ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

フロントランナー

2019-01-31 22:35:36 | は行

 

ヒュー・ジャックマンの

清廉潔白な雰囲気が、利いてるなあ。

 

「フロントランナー」71点★★★★

 

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1988年、

アメリカの大統領選において

コロラド州選出の上院議員ゲイリー・ハート(ヒュー・ジャックマン)が

最有力候補(=フロントランナー)となった。

 

若く、ハンサムで、未来を見通す力に満ちた彼は

人々を惹きつける、カリスマ政治家だ。

 

だが、そんな彼が思わぬ失速をすることになる。

いったい、なにが起こったのか――?!

 

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1988年、

次期大統領戦の最有力候補となった

若きカリスマ政治家ゲイリー・ハート。

 

その彼が

なぜ選挙戦から脱落したか?を描く。

 

ルックスよく、まじめに政治を考える好人物な彼は

まあ、女性問題でつまづく訳ですが

これが無粋な「不倫スキャンダル劇」ってところに落ちないのが

この映画のおもしろさ。

 

環境問題に目を向けていたり、

セクシュアリティに関して

リベラルを匂わせるシーンがあったり

すごーく進歩的で、政策や國の未来は見通せていたクレバーな彼が

「政治とプライベートは関係ないだろ」って

そこの部分だけは、時勢や国民の空気を読めなかったという皮肉。

 

そして若き記者VSハートが、「何を伝えるべきか」において

まっこう対決する構図が魅せる。

 

これはその後、

「マスコミは政治家の何を伝えるべきか」という

大きな転換点になった出来事だったんですね。

 

「パパラッチが政治家を追いかけるなんざナンセンス。それはハリウッドの仕事だろ」なんて

笑っていってた時代がうそのように

政治家は政策よりも、人柄や「行い」が重要視されるようになった。

 

それがめぐりめぐって

いまの「トランプショー」という

現実に跳ね返るのも興味深いし

 

なにより

演じるヒュー・ジャックマンのギトギトしてない精悍さが

この役に真実味を与えてる。

これがちょい悪系とかねっとり系だったら、説得力なかったわー(笑)

 

★2/1(金)から公開。

「フロントランナー」公式サイト

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ナディアの誓い

2019-01-30 23:40:43 | な行

 

「バハールの涙」と2本立てで観てほしい!

 

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「ナディアの誓い」72点★★★★

 

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ISに性奴隷にされた体験を世界に証言し、

2018年ノーベル平和賞を受賞したナディア・ムラド氏を追ったドキュメンタリー。

 

原題は「ON HER SHOULDERS」。

彼女の肩にかかるもの――ってことで

ホントにその通りだと思った。

 

 

映画としては

「わたしはマララ」のように、わかりやすい構成ではないんです。

 

それは2014年まで、イラク北部の小さな村で

平和に暮らしていた普通の少女が

世界に向かって立つ人間にならざるを得なくなった、その道のり、そのままかもしれない。

だから

映画も訥々とし、特にすごく説明的でもない。

彼女の経験への配慮もあるでしょう。

なので「何が起こったのか」をより知るために

「バハールの涙」はとても有効だと思うのだ。

 

それでも映画には、素顔の彼女が写るシーンも多く

笑顔で買い物をしていたりするのを観るだけで

なんだかホッとうれしくなってしまう。

 

 

各国をまわり、つらい経験を語る彼女は言うんです。

「みんな『どうやってレイプされたのか』を聞くけれど

いまも、同じ立場にある女性たちがいる。

その人たちがどうしているのか、どうすればいいのか、を話題にしてほしい」

 

 

「自分は強くない、活動家ではない」と繰り返しながら、

しかし、何かを変えるために、また歩き出す。

彼女の意志の強さ、使命感に打たれます。

同時に

それでも動かぬ世界に胸がきしむ思いがする。

自分が「何もできない」ことの恥ずかしさ、つらさも感じる。

 

この勇気に報いるために、なにができるだろうか。

 

★2/1(金)からアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開。

「ナディアの誓い」公式サイト

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バーニング 劇場版

2019-01-29 23:46:22 | は行

結末は原作ともテレビ版とも違ってます。

劇場へGO!

