ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道

2021-04-30 02:38:14 | か行

写真界のレジェンドは

いまも現役バリバリ!なのです。

 

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「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道」78点★★★★

 

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おもしろかった!

 

82歳のいまも現役バリバリの

世界的な写真家・森山大道さんを追うドキュメンタリー。

 

それこそ神保町古書街で、彼の写真集に

「海外でも、ものすごい高値がついている」と聞き及んでおりましたし

あの犬の写真をはじめ、荒々しく強面なイメージを持っていたのですが

映画を見て、正直驚いた。

 

だって、めっちゃ、優しい方なんだもん!

 

映画は

1968年に絶版した写真集を復活させるプロジェクトを軸に、

氏の歴史と、その日常を追いかけていく。

 

荒れた粒子、ブレた被写体、ボケたピント。

1960年代からの活躍、

紹介されるモノクロ世界の強度に、今さらながらビクッとさせられ、

若者たちで大盛況の

サイン会やトークショーの熱気にも驚きます。

 

なにより日々、街に出て

コンパクトカメラを片手に、ひょうひょうとシャッターを切る81歳の

旺盛な「写真欲」に驚嘆なんです。

 

そうやって撮られた写真が、作品になる過程を見ながら

「こういうふうに、世界を切り取っていたのか!」がわかって

とてもおもしろい。

暗室シーンも貴重だしねえ!

 

でも、そんな森山さんも

人生すべてが順調だったわけじゃない。

 

1970年代後半、スランプに陥り

写真が撮れなくなったつらい時代も語られ

さらに2015年に亡くなった

盟友にて写真家・中平卓馬氏への言葉や想いが、強く伝わってくる。

 

どん底の時期から、どう這い上がったのか――

その過程に、勇気を分けてもらえた気もするし

 

さまざまな風雪を乗り越え

いまも

喫煙スペースでタバコを吸いながら、

声をかけてくるファンに、気さくにサインをする

世界的な写真家の優しさに

どうしようもなくホロリとしてしまうのでした。

 

コロナ禍で公開が1年延びた本作、

この1年を森山さんがどう見たのか、どんな写真を撮ったのか――も

すごく気になるところであります。

そして、再びコロナ禍で上映がストップしてしまいましたが

こんなことにくじけない!というパッションが、この映画にはあると感じます。

無事上映のときを願いつつ!

※上映状況は各劇場のホームページをご確認ください。

 

★4/30(金)から新宿武蔵野館、渋谷ホワイトシネクイントほか全国順次公開。

※上映状況は各劇場のホームページをご確認ください。

「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道」公式サイト

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ブックセラーズ

2021-04-29 01:11:23 | は行

ゲイ・タリーズが、フラン・レボウィッツが

「本」への愛を語る!

 

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「ブックセラーズ」69点★★★★

 

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世界最大のNYブックフェアに潜入し、

本を愛し、売り、その文化を守っている人々(=ブックセラ-)数人にスポットをあて

掘り下げていくドキュメンタリーです。

 

本屋通りとして知られたNYの通りに

1950年代に368店あった古書店が

いまどうなったか――など

厳しい現状が語られるなかで

それでも「紙の本」を愛する人たちがいるんだよ、という事実と

ブックセラーたちが

この状況をどのように生き延びているか、が写されていきます。

 

ワシももともと紙の本好き、加えて

「神田神保町古書街(毎日ムック)」(毎日新聞社)の取材で

かなり神保町に通ったこともあり

本&古書に思い入れがあるので

とても興味深く観ました。

 

デジタル化が叫ばれて久しい現在も

しかしNYブックフェアは大盛況。

 

例えば、ビル・ゲイツが史上最高額で競り落とした

ダ・ヴィンチの「レスター手稿」とか

「不思議の国のアリス」のオリジナル手稿とか

実に興味そそられます。

 

さらに

装丁に人間の皮(!)を使った本や、美しい宝石をはめ込んだものなどなど

その価値が希少性とともに

アート&グッズ方面に転換しているなあ、という状況も感じる。

 

NYで本屋の上階フロアをアート販売にしている古書店など

「まさに神保町にある古書店そのもの!」って驚きましたよ。

(神保町って世界でも類を見ない”本の街”だと聞いたけど、ホントなんだ!

