本当であれば・・・河内は完治の見込みがなかったのだろう。
中谷・・・あの打撃センスを失うのは惜しい。
何回続くか知りませんが・・・やってみましょう。
カープへの夢を込めて・・・ブラックジョークと受け止めて下さいね…
平成22年10月某日
広島市南区のマツダスタジアムの球団事務所では、
あと数日に迫った、ドラフト会議に向けて最終選考に入っていた。
集まったメンバーは、松田オーナー・川端編成部長・全スカウトであった。
午前10時から始まった会議は、2時間を経過し、時計の針は12時を回った。
しかし…1位を誰にするか、決まりかねている様子で、このまま今日も無意味な会議に終わろうとしていた。
そこへ突然、職員がオーナーに伝言のメモを持参した。
オーナーはメモを持参した職員に、「なんや・・・この会議には入って来たらいけんのじゃ言うてゆうたろうが・・・」と、広島弁で不機嫌さを現した。
すると職員は・・・「すいません。わかってはいたのですが、どうしても急を要すると感じたものですから・・・」と恐縮した。
オーナーは仕方なくメモに目を通した。
(広島東洋銀行 頭取 橋本様 来社)と書かれていた。
オーナーは、会議中のスカウトたちに
「ちょっと席を外すけん・・・沢村はほんまにダメなんか連絡してみてくれ・・・」と言い残し、席をたった。
オーナー室で待つ、橋本頭取に会う前・・・オーナーは洗面所に向かった。
さっきまでの会議で、部下たちを前に威張り散らした自身の身を整えるためであった。
内心・・・「橋本さんがアポなしで出向くとは、いったい何の用事かいの~・・・」と腑に落ちないものが去来したが、どうせ・・・頭取もカープ大好き人間だから、誰かのサインでもねだりにきたのだろう・・・と いつもの軽い調子でオーナー室に向かった。
部屋に入る前・・・2回ノックしたが、(アッ・・・2回はトイレじゃ・・・部屋は3回じゃった・・・)と、遅れて1回追加した。
橋本頭取は上座に座っていて、オーナーの顔を見ると、やんわりと立ち上がり笑顔を見せた。
「やあ・・・松田さん、突然にお邪魔してすいません。お忙しい会議中とお聞きしましたのに、無理を言いまして、本当に申し訳ない・・・」
オーナーは・・・「いやいや・・・とんでもない。私こそ、弊社がいつも大変お世話になりまして、ありがとうございます。」と言葉を返した。
「今年は野村監督初年度、残念でしたね…」
「本当にそうです。もう少し期待したんですが、監督一年目だから仕方ないと言えば仕方ないんですがね…」
「しかし…敗因の分析はされたんですか?」
「ええ しました。」
「どのように?」
「やはり投手力の整備ですね。野球は投手ですから・・・」
「なるほど・・・日本シリーズに出る中日やロッテ、投手を含めた守りが確かに良かったですね」
「そうです。うちも大竹と永川やシュルツが復帰すれば、戦えます」
「そうですか・・・ところで黒田はどうなりますか?」
「さあ・・・現時点では何とも言えません。黒田については本部長の鈴木に任せています」
「一説には黒田獲得資金は複数年契約で、20億とか噂されてますが、どうですか?」
「それは何とも言えません。ただ自宅は市内にありますし、日本に帰るのであれば広島と言ってくれてますので・・・」
「そうなれば、来季のカープは明るいですね。」
「はい・・・そう思います」
その様なたわいもない会話を終えると、橋本頭取は出されたお茶に口をつけた。
そして一呼吸おき、オーナーの目を見つめ言葉を切りだした。
「実はオーナー・・・今日お邪魔したのは、今後のカープのあり方です。もっと詳しく言えば、球団の存続問題です。いま色々とお話をお聞きする中で、今後のカープ・・・球団の進むべき道といいましょうか、あなたが多くの支援して下さるファンの皆さんに、独立採算の球団として明確なビジョンを示してほしい。
わが行としても支援している限り、今後の事業計画と言いましょうか、チーム強化策を具体的に示して頂けるのであれば、潤沢な資金をカープ球団に斡旋できる。
株主総会でも、融資先として広島カープに多額な資金を投入する理由として、広島の活力を創出し、市民に希望と喜びを還元するという意味であれば、文句は出ないと思います。
広島には、カープを始め・・・サンフレッチェ、広島交響楽団と、スポーツと文化で市民や県民の潤いなるもの全てに活力を与える。それが広島が元気になる源でなかろうかと思うのですが、いかがですか・・・?」
オーナーは、恐縮するばかりで、声が出なかった。
「いかがですか・・・オーナー・・・いや 松田さん・・・」
オーナーは困惑した。
ナゼなら・・・自分一人で、この様な大局的な決断をしたことがなかったから・・・
つづく