カープへの夢を込めて・・・ブラックジョークと受け止めて下さいね…
少し長い文章ですが、お許しのほど・・・
広島東洋銀行の橋本頭取が、カープ球団を訪れ、オーナーに今後の事業計画を求めたのは、創造開発のCEO田山の願いでもあった。
田山の願い・・・それはカープを愛する全カープファンの願い。
平成3年にリーグ優勝を果たしたカープは、20年の間、優勝から見放されている。
その間、プロ野球界は大きな環境の変化を強いられてきた。
FA制度の導入やドラフト改革・・・
セパの交流戦や近鉄とオリックスの合併問題。
その中で特に、新興企業による球界再編は、政治家や財界トップを巻き込み、広島カープも身売りの対象になったのは事実である。
当時田山と橋本は、在京広島県人会の山下からの連絡に驚いた。
山下からの電話は、「ライブノアの堀田が、広島カープの買収を仕掛けている。大物政治家が暗躍しており、ひょっとして、ひょっとするかもしれない・・・」との内容であった。
すぐに田山は、旧知の政治家に連絡を入れた。
すると驚く答えが返ってきた。
政治家の亀田は、「田山さん、困ったもんじゃ。この話は事実じゃ。総理の泉田の側近である武田が、堀田と連携している。ワシの選挙でも、この三人は結託したくらいの関係ですわい。何を仕掛けてくるのか、わかったもんじゃない。ワシの方はこれから、手を打ってみます。いくら何でも広島カープを堀田のような者に、思うようにさせんようやりますから、心配せんでください。」と言った。
亀田は、先の衆議院選挙で郵政民営化に反対をした。
泉田総理は、かねてからの悲願である郵政を民営化することに命がけであった。
同じ派閥に属する亀田と泉田は、昔から呼吸が合わなかった。
義理人情で訴える亀田に対して、泉田は人に対して時には冷酷に接し、側近でも簡単に見切る対応をしていた。
当然・・・水と油である。
亀田が地盤とした広島選挙区は、山間部が大票田で、郵政関係の票は大変重要な組織票であった。郵政民営化に反対した大半の議員も同じであった。
しかし、泉田は・・・都会を地盤とし、郵政を改革するのが自分の使命と突っ走り、側近の声も聞き入れない状況であった。
亀田は離党に走り、新党を立ち上げ、平成17年の解散総選挙に挑んだ。
泉田はその選挙で、反対派議員全てに刺客を送り込んだ。
それこそ泉田の性格が、確実に見えた時でもあった。
亀田の根強い地盤にも、当時飛ぶ鳥を落とす勢いで、知名度抜群のライブノアの堀田を送り込んだ。
過去の広島選挙区は、マスコミが取り上げる面白みに欠ける戦いであったが、このときばかりは、全国でも注目選挙区として、マスコミは連日広島東部に乗り込み、報道合戦を行い続けた。
結果・・・今までにないドブ板選挙を強いられ、過去の実績を訴えた現職の亀田が再選を果たす。
(その翌年の平成18年に、ライフノアの堀田は出資法違反で逮捕された。)
亀田は選挙の因縁もあり、堀田や武田を、これ以上思い通りにさせるわけは行かないと、自分の人脈を駆使し、フルに情報をかき集めた。
数日後・・・広島カープ買収に動いた黒幕を突き止めた。
信憑性ある情報によると、日本経済界トップの奥谷と堀田、民政党幹事長の武田が糸を引いているとのことであった。
そして、某球団オーナーが、一部介入し、手を結ぼうとしていることもわかった。
亀田は早速、プロ野球界のドンと呼ばれる渡部に電話した。
渡部は堀田を毛嫌いしており、以前プロ野球に参入しようとした時も、マスコミに批判を展開し、断念させたこともあった。
亀田から相談を受けた渡部は、亀田の目の前からカープ球団の松田に連絡を取った。
「あんた、ライフノアの堀田と接触を持ったのかね・・・」
松田は、いきなり単刀直入に切り出す渡部の話が理解できなかった。
「いえ・・・堀田氏とは一面識もございませんが・・・」
渡部は、「あっそうかね。実はいま、亀田代議士がここにおるのだが、どうも広島カープを買収する目的で、堀田と経済団体の奥谷や民政党の武田が暗躍しているらしい。」
松田は驚き、声も出なかった。
渡部は、「あんたが身売りするのであれば勝手だが、知らんとなれば話は別だ。松田さん至急上京してくれんかね。この話は早急に対策を取らんといけん。他のことなら話は別だが、球界をまぜくる様な話であれば、ワシも知らん顔は出来ない。」