 

そのほか

アメリカ在住のジャーナリストが

自身の執筆用に集めた資料が

そのままアーカイブとして大学図書館に収められた――なんて話には

うらやましいなと思ったり。

 

さまざまな人にインタビューしていて

あのゲイ・タリーズがちょろっと出てきたりするし

辛辣なエッセイストとして知られるフラン・レボウィッツ女史の

切れ味鋭いコメントが、おもしろい。

 

ただね、見ながら

本を愛する人々の情熱は

イコール、

もし本がなくなったら――という未来を予感しているのかも、という気もした。

 

この世界にたった一つ残った「紙の本」を奪い合うSF映画もあったよね。

「ザ・ウォーカー」(2010年)

だっけ。

 

近未来SFの世界がすぐそこにきている。

メディアのはしくれで生きてきた作り手としては

これからの世界にどう向き合うべきなのか――とか

いろいろ考えさせられた。

そして、いまも、考えてます。

 

★4/23(金)からヒューマントラストシネマ有楽町、シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開。

※公開情報は各劇場のホームページなどでご確認くださいませ。

「ブックセラーズ」公式サイト

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SNS-少女たちの10日間ー

2021-04-28 23:54:48 | あ行

衝撃的だけど、議論も呼びそう。

 

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「SNS-少女たちの10日間ー」69点★★★☆

 

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チェコ発のドキュメンタリー。

 

事の発端は2017年、

ヴィート・クルサーク監督が

通信会社から「チェコのインターネット上で起こっている問題を動画で伝えてほしい」という

依頼を受けたことだそう。

 

クルサーク氏は同僚のバーラ・ハルポヴァー監督に協力を求め

「12歳の少女」を偽ったSNSアカウントを作り

何が起こるかを撮影した。

そこで起こった衝撃の事態を

「もっと広く伝えるべきだ」――と考え、

二人の監督はこの映画をスタートさせたのです。

 

で、本作は

両監督が主演女優をオーディションするところから始まります。

 

監督たちが求めているのは「12歳にみえる大人の女優」。

何が起きるかを想定し、その衝撃を多少受け止められる

“成人女性”を選んでいるんですね。

 

で、3人の女性がオーディションで選ばれる。

監督たちは、彼女らのキュートでパステルな「ニセの子ども部屋」をスタジオに作り、

「12歳の少女」として3人のアカウントを作り

その後に

何が起こるかを、記録していくんです。

 

で、何が起こるかというと

あっという間に成人男性たちが「12歳の少女」にアクセスしてきて

ビデオセックスを要求したり

ポルノ画像を送りつけてきたり――と

はなはだ、直視に耐えがたいことが起こる。

 

 

現場には精神科医や弁護士も待機し、サポート体制も万全で

テーマも訴えも、とても重要。

 

でも、正直に言って、見ててかなり胸が悪くなるし

もし自分が10代の子を持つ親だったら――と思うと

直視できる確信がないほど、

恐ろしいです。

 

それに、これはあくまでも

しくまれた「罠」なんですよね。

 

無垢な少女に群がるオオカミを仕留める――という大義名分はあれど

「12歳の少女」を演じた女優たちに

相手と会話させ、さらにフェイクの写真を公開したりするのって

どこまでセーフなんだろうか――

倫理面からも、若干のモヤモヤはある。

 

本国でも賛否あったそうですが

それでも同時に、SNSの危険性をあぶり出すという

監督たちの意図も重要だと感じる。

 

実際、この映画で刑事手続きにつながった案件もあるそうで

大きな意味はあると思います。

 

