幕末気象台

おりにふれて、幕末の日々の天気やエピソードを紹介します。

文久元年十月五日(新暦11月7日)の大風

2021-04-04 15:34:31 | Weblog
前回に続きまして、文久元年十月五日を調べてまいりたいと存じます。
【日本の気象史料】に江戸大風雨とありますので、台風のはっきりした経路が辿れればいいのですが
ともあれ、十月四日より荒天の記録を見て参りましょう。

文久元年 十月四日   晴、曇、雨天【鹿児島県高山】曇、時雨【小倉】午後陰雨【蓮池】
             晴日出頃ゆる小、晩方陰る、日暮て後又雨ふり出ス、夜九ツ頃ゆる小ノ中、七ツ頃又ゆる小、夜中大風雨【土佐市】曇天夜雨降【伊予松山】
             曇、夕雨、、少々雨、、夜雨【萩】曇、池に浪立て【広島】
             天気雨気有之、夕方雨降り【大坂】 曇申刻より雨【池田】 朝之内晴、昼前より少々雨【京都】 

文久元年 十月五日  雨、晴天【高山】雨、虹西上【蓮池】微雨【小倉】
             風雨烈し、家根を取るる藁葺多し、七ツ頃漸く雨やミ虹東北ニ見ゆる、夜月見へかぬる【土佐市】 風雨【福島濱】 雨降五時雷鳴有之夜風吹、当日庚申、雨やミし事も有之 【伊予松山】
              午下雨雷、晩霎時晴、夜瀟々【鳥居日録】【丸亀】
             雨東風【萩】 雨天也【美祢】  夜前より大雨【広島】 晴天【鳥取】 大雨降【揖保川】
             雨頻ニ降り淀川満水也【大坂】朝より大風大雨【木津】雨未刻より大夕立雨雷鳴【池田】雨降七ツ半時雷鳴夜同断四ツ前堀川一はい之水ニ候事【京都】甚雨雷鳴【京都】
             大雨【紀州田辺】猛雨、昼後風烈敷、前川一時満水【松坂】風雨【豊橋】 朝より東風荒る也、雲登る、、昼後雨大ぶり、【豊田】夕方大風雨【浜松】 
             しぐれ、、夕方より夜中大雨ふり【小諸】大風フク【沼田】
             辰巳風夜ニ入吹降大荒【新島】陰天、節々雨、夜ニ入風雨強シ【生麦】
             曇 夕刻より雨 戌の刻過より大風雨【江戸】曇、、暖気也、、庚申、、夜四時頃より大風雨【江戸】曇天、夕刻より風出、夜嵐ニ成【江戸】朝くもり昼過より雨ふり出し夜五ツ頃より風雨明ケ方止ル【世田谷】              
             村時雨、、夜六ツ半時より大風雨終夜嵐玉川出水【多摩】雨入夜大嵐【国立】雨ふり段々多くふり来る、くれ合より雨 大くふり、南風吹出し、次第ニ大風大雨にて雷鳴も少し鳴ける、夜八ツ時頃は雨風や          
             み、夜 明方は上天気にはれける【青梅】 橋板流れる【あきる野】 雨、夜風雨烈し【武蔵村山】 曇、八ツ半比小雨、南大風夜大風【流山】 曇天北東風【銚子】55度、庚申、立秋、薄くもり、終日曇空にて、          
             折々ほろほろ雨ふり、夕方より南風吹出ス、六ツ半時より大南風吹出 ス、終夜雨風殊之外つよし、明方迄風つよし【水戸】 今夜大風吹【つくばみらい市】雨、、夜ニ入強雨出水【今市】
             曇午刻前より雨、夜大雨川水大に増【中之条】晴、六ツ時過ヨリ雨、八ツ時過ヨリ夜中大雨【日光】                                  
             曇八ツ過小村雨【二本松】 朝より曇り暖気夕より雨夜四ツ頃より南時化模様【相馬】七ツ過雨ふり、此晩同断【花巻市】
            時折雨【山形】 天気よし、大風、関口より雨降、、、薬師様鳥居倒るる【院内】 曇【田代】曇 今暁丑の刻頃より雨時々降 夜ニ入同段 【弘前】雨降【大畑】
             曇天【日鑑記】【厚岸】
      

文久元年 10月6日  晴天【厚岸】曇 今暁丑の刻頃より雨時々降 夜ニ入同段 【弘前】朝より雨暖気四ツ頃より止メ同四ツ八分頃地震至而永し夕八ツ頃より晴【相馬】74度、中川水増、快晴南風吹、夕方迄風つよし暖気なり【水   
            戸】晴天、南大風、、暖気也、、夜風穏也 【江戸】晩の七時から朝まで激しい嵐。西から、南から、南西からの風、温度計は一挙に華氏73度に上昇した。最低気温は46度。昼には81度の高い気温を示した【江戸】    
            西風ニ成四ツ時分より天気【新島島役所日記】雨天北風 昨夜烈風雨【銚子】晴、、今暁7時大川、、5合【豊橋】晴天【紀州田辺】 晴、、今日朝より終日大風、夜中寒し【真覚寺日記】【土佐市】曇【萩】    
            曇、晴天【高山】

となっております。   
10月14日の台風にお関係のありそうな記事を集めてみますと、九州から四国、近畿にかけて時々雨降となっていて、台風のスパイラルバンドの影響だと思われます。広島では池が波立つなど、風も強くなっている様子です。高知県の土佐氏では夜中の大風雨となり、台風が接近したことが分かります。
15日になりますと、台風による被害が発生しております。
                  風雨烈し、家根を取るる藁葺多し【土佐市】
                  雨頻ニ降り淀川満水也【大坂】
                橋板流れる【儀三郎日記】【あきる野】
                  薬師様鳥居倒るる【門屋養安】【院内】
             夜六ツ半時より大風雨終夜嵐玉川出水【多摩】
などです。台風の進路を予想してみますと、大風、大雨、雷鳴、大水の記録は四国、近畿、東海、関東、南東北の太平洋側に分布しており、特別な荒天の記録がない地域は九州、と日本海側の山陰、北陸、東北及び北海道全域です。
台風のスピ-ドは土佐市で夜中大風雨とあり、江戸では戌の刻過ぎ(午後7時20分過頃)、晩の7時、四つ時頃(午後九時二十二分頃)と大風雨の始まりの記述がありますが、夜中を午前零時、江戸の強風を午後八時頃からとして、
土佐市と東京の距離を600kmとしますと600キロ÷8時間で、台風のスピ-ドは凡そ75キロメ-トル毎時となります。

結論を申し上げますと、文久元年十月五日の台風は、四国の高知県をかすめ、太平洋上を毎時約75キロメ-トルで西進し関東に接近したのち太平洋を東方に抜けていったのではないかと思われます。
台風は南からの空気を引き込み翌十月六日には、11月8日にもかかわらず江戸の気温が約摂氏28度まで上昇しました。
ぺリカンもこの暖気に乗ってやって来たかもしれません。
コメント (1)
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