなのに

さらに幼い妹が無理矢理、スケベおやじと結婚させられる。

怒った彼は家を飛び出し、

アフリカ系の難民女性と出会い、彼女の幼い子の子守をして

なんとか生き延びようとするんですが

――そううまくはいかない、という。

 

 

弱者が弱者に手を伸ばし、助け合い、

つかの間の平穏が訪れたかにみえても

それが長続きしない悲しさと、この世の不条理。

それに耐えかねて、ゼインは

「両親を訴える」という行動に出るんです。

 

「親を訴える」というのは一種奇抜なアイデアですが

監督は3年かけて現地の状況をリサーチした末に、この設定を考えたそうで

あながち嘘じゃない、と感じさせるんですよねえ。

 

 

それにこの映画は

悲惨ばっかりでもない。

 

大人相手にもひるまず、ときに機転を聞かせて生きのびるゼインのタフさ、

子どもらしい愛らしさを

ときにユーモアを持って描いてもいて

悲惨にとどまらない「光」を、我々に届けてくれるんです。

 

 

なにより、主人公であるゼインの表情、その存在が

“奇跡”としかいいようがない。

 

そのまっすぐな瞳が、映画をとおして世界の人々の目に映ることで

この子、世界のなにかを変えるかもしれない!と

マジで思わせるほどです。

 

実際、ゼイン役のゼインは

役同様に出生証明書も戸籍ももたないシリア難民の少年。

ゼインが出会い、助けられるアフリカ系の女性ラヒルも

実際に難民で撮影中に不法移民として逮捕されてしまったそう。

(監督が保証人になって保釈されたけどね!)

 

そりゃあ、リアルだよなあ!

 

おなじみ「AERA」連載、いま観るシネマで

ナディーン・ラバキー監督にインタビューさせていただきました。

 

ゼイン少年のこと、そして気になったあのシーンの秘密まで

たくさんお話を伺ってます。

まもなくAERAdot.にもアップされるかと思いますが

 

ぜひ映画と併せてご一読くださいませ~!

 

 

★7/20(土)からシネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

 

「存在のない子供たち」公式サイト

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マーウェン

2019-07-18 23:52:53 | ま行

これは良品!

 

「マーウェン」73点★★★★

 

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第二次世界大戦中、勇敢なパイロット(スティーヴ・カレル)は

不時着したベルギーの田舎で

ドイツ兵に囲まれ、大ピンチに陥る。

が、そこになぜか美女軍団が登場して

ドイツ兵を一掃し、パイロットを助けた!

 

――と、これはすべて

アーティスト、マーク・ホーガンキャンプ(スティーヴ・カレル)による

写真作品の一部。

 

マークはG.I.ジョーやバービー人形をセッティングし、ストーリーに沿って動かし

映画のワンシーンのような写真を撮るアーティストだ。

 

高い技で、多くの人を魅了するマーク。

だが、彼にはそれをしなければならない理由があった――。

 

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「バック・トゥ・ザ・フューチャー」などで知られる

名匠ロバート・ゼメキス監督が

「これは描かねば!」と挑んだという作品。

予想以上に、すてきな良品でした。

 

なーんにも知らずに観ても

十分におもしろいと思う。

でも、この人物が実在し、内容も相当に現実と知ると

また感銘が深いと思います。

 

主人公マーク・ホーガンキャンプは

2000年、バーで居合わせた男たちに「ハイヒールを履くのが好きなんだ」と話し、

その帰り道に男たちに囲まれ、瀕死の重傷を負わされてしまう。

つまり「キモイやつ!」というだけが理由の

ヘイトクライム(憎悪犯罪)の犠牲になったわけです。

 

 

瀕死の重傷を負ったマークは、脳を損傷し

事件のフラッシュバックに悩まされながらも

フィギュアを使ってリアルな写真を撮ることを始める。

そしてその写真が評判となり、個展が開催されたり

2010年にはドキュメンタリー映画も作られた。

 

そんな彼の物語に着手したのが

ロバート・ゼメキス監督なんですね。

 

PTSDに苦しみ、

さらに裁判で加害者と向き合わなければいけないことにも苦しむ

マークの実際の闘いをベースにしながら

監督は最先端の映像を駆使して

マジで実写と見まごうフィギュアを使ったCG画像と

実際の俳優の映像を合成し、

この物語を描いている。

 

この映像はおそらく

マークの写真世界の発展系であり

彼がやりたかったこと、表現したかった「思い」を

忠実に現していると思われ、

なによりこの映画、本人にとって最高の贈り物だろうな、と思いました。

 

ともすれば被害者側が「自分に落ち度があったのでは」となってしまう

ヘイトクライムの難しさや闇を告発してもいて、

 

監督がこの物語で

さまざまにつらい状況にある人々を

勇気づけようとしている意図が伝わるんです。

 

それに、単純にミニチュア好きにはたまらない!(笑)

ドールハウス的な美術や小道具、さらに

俳優本人に限りなくそっくりな人形の見事な動きも必見です。

 

「バック・トゥ・ザ〜」の名シーンを模した遊びなどもあって

ニヤリさせられました。

 

マークを演じるスティーブ・カレルも、

「ビューティフル・ボーイ」(18年)といい

老けて、よりいい感じになってきた!