 

「バーニング 劇場版」76点★★★★

 

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現代の韓国。

バイトしつつ小説家を目指す青年イ・ジョンス(ユ・アイン)は

街中で幼なじみヘミ(チョン・ジョンソ)に出会い、付き合うことになる。

 

アフリカ旅行に行ったヘミの留守中、

ジョンスは彼女のアパートに行き、姿の見えない猫のために餌をやる。

 

が、帰国したヘミはアフリカで出会った

お金持ちの青年ベン(スティーブン・ユァン)を連れていた。

 

ベンはジョンスに「古いビニールハウスを焼くのが趣味」と語る変わった男だが

とても気前よく、気のいい青年だ。

 

そんななか、ヘミが突然、姿を消し――?!

 

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村上春樹氏の短編「納屋を焼く」を

「ポエトリー アグネスの詩」(いい映画!)のイ・チャンドン監督が映像化。

原作の咀嚼が非常におもしろく

短いバージョンのテレビ版が、先んじてNHKで放送されましたが

映画はまた、味わいが違います。

 

カンヌで「万引き家族」と競ったそうですが

確かに。

夕日のように美しく、虚無に包まれる、非凡なミステリだなあと思いました。

 

いない猫、パスタ、ジャズ――と、村上テイストを散りばめつつ

しかし、どこか常に、不安と怖さを漂わせる。

 

圧倒的に感じるのは若者ふたりの「格差」。

農村出身のジョンスと、富裕層ベンの埋まらない差は

無力感と、虚無感となって、映画を覆っている。

 

そのうちに、ヘミがいなくなり

どうもベンが「あやしい」んですが

はっきりとした犯罪の証拠もない。

 

ジョンスが見つけたベンの「戦利品」は、

単に泊まりにきた女の子たちの忘れ物かもしれないし

ベンは気のいいお金持ちなだけかもしれない。

 

で、主人公の虚しさ――で終わるかと思いきや、

映画では伏線を回収し、ここからが、はっきりとしていきます。

 

この終わりも好きだなあ。

 

これはテレビ版にもあったけど

沈む夕日のなかで、ダンスをするヒロイン、ヘミのシーンが最高に美しい。

だんだんと日が暮れ、夕闇に包まれて暗くなる。

美しい夕日は、どんな人にも平等に、その身をさらす――

そんな思いが残像のように残りました。

 

おなじみ「AERA」(2/4発売号)「いま観るシネマ」で

イ・チャンドン監督にインタビューさせていただきました!

さすが教職歴が長い監督、まるで先生のように、穏やかに、やさしく、話をしてくださって感激す。

ぜひ映画と併せてご一読ください~

 

★2/1(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「バーニング 劇場版」公式サイト

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ヴィクトリア女王 最期の秘密

2019-01-27 13:32:27 | あ行

このところ、

イギリス王室話が、再び熱いようです。

 


「ヴィクトリア女王 最期の秘密」58点★★★

 

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1887年。

インドが英国領となって29年目。

インドの若者アブドゥル(アリ・ファザル)は

ヴィクトリア女王(ジュディ・デンチ)の即位50周年式典で、

女王に金貨を献上する大役に抜擢され

海を渡ってイギリスへと向かう。

 

式典後、女王は「のっぽがハンサムだった」とアブドゥルを気に入り

従僕として側に置くことにした。

 

インドに興味を持っていた女王はアブドゥルか言葉や文化を教わり、

二人は仲良くなっていく。

しかし、その親密ぶりは周囲の人々の困惑と怒りを買い――?!