それに冒頭のオーディション場面で

面談する女性たち誰もが、この映画に参加しようと思った理由を

「自分も被害にあったから」「友人が被害にあった」と話すんですよね。

それを踏まえて、この現実を直視しなければいけない、と

強く思いもした。

 

見た人がそれぞれに考え、意見を発してほしい映画であります。

 

★4/23(金)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。

※公開情報は各劇場のホームページなどをご参照ください。

「SNS-少女たちの10日間ー」公式サイト

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ハイゼ家 百年

2021-04-24 23:22:28 | は行

ものすごいものを、観た。

 

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「ハイゼ家百年」79点★★★★

 

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1955年、東ドイツ生まれのトーマス・ハイゼ監督が

自身の家族の日記や手紙から

ドイツ100年の歴史を振り返る、というドキュメンタリー。

 

上映時間218分(!)マジかーとちょっとビビったのですが

これが、まるで飽きないんですよ。

そのことが、まずは驚愕だった。

やっぱ古今東西、ファミリーヒストリーっておもしろいんですねえ。

 

加えて、この映画がタダモノじゃないのは

関係者インタビューや過去のニュース映像などが一切出てこないところ。

 

現代ドイツの街や列車などを映した

叙情的なモノクロームの映像や

(雨の市電からの映像とか、ソール・ライターみたい!

家族の写真などに

 

監督自身による祖父母や両親の日記や手紙の朗読が、重なるだけ。

 

なのに、218分飽きないって

スゴクないですか?(笑)

 

映画は5章仕立てで

最初は監督の祖父母、次に監督の両親、そして監督自身の世代の話になっている。

 

ドイツの100年といえば、その波瀾万丈は予想はできるし、

実際、監督の祖父はあの時代にユダヤ人である祖母と恋に落ち、結婚したんですよ。

そんな彼らがナチス時代をどう生き延びたのか?

そうしたことが、手紙や日記などから明らかにされていくんです。

 

が、しかし

この映画がクールなのは

ダイレクトな歴史解説などを回避し

家族の手紙や日記に絞ったこと。

 

誰もが知っているような大事件をことさらに書かず

加えて家族相関図などの説明も一切排除しているので、

恋文のやりとりなどを聞きながら

「え? 結局、誰と誰がくっついたの?」とか

家庭の事情も実にミステリアスで、ハラハラするんです(笑)。

何も知らずに鑑賞すると、よりおもしろいかもしれない。

で、観たあとに

いろいろ反芻し、謎解きすることをオススメします!

 

 

ということで以後はネタバレとかではないですが

映画を観た方に

ちょっとだけ答え合わせを。

 

まず「第1章」で画面に写される名簿は、お察しどおり

強制収容所に連行されていった

ウィーン在住のユダヤ人たちの名前と住所のリストなんですね。

 

監督の祖母とウィーンに残った彼女の家族との手紙のやりとりには

本当に胸が詰まりますが

ふと思えば、その手紙はほとんどが、ウィーンからのもの。

つまり祖母がドイツからウィーンの家族に出した手紙は

もうなにも残ってない、ということなんだな――とかね。

 

そして「第2章」。

終戦後、東西ドイツの間で揺れ動く男女のドラマが

その手紙と日記から立ち上ってきて、ドキドキなのですが

え? この二人って監督の○○じゃないのか!という展開になる。

この衝撃は、ワシには凄かったす(笑)

 

そして

1955年生まれの監督が誕生する第3章、第4章では

東ドイツの進む方向に違和感を持ち

「わきまえなかった」監督の両親が、国に目をつけられて仕事を解任されたり

あの「シュタージ」に監視されていた状況がわかってくる。

 

 

監督の両親が親しかった

著名な劇作家ハイナー・ミュラーが

1992年に書いた「現状を憂う」文章が

いまの世の中とまるっきりリンクしていて、恐ろしいほどです。

 

 

全編を通して

駅や列車の映像が多く登場する理由は

 