 

★7/19(金)から全国で公開。

「マーウェン」公式サイト

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さらば愛しきアウトロー

2019-07-13 12:54:32 | さ行

ロバート・レッドフォード、82歳。

・・・・・・渋いねえ!

 

「さらば愛しきアウトロー」72点★★★★

 

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1981年、テキサス州。

スーツを着こなした品のいい紳士が

銀行から出てきて、優雅な身のこなしで車で走り去った。

 

男の名はフォレスト・タッカー(ロバート・レッドフォード)。

たったいま銀行強盗を働いたところだった。

 

窓口担当の女性にやさしく微笑み、「金を入れてくれ」とバッグを差し出す。

フォレストは誰も傷つけることなく

銀行強盗を繰り返してきた“達人”だった。

 

ある日、たまたまフォレストが強盗を働いた銀行に

非番の刑事ジョン・ハント(ケイシー・アフレック)が居合わせる。

 

なにも気付かずに強盗が行われていたことに驚いたジョンは

フォレストの犯罪を追い始めるが――?

 

**************************************

 

ロバート・レッドフォードが

俳優をこれで終いにする、とした作品。

 

監督はめちゃくちゃ余韻残した

「A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー」(17年)

デヴィッド・ロウリーです。1980年生まれ。

 

レッドフォードが

誰も傷つけずに犯罪を繰り返した“紳士的”な強盗を

品を持って演じていて

ゆったりとゆるゆると、派手さはないけど

目が離せない。

 

ドンパチなし、老境ならではの色気と、余裕に満ちた作品で

実に見事な人生の一区切り、締めくくりだと思いました。

 

 

そして

さすがレッドフォードだなあと感じたのが

次の世代との関わりと、バトンの渡し方。

ここでは

自分を追う40歳の刑事、ケイシー・アフレックというキャラを立て

ミドルエイジで下り坂、日々ダウナーな40歳が

74歳の銀行強盗の、なんだか生き生きと人生を楽しんでいる一端に触れて

意外な共鳴と、活力をもらう、という展開になっている。

 

強盗と刑事、立場を異にする二人が

魂レベルで通じ合う感じが、いいんですねえ。

 

81年からサンダンス・インスティテュートを設立し

サンダンス映画祭をはじめ

多くの若手を発掘することにも尽力してきた

レッドフォードらしさを感じました。

デヴィッド・ロウリー監督もサンダンス映画祭で評価されたんだもんね。

 

 

そして

実話が基で、さらに老人の犯罪といえば

御年89歳となったクリント・イーストウッドの

「運び屋」(19年)

似て非なる老境の捉え方なのか、

本人の持つ雰囲気が、その映画が醸す雰囲気に映っているのかなあとも思う。

比較してみるのも、おもしろいかと。

 

★7/12(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「さらば愛しきアウトロー」公式サイト

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シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢

2019-07-11 23:25:19 | さ行

これは、かなり高度なフレンチコメディ!

 

「シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢」73点★★★★

 

******************************

 

中年男ベルトラン(マチュー・アマルリック)は

2年前からうつ病を患い、

妻と子供たちと暮らしつつ

引きこもりのニートのような生活を送っている。

 

ある日、彼は公営プールで

「男子シンクロナイズド・スイミング」のメンバー募集の貼り紙を見かける。

 

なぜか惹かれたベルトランはチームに入ることを決めるが

メンバーは

妻と母親に捨てられたキレやすいロラン(ギョーム・カネ)や

事業に失敗し倒産寸前のマルキュス(ブノワ・ポールヴールド)などなど

みな事情を抱え

ミドルエイジ・クライシスまっただ中の

冴えないおっさんばかりだった!

 

元シンクロコーチの指導のもと

トレーニングにはげむおっさんたちだったが――?!

 

******************************

 

 

「セラヴィ!」(17年)などで知られる

あの渋面でコメディもこなす俳優、ジル・ルルーシュの監督作品。

 

いやあ、クライマックス最高!(笑)って

身も蓋もないかしら。

 

でも、冒頭、観客に向かって語り始める

マチュー・アマルリックの声を聞いて

「え、小難しそうな、そっち系ですか?」と

一瞬構えてしまったんですが

 

いやいや、ここまで笑えて爽快な展開になるとは!

ぜひ、このクライマックスに向けて

楽しんでほしいです。

 

主人公となるのは、しおしおな中年おじさんたち。

うつ病のアマルリックをはじめ

倒産の危機の実業家、妻や子との関係に悩む夫・・・・・・

中年たちそれぞれの事情を、

しかし、意外にも平坦に描き

「そんなの、みんなあるあるだよ」的に共有していける感じがいいんですね。

 

そんな彼らが心情を吐露できるのが

シンクロ練習後のロッカールームだったりして

もう、ほとんどセラピー場所だなこれ(笑)。

 

その場でうつ病を告白したアマルリックをそっとハグしてくれる仲間。

うん、仲間っていいなあ!なんて。

 

で、肝心のシンクロのほうは、

スパルタ先生に変わってからの特訓が、とにかく笑える。

 

そしてクライマックス、

アマルリックが、目を見開いて飛び込んでいく、あのシーンは

ホントに爆笑ですから!

 

★7/12(金)から新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で公開。

「シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢」公式サイト

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