周平の『コトノハノハコ』

作詞家・周平の作詞作品や歌詞提供作品の告知、オリジナル曲、小説、制作日誌などを公開しております☆

『夢馬鹿』~第3話~(シューピー散文クッキング第1弾)

2021年07月30日 | シューピー散文クッキング
反応が一切無いので好評か不評かも分かっていない新企画『シューピー散文クッキング』。
今後の展開も結末も分かっていません。
なぜならこの新企画は、周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけないのです。

さて、今回の材料は…

「ポスト」…小さじ1杯(そうそう、こういう楽なやつ!)
「泡立つ」…大さじ3杯
「他殺」…大さじ7杯(おいおい、そっちいくのか!?)
「後攻」…小さじ5杯(野球やらせるしかない?)
「歪む」…小さじ2杯

早くも企画終了フラグ? もしかしたら主人公が誰かによって殺されるかもしれない第3話スタート!!

『夢馬鹿』~第3話~

その後、数日間は家内が口を利いてくれない日々が続いたが、それにも耐えきれなくなり、ある日の夜に子供たちが寝静まった後でまた自分の熱意を家内へ伝えようとした。
もちろん結果は散々だった。
こちらがどんな球を投げても力強く打ち返され、9打者連続でホームランを浴びてしまったピッチャーの気持ちだ。
そのくせ、野球のように"後攻"であるはずの私の攻撃の順番が回ってくる事は決してなかった。

翌朝、仕事へ向かう途中で先日記入した国勢調査の調査票の入った封筒を"ポスト"へ投函した。
果たして5年後の次回の調査も、今回と同じく家族4人の名前などを記入できるのだろうか。

駅へ向かう途中の横断歩道の信号が赤だったので立ち止まる。
信号が赤だった事を普段なら嫌がってしまうが、今日は違った。
なんか立ち止まりたい気持ちだった。何なら逆走してしまいたいくらいだった。

自分の昔からの夢を叶えたいという感情と、その夢を諦められたらどんなに楽だろうという感情がぶつかり合う。
そこにさらに家内の事、子供たちの事、他にも色んな感情が混ざり合い、頭の上で何かが"泡立つ"ような感覚を覚える。

自分で自分の夢を殺す事なんて到底できない。
いっその事、誰かの手で"他殺"されてしまえば良いなどと考えが"歪む"。

普通の32歳であればそんな事は考えないか、考えるとしてもとっくの昔にであろう。

何年か前にタイムスリップする事が出来たら夢を追いかけ、叶える事ができるだろうか。
いや、ダメだ。
そしたら家内や子供たちの存在も無くなるという事だ。

そんなあり得もしないくだらない事を考えていたら信号が青に変わってしまった。
どうやら時も私も前に進むしかないようだ。

《第4話へ続く》

『夢馬鹿』~第2話~(シューピー散文クッキング第1弾)

2021年07月16日 | シューピー散文クッキング
前回スタートした新企画『シューピー散文クッキング』、その第1弾のタイトルは『夢馬鹿』に決定しましたが、それが正しいのか間違ってるのかは誰にも分かりません。今後の展開も結末も分かりません。
なぜならこの新企画は、周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけないのです。

さて、今回の材料は…

「起伏」…小さじ2杯
「国勢」…大さじ3杯(どう使えとw)
「便覧」…大さじ4杯
「塔」…小さじ3杯
「こじ開ける」…小さじ2杯

前回よりはマシだけど、どうしよう…。全く方向が読めないけど、第2話スタート!!

『夢馬鹿』~第2話~

つい先ほどまで俯きながら泣いていた家内が、今度はまた怒りタイムに戻ったらしく、立ち上がって私の横に来た。
椅子に座ったままの私からは高くそびえる"塔"ようにさえ感じた。

家内のこの"起伏"を抑える方法は1つしかない事は私も分かってはいる。
私が先ほどまで熱く語っていたラーメン屋を開く夢をあきらめるしかないのだ。

家内の口からは「離婚」という言葉まで飛び出してしまった。
何の偶然か嫌がらせか、たまたま今日、5年に1度の"国勢"調査の調査票が自宅に届いたところだった。
このままでは家族構成などどう記入したら良いか分からなくなる。

翌朝、いつもと何ら変わらない一日が始まった。
唯一普段と違うのは家内が口を利いてくれない事だ。

この何とも言えない居心地の悪い真っ暗な世界からの脱出口を"こじ開ける"方法が載っている"便覧"を誰か持っていないだろうか。

沈黙に包まれた朝の食卓に耐えられなくなった私は、何を血迷ったのか6歳の息子に将来の夢を訊いてしまった。
今、この状況において「夢」という単語は禁句である。

「仮面ライダーになりたい!」と息子は無邪気に答えた。
それでも家内の顔はほころばない。

食パンってこんなにも固かっただろうか。
牛乳ってこんなにも味が無かっただろうか。

《第3話へ続く》

『夢馬鹿』~第1話~(シューピー散文クッキング第1弾)

2021年07月02日 | シューピー散文クッキング
ついにスタートする新企画『シューピー散文クッキング』、その第1弾のタイトルは今回(第1話)の内容からなんとなく『夢馬鹿』に決定。
でも今後の展開も結末も決まっていません。
なぜならこの新企画は、周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけません。
そのお題の難易度は調味料の量で表したいと思います。

さて、今回の材料は…

「投げ出す」…小さじ2杯(1つ目のお題がコレってw)
「切り込む」…小さじ5杯
「表意文字」…大さじ5杯(人生で初めて聞いた言葉!)
「毒する」…大さじ1杯
「家内」…小さじ3杯

1回目からコレはキツいわ~。でも自分で決めたんだからやるしかない! というわけで、とりあえず第1話スタート!!

『夢馬鹿』~第1話~

今、私と対面している自宅のリビングの壁には「"家内"安全」と書かれた、お守りのシールが貼られている。
何の時だったか忘れてしまったが、4歳になる娘が"家内"からもらって喜びながら貼ったものだ。
その言葉の意味も分からずに。

私にはこの4歳の娘と、6歳の息子がいる。

そして今、

「"家内"安全」のシールと私のちょうど中間には、私と同い年の"家内"が涙を流しながら座っている。
先ほどから怒ったり泣いたりを繰り返していて、とても「"家内"安全」と言える状況ではない事は確かだ。

原因は100%私にある。
32歳のサラリーマンの私が2時間前に突然、「脱サラをして、昔から夢だったラーメン屋を開きたい」と言い出したからだ。

妻の涙の一粒一粒が"表意文字"のように色んな意味を持ち、私の胸に"切り込ん"でくる。
無理も無いだろう。
6歳と4歳のまだ幼い子供が2人もいるというのに、そこそこの稼ぎを得ているサラリーマンという仕事を"投げ出し"、生き残りの厳しいラーメンの世界に飛び込んでいこうとしているのだから。

でも昔からやりたいと思った事は全てやらないと気が済まない、私の中の毒のようなものを解"毒する"アイテムはまだ見つかってはいない。
「私と子供たちはそれになれないの?」と言わんばかりの妻の表情に、私はただ黙る事しかできなかった。

子供たちはもう眠ってしまっている。
私と妻の2人だけの23時のリビング。
「"家内"安全」のシールの真上に掛けられている時計は、まるで電池が切れているかのように先ほどから全く動いていないような気さえした。

《第2話へ続く》