試写会後に行われた歴史解説ウェビナーで

柳原伸洋さん(東京女子大学・歴史文化専攻)やほかの方も考察していたけれど

列車が人や時、場所をつなぐメタファーであること

そして

かつて多くのユダヤ人が、列車で収容所に運ばれ

その先が「ガス室」につながっていたことにも

強く結びついているに違いない。

 

いまこのときも、この世界を乗せて、

列車はどこに行き着くのか――。

 

多くを考えさせる、秀逸なドキュメンタリーでした。

 

★4/24(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「ハイゼ家 百年」公式サイト

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約束の宇宙(そら)

2021-04-15 23:58:34 | や行

ワーママの想いはいずこも同じ・・・・・・かな。

 

「約束の宇宙(そら)」73点★★★★

 

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宇宙飛行士予備軍である

フランス人のサラ(エヴァ・グリーン)は

長年の夢だった宇宙行きを目指すシングルマザー。

 

物理学者の夫(ラース・アイディンガー)と別れたあと

7歳の娘ステラ(ゼリー・ブーラン・レメル)を育てながら

娘と二人三脚で、人生を歩んできた。

 

そんななか、サラはついに

宇宙行きのミッションのクルーに選ばれる。

 

喜ぶサラだが、宇宙に行けば

1年間は、娘と離れ離れになってしまう。

 

過酷な訓練に耐えながらも

サラの心には葛藤が生まれていく。

「仕事をとるか、家族をとるか。自分の夢を追うか、娘との暮らしを選ぶか」

――どんな母の心にもあるであろう葛藤がサラを引き裂く。

 

そして、サラの決意は――?

母娘の行く末は果たして――?!

 

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トルコの少女たちの現実を描いた

秀作「裸足の季節」(16年)の脚本家である

アリス・ウィンクールが監督した作品です。

 

娘を育てながら宇宙を目指す

ママ宇宙飛行士を描いていて、

何も知らずとも「リアルに基づいているのだろうな」との感ありあり。

 

で、実際、エンドロールを見ながら

「こんなにママ飛行士って多いんだ!」と知って驚きました。

あの山崎直子さんも母親だったんだ!と。

 

 

これまでも

宇宙空間で起こるスリルだけでなく

そこへ行くまでのドキドキやハラハラを描いた映画を

多く観てきたけれど

女性宇宙飛行士をこういう視点で描いた映画はなかったのでは?と思う。

 

描かれているのは、つまり

女性が、母親が仕事をするということは?――なんですよね。

その仕事が宇宙飛行士だった、というだけ。

 

たしかに特殊な職業ではあるけれど

男社会のなかでがんばる女性や

子への罪悪感や不安を背負いながら働く母親たちの想いは

どこでも一緒なのだ――と感じとりました。

 

 

ヒロインである優秀な宇宙飛行士を

しなやかな身体で、跳躍感たっぷりに演じる

エヴァ・グリーンがとてもよいのですが

 

宇宙行きのクルーに選ばれた彼女に対し

暗に威圧的な「男っぷり」を示して

じわじわとマウンティングしてくる

同僚役のマット・ディロンが失笑するほどリアルで(苦笑)

めちゃくちゃ印象に残る。

 

そのマチズモゆえに後半の展開が際立つんです。

いいとこ持ってくなあ、マット・ディロン!(笑)

 

そのほか、訓練施設でも

彼女ではなく、補欠の自国ロシア飛行士を行かせたいのであろう

訓練教官の陰なるプレッシャーの描写や

 

毎日15キロのランニング、

テレビを逆さに見る訓練など

厳しいトレーニングの様子も興味深かった。

 

すごくよい映画であることはたしかで

映画の意図も意味も、よくよく理解できて

満足!ではあるのですが

 

ただね

エンドロールでは“ママ”括りでなく

あらゆる壁を少しずつ削り、砕いてきた

女性宇宙飛行士全員を紹介してほしかったな――とも

ちょっと思いました。

 

★4/16(金)からTOHOシネマズシャンテほか全国で公開。

「約束の宇宙(そら)」公式サイト

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