周平の『コトノハノハコ』

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『夢馬鹿』~最終話~(シューピー散文クッキング第1弾)

2022年02月25日 | シューピー散文クッキング
周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけないという、自分の首を絞めた新企画「シューピー散文クッキング」の第1弾『夢馬鹿』もついに最終話です!!

さて、今回の材料は…

「肥やし」…大さじ3杯
「商魂」…小さじ2杯
「費用」…小さじ1杯
「情け」…小さじ3杯
「地階」…大さじ2杯

実はこの時点でも全く決まっていない結末。いったいどうなる!? 幸いにも使いやすい単語が多い最終話スタート!!

『夢馬鹿』~最終話~

『力いっぱい』がついにオープン初日を迎えた。

場所は有楽町駅から国会議事堂方面にちょっと行ったところにある、地上4階・地下1階のビルの地上1階だ。
同じビルの4階には雀荘、3階にはスナックが入っていて、2階は空店舗になっている。そして地下1階には、おしゃれな雑貨カフェが近日中にオープンするらしい。

店の前には開店前から10名ほどの列が出来ていた。まずまずのスタートだ。
女性客も意外に多く、「ただのラーメン屋さんだったら一人では入りづらいけど、これなら入りやすいかも。」と言ってくださった。
とある中年太りの男性客は「ラーメンもおしゃれで体の”肥やし”だけじゃなく、目の"肥やし"にもなる。」と冗談っぽく言っていた。

雪男は準備段階から私のアイディアも聞き入れてくれて、「でももっとこうした方が売れる。」とか「これは千円超えても売れるんじゃないか。」とか、的確なアドバイスもくれて、そしてそれが見事に売上に繋がっていった。
雪男の”商魂”は本当に尊敬できるものがある。

しかし、良い状態は長くは続かなかった。
開店から3ヶ月ほど経つと客足は減少しはじめた。飽きられてしまったのだろうか。
”費用”ばかりが嵩み、このままでは経営が厳しい状況だ。
仕入れなきゃいけない材料の数も、この「シューピー散文クッキング」の1話につき5個なんて少ないと思ってしまうほどだ。
他にも光熱費、アルバイトの人件費、このブログの読者である友人が心配してくれたほどの家賃…。出費は尽きない。

「なぁ、貝塚。俺、ラーメンの新メニュー考えてきたんだ。もしこれを出しても客足が戻らなかったらあきらめよう。このままでは本当にまずい。」
雪男が険しい表情で提案してきた。

「分かった。俺の考えたメニューも最初は良かったけど、すぐに飽きられてしまって…。本当に”情け”ない…。すまない、雪男。」

「いや、そんなことあるか! 俺のアドバイスや値段設定がいけなかったのかもしれない。とりあえず俺の考えた新メニューの雪貝ラーメンを食べてみてくれ!」

「雪貝ラーメン!?」

「あぁ。俺とお前の名前から一文字ずつ取って雪貝ラーメンだ。雪に見立てた粉チーズとアサリが入ってる。」

それは本当においしかった。これでもダメならその時は店を畳む覚悟を決めようと思えたほどだった。
閉店などする事になったら家内になんて説明したら良いのだろう。
そのあとどんな地獄が待っているのか考えただけでも恐ろしい。

そして2週間後。
「雪貝ラーメン」の発売初日を迎えた。
店の前にも雪貝ラーメンがプリントされたのぼり旗を3本立てた。チラシも出した。できる事は全部やった。

開店前から雪男は厨房で仕込みを続けている。
私は店内の清掃や資材の補充をしていた。

「おい、雪男! 店の前に行列ができてるぞ!」
長い列が歩道の方まで繋がってるのが見えた。

「マジか!? それならこの店続けられるかもな。じゃあ、ちょっと列の整理をしてきてもらえるか?」

「了解!」
私は雪男に頼まれて外に出た。
長い列の中には私が退職した会社の最寄り駅で数ヶ月前に出会い、里芋を大量にくれた若い女性もいた。
なんという偶然だろう。
私は驚いたが、その女性に話しかけている余裕など無く、列の整理を始める事にした。

「うん? この列、どこが先頭なんだ?」

よく見ると、その長い列は本日オープンのおしゃれな雑貨カフェのある”地階”へと繋がっていた。

時を同じくして、私の自宅ではリビングの壁に貼られた「家内安全」と書かれたシールが剥がれ落ちていた。

《完》

『夢馬鹿』~第11話~(シューピー散文クッキング第1弾)

2022年02月07日 | シューピー散文クッキング
周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけない「シューピー散文クッキング」の第1弾『夢馬鹿』の第11話です!

さて、今回の材料は…

「フラット」…小さじ5杯
「細目(さいもく)」…大さじ5杯
「猛り立つ」…大さじ2杯
「器械」…大さじ2杯
「力いっぱい」…小さじ2杯

次回はいよいよ最終話。ちゃんと完結に向かえるか大きな鍵を握る第11話スタート!!

『夢馬鹿』~第11話~

会社に2ヵ月後の退職を告げた私は、仕事の後の時間や週末の休みを使って雪男とラーメンバーの開店に向けた準備を進めた。
不動産や内装業者とのやりとりは雪男にほぼ任せ、私は店内で使用する機械や"器械"の選定や購入を担当した。

開店までの2ヶ月間、寝る時間などほとんどなかった。
寝不足で仕事中のミスは増え、お決まりの上司からの公開説教を何度も食らった。
退職する前にクビになってもおかしくなかった。

2人とも長年の夢の実現に向けて”猛り立っ”ていた。
とても”フラット”な気持ちなんかではいられなかった。

それでも2人で集まって”細目”を決めていく話し合いの時は至って冷静だった。
アルバイトはどのくらい雇えるか、営業時間はどうするか、店名は何にするかなど、時間が経つのも忘れて真剣に話し合った。

そして、店名は『"力いっぱい"』に決定した。
ラーメンもお酒も一杯・二杯と数えるし、いっぱい食べたり呑んだりして欲しいし、何よりも我々が”力いっぱい”頑張るという意味を込めて雪男が命名した。さすがのセンスだ。

私が一番自信を持って提案した店名は『夢馬鹿』だった。
雪男は馬鹿じゃない。馬鹿なのは私だけだ。

そして…、

ついに…、

『”力いっぱい”』開店の日を迎えた。

《最終話へ続く》