 

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名優ジュディ・デンチ×「きっと、うまくいく」のアリ・ファザルが出演。

1887年、晩年の女王が側に置いたインド人従僕。

二人の心の触れ合いを描いた作品です。

 

この話は原作者の長年の調査と

2010年に従僕アブドゥル側の日記が発見されたことで公になったそう。

映画の冒頭は「実話・・・・・・だと思う」的なことわりから始まり(笑)

もちろん史実のようですが

原作はもっとジャーナリスティックな視点で描かれているらしい。


だからなのかな、

感情面の描写に、微妙な遠慮があるのか

なんとなく、映画としては入り込みどころ、つかみどころがなかった。


女王がお召し替えをする過程とか

衣装や美術は
すごーく丹念に描かれているんだけど

キモである二人の心の交流が、味わいにくかった。


そもそもインドからきた彼が、なぜここまで女王に心酔していたのか、

その心理がよくわからない。



一緒にインドから来た従僕が

インドに帰りたくてたまらなくて

「もう、女王へのごますりはやめろよ」とアブドゥルを皮肉るけど

そう、なんでアブドゥルはそんなに女王に、イギリスに憧れたのかなあと。

単に、好奇心と向上心のある若者だった、

ということなら、そうなのかもしれないんですけどね。


で、女王のほうは

やっぱりきっかけは彼がハンサムだったからなんだろうか。


ということで、二人の強い絆の理由にモヤってしまい

入り込みにくかったでございました。

 

イギリス王室もの

「女王陛下のお気に入り」(2/15公開)

「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」(3/15公開)

 

と続きますんで。もっとドロドロですんで(笑)。


★1/25(金)からBunkamura ル・シネマほか全国で公開。

「ヴィクトリア女王 最期の秘密」公式サイト

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サスペリア

2019-01-26 12:31:23 | さ行

 

「君の名前で僕を呼んで」監督が伝説作をアレンジ。

うひょー(笑)

 

「サスペリア」71点★★★★

 

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1977年、東西分断時代のベルリン。

スージー(ダコタ・ジョンソン)は

世界的な舞踊カンパニーのオーディションを受けるため

アメリカからやってきた。

 

スージーの才能はカンパニーのカリスマ振り付け師

マダム・ブラン(ティルダ・スウィントン)の目にとまり

すぐに大役に抜擢される。

 

が、カンパニーでは最近、ダンサーが失踪する事件が相次いでいた。

そしてスージーのまわりでも、次々と不審な出来事が起こり――?!

 

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「君の名前で僕を呼んで」のルカ・グァダーニ監督が

1977年にイタリアの監督が作ったホラー「サスペリア」を再構築。

 

「君の~」ファンはギョッとするかもしれませんが

同じイタリア人として、この世界をこう描きたかったのか、とよくわかったし

「ミラノ、愛に生きる」「胸騒ぎのシチリア」で相性良しの

ティルダ・スウィントン使いといい

ああ、系譜にあるな、と納得できました。

 

確かに血みどろもあるけれど

独特の美的世界が発揮され、見応えがある。

 

現代舞踊の芸術性、

フレームワーク、カメラの動きが生み出す不穏。

 

 

冒頭、気の触れた少女の語りかと思うと

のちのち

そこに出てくる名前が、ダンスカンパニーの人々の名前と一致し

バックに聞こえる不気味なささやきや息づかいも

ダンサーたちのものだとわかってゆく。

完璧な謎解きはいけれど、なんとなく察すれば、で

フラストレーションにならない謎の提示があり。

 

魔女や、妖しの雰囲気を醸しつつ、

1977年のバーダー・マインホフ事件など社会的史実が並行するなど

単なる脅かしホラーとは違う

「芸術的探求」の意欲がみえました。

 

58歳(!)のティルダ・スウィントン、本当に“美”魔女すぎるしね(笑)

 

★1/25(金)から全国で公開。

「サスペリア」公式サイト

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