松田は全ての予定をキャンセルし、上京した。
渡部は野球界だけでなく、財界や政界にも睨みが利く。
新聞記者時代には、当時の総理であった大野伴陸の側近とも言われ、正解の表裏を知り尽くした男である。
時には物議を醸す発言で、賛否両論の評価も下されるが、筋を通さないことには、自分の損得を考えず突き進む性格である。
上京した松田は、渡部と相対して緊張していた。
直接挨拶を交わしたことは、何回もあったが、こうして大切な話をすることは初めてであった。
渡部は、「お父さんとは数回飲んで話したことはあるが、あんたとは初めてだな」と切り出した。
松田は緊張し、苦笑いに近い歩みしか返せなかった。
渡部は切り出した。
「ところで買収の件だが、あんたはどうする気だね・・・」
松田は口を開いた。
「私としましても、全くの寝耳に水のような話でして、何と申していいものか・・・」
渡部は言った。
「あんた、甘いよ。ワシが電話したあと、状況把握に走ったのか?まさかここに来るまで、何もせずにワシに会いに来たのか?そうであれば、あんたにカープを運営する資格はない。
いっそのこと、身売りしたほうが良いかも知れんな・・・」
松田は背中に冷や汗が走るのを感じた。
有無の声も出ない。
渡部には、その状況が手に取るようにわかった。
「松田さん、ワシはプロ野球というものは、娯楽の一部と思うんじゃよ。大衆を魅了しながら、勝った負けたで一喜一憂さし、時にはとてつもない夢を魅せる。まさしくエンターテイメント。巨人は他球団から主力を引き抜き、大型戦力を完備すると毎年批判される。ドラフトでも逆指名を導入し、他球団を骨抜きにするのではないかと言われる。それらを陰謀のように画策しているのは、ワシだと・・・
しかしね、松田さん。こんなことは何時までも続くはずがない。やがてプロ野球は、正しい道へ歩を進める。その時はワシもお払い箱よ・・・
でも、今回の件は見過ごしならん。あの堀田ごときにプロ野球の運営は出来るはずもない。ワシの調べた限りの情報では、あのライフ何とかいう会社は、プロ野球に参入できる金などない。もし参入しても3年後には身売りする。結局一時しのぎのおもちゃくらいにしか、アイツは考えておらんはずじゃ。それを奥谷や武田が、かむのが許せんのじゃ」
松田はただ頭を下げるのみであった。
事前に、松田の人となりを調べていた渡部だが、ここまで自分のビジョンを語れない男とは正直、思わなかった。渡部は結論を自分から話した。そうでもしないと、時間の無駄に思えた。
「松田さん。この度の件はワシに一任してくれんかね。悪いようにはせん。あんたがカープを運営するのが一番だ。どうかね・・・」
松田は、渡部に一任した。
部屋を後にする松田の後姿を見て、渡部は思った。
(広島は長いこと優勝から遠ざかっている。そして大きな改革もしない。あの男は、ワシの前じゃおとなしいが、球団内じゃ恐らく、裸の王様じゃろう。あれじゃ・・・身売りした方が本当はいいかもしれん。やる気のある人間が球団経営すれば、カープは強くなる。しかし・・・手放さんじゃろう。球団オーナーしか能がない男だから・・・)
その後、渡部の政治力で、広島カープ身売りの話はご破算になった。
渡部はマスコミに情報を流し、堀田や奥谷、武田の動きを封じ込めた。
奥谷も武田も、マスコミの取材に否定したため、堀田は後ろ盾を失った。
亀田から全ての報告を受けた、創造開発のCEO田山や広島東洋銀行の頭取である橋本は安堵した。
カープ球団事務所で、橋本から結論を求められた松田は、じくじたる思いであった。
答えを出さない松田に、橋本は言った。
「カープを身売りする考えはありますか?」
松田は驚いた。
「それは・・・100%ないです」
橋本は、「ならば、球団としての方向性は・・・?」
松田は迷った。いつも繰り返し発言している、自前で選手を育てる。FAには参入しない。監督もコーチもOBからの登用・・・とは、言えない。これらより違った答えを求められている。何をどう答えていいのか?正直、窮していた。
橋本は、手に取るようにわかる松田の態度にイラついた。
「ハッキリ言いましょう。オーナーを交代してください。いや・・・あなたは球団の全権を放棄し、カープから去ってください。」
それは、いまの今まで・・・誰からも言われたことのない、衝撃な言葉